みんなだいすきとりぷとふぁん どうにも気分がすぐれない。それは気圧の影響なのか溜まりがちだった疲労の影響なのか、あるいは別の何かなのか。思いつく原因はいくつかあるけれど、栓なきことだと天はかぶりを振った。重い体を叱咤して身を起こす。ベッドに素足をつける。ぺたぺたと肌が跳ねる音をさせながらカーテンを開け放った。ついでに窓を開ければ湿気を帯びた風がのそりと部屋に入り込んだ。頰を撫でるそれに天は少しばかり顔を顰めた。
さりとて天候に文句をつけても意味がない。溜息ひとつで不満を散らすとおもむろに寝巻きに手を掛けた。
「……あれ、モン天がいない」
着替え終わったところで枕元へ視線を投げればヘソ天している筈のモン天がいない。着替えている間にリビングに向かったのだろうか。
珍しい、と思いつつ脱いだばかりの寝巻きを手に取って部屋を後にする。
そうして脱衣籠に寝巻きを入れてキッチンに向かえば、ワークトップの上に見慣れた小さないきものがいることに気づく。先にキッチンに降りてきていたらしい。
「おはよう、モン天」
挨拶すれば、ぴん! と耳と尻尾を伸ばしてモン天が勢いよく振り返る。その手、もとい腕にはバナナが一本。お腹が空いていたのだろうか。
「モン天、お腹空いたの? 剥いてあげるから貸して?」
提案すればぷるぷると首を振った。これは果たして何に対してのノーなのだろうか。
ふむ、と天が考え込む仕草を見せると、モン天はバナナを差し出してきた。空腹ではあるが自分で剥くのは無理だと判断したのだろうか。
バナナを受け取り、小ぶりな皿を用意する。皮を剥いて調理用鋏を片手に一口サイズにカットしていく。ちょきん。ちょきん。やがて一本まるまる一口サイズにし終えると小ぶりな皿の上にバナナがこんもりと鎮座していた。ちょっとお皿のサイズを間違えたかな、と反省しつつ爪楊枝を一本挿してやる。
「どうぞ、召し上がれ」
大人しくワークトップの上で待っていたモン天に差し出せば、爪楊枝を手に取った。先端についたバナナを見て瞳を輝かせている。こういう素直な反応が可愛くて天は調理用鋏とバナナの皮を処理しながら頰を緩ませた。
調理用鋏を水切り籠に掛けたところでモン天がまだバナナを食べていないことに気づく。食いしん坊なモン天は大体バキュームかブラックホールよろしく平らげているのに、と天が目を丸くすると、その視線に気づいたモン天がニコニコしながら爪楊枝を天に向けてきた。正確にはその先についたバナナを。
「ボクに分けてくれるの?」
こくこくと頷くモン天に天は目を瞬かせた。なんなら全身で小ぶりな皿をぐいぐいと押してくる。もしや。
「このバナナ、キミが食べたいんじゃなくてボクに食べさせたかったの?」
百点満点の笑顔が返ってきた。そういうことらしい。