つまりそういう イデア先輩は意外と手先とケアがマメだと気づいたのは最近だ。毎日ではないにしても二、三日に一度は爪を整えている。理由を聞いたら。
「大事なオルトのパーツを触るのに爪伸ばしっぱなしとかありえないんだが……爪先がコードに引っ掛かって万が一にも傷がつくとか無理すぎ」
陰気にそんな返答をもらった。納得するしかなかった。ついでに「爪伸びるとキーボードも叩きづらいし」と補足されたので尚のこと。
なので爪切り片手に軽快な音を立てている姿は割と見かける。けど、最近はそこに加えてハンドクリームまで増えているのでまたしても首を捻る羽目になってしまった。しかもそっちは恐らくもっと高頻度で。いつの間にか机の上に常駐しているハンドクリームが大容量のボトルサイズになって新登場してた時は目を疑った。顔面のケアは絶無のくせに。そのくせえげつない美肌してるくせに。世の中って不平等だし不条理だよね。
「そういえばハンドクリーム習慣っていつからあったんですか?」
「え? うーん………結構前から? 具体的な日付までは流石に覚えてないよ」
「だから最近の先輩の手はもちすべしてるのか……なんだって突然?」
「エッ」
ごく普通の質問なのにイデア先輩は目に見えて動揺した。うろうろと落ち着きなく視線を辺りに彷徨わせ。ぎこちなく顔ごと視線を逸らされ。
「……………………ちょっとでも君を傷つけるリスクを下げるため」
聞こえるか聞こえないかギリギリの声量で告げられたそれに私は反応するのを忘れて固まってしまった。じわじわと頬と耳に熱が溜まっていく。なるほど。なるほど、なるほど。