センチメンタル・ブレイクの夜 学園の中庭。人目につくところの代名詞みたいな場所だけれど、とっぷり更けた夜では一転して静寂だけが占める。たまにゴーストが出たりするが、それを差し引いても一人になりたい日にはうってつけの場所なのだ。
そんな宵闇に紛れる中庭の中でも一際暗い場所にひっそりとベンチがある。背の高い木の下にあるので影が濃く、人によっては不気味という印象を抱くだろう。すっかりに慣れた私だってちょっと怖いなという気持ちが湧くことはある。
それでもぽっかりと口を開けたように佇む闇に心安らぐ夜がある。事実、少しの不安が心を舐めたけれど、それ以上に安堵が広がっていた。誰にも干渉されない、私だけの世界。
ベンチに身を預け、ぼんやりと空を見上げる。今や闇色に染まった葉の隙間からうっすら見えた薄墨色の上でチラチラと屑星が淡く瞬いている。丁度木が覆い隠しているのか、月は見えなかった。
「ヒイィッ!? だ、だだだ誰!?」
目を伏せて身を預けていた静謐の帳が引き裂かれ、のっそりと身を起こす。うすぼんやり発光している面積の広いサファイアブルーなどこの学園には一人しかいない。
「こんばんは、イデア先輩。いい夜ですね」
「いやこんな時間に何してんの!? びっくりしすぎて口から心臓が飛び出すかと思ったんですけど!」
「イデア先輩、スマホのインカメ使います?」