綺麗なものナルニアが汚れた手を綺麗に洗い、喉が渇いたと一言告げると近くに居た署員はナルニアに伺いをたて尋問室を出る。
尋問室に残る汚れを屈み眺めていたフェンリルはよくこれで死ななかったもんだと立ち上がりナルニアと視線を合わせた。
「相変わらず容赦ないっすね~ナルニアさん」
「容赦?必要あるのか?」
何を言っているのだと首を傾げたナルニアにフェンリルは苦笑を漏らす。
「ナルニアはそれで良いんだ」
「アンリ。何を持ってるんだ?」
「押収物だ。かなり多くの貴金属だ」
ほらと見せてきた箱の中にはありとあらゆる貴金属に宝石が輝き詰め込まれていた。
「うわ~すっごい詰められてるっすね~目チカチカしそう」
「そう思うなら見るな」
「あっこれナルニアさんみたいな色っすね~こっちはアンリさん?」
「そんな物に例えられても嬉しくない」
興味なさげに二人の横をすり抜けたナルニアに、飲み物の入ったカップを持ってきた署員が頭を下げた。カップを受け取り、近くの椅子に座ったナルニアは本当に興味がないと言わんばかりに喉を潤し始めた。
こんなに綺麗なのにとわざと口を尖らせたフェンリルに、その態度が許される年齢はとっくに過ぎているだろうとアンリはため息をつく。ナルニアに飲み物を渡した署員の手が空いた事を確認するとアンリは押収物の入った箱を渡し、管理庫へ運ぶよう伝える。去っていく署員を見送る素振りも見せず、早く部屋へ戻って欲しいのだが?とナルニアを見るアンリの表情にフェンリルは笑いながらたまには良いではないかと口にした。
「んで、ナルニアさんにとっての綺麗な物ってなんすか?」
「何だ急に」
「いやーだってあの宝石でもそんな物って言う位っすから。他に綺麗って思ってる物あるんでしょ?」
「ナルニアのそう言う話しは私も聞いたことはないな」
珍しく話しにのったアンリにナルニアは傾けていたカップを戻す。喉を上下させると一息つき真面目な表情のまま口を開いた。
「カルエゴ」
「は?」
「はい?」
突然出た弟の名前に二人は揃って声をあげた。
「カルエゴは美しいし可愛いしいい子だ」
「いやいや弟さんじゃないっすか」
だからなんだと言わんばかりの視線にアンリはもう話すのを止めておけと言いたいながらも、止めたところでこれは止まらないだろうと経験から知っていた。
「知らないだろう?カルエゴは姿もだが、魔力もとても綺麗だと言うことを。あの子の魔力は我が一族の中でも一番美しいものだ。それに何より昔から変わらず私に向ける瞳が美しくて可愛らしいんだ。あれより美しいものは見たことがない」
普段口数の多くないナルニアからすらすらと流れ出る言葉に聞いた二人は数度瞬きを繰り返した。
「それにあの体。見たことがなくて当たり前だろうが、全身整えられた無駄も余分もない筋肉。肌は少し冷たいんだ。けど、一度触れたら真っ赤になって止まってしまってね。それがまた可愛かった」
二人は逆にカルエゴに同情したくなると言う思いに苛まれていく。
「あの子は私だけの宝物だから。お前達にも見せてあげない」
「娘の学校の教師なので、知っているし会っているが」
「そうか……アンリは、まぁ仕方ない」
「俺は?」
「だめだ」
「何でっすか~俺もナルニアさん自慢の弟さん見てみたいっすよ~」
「お前が見に行くと言うならカルエゴは絶対に外には出さない。私だけの元で大事に育てる。簡単に関われる相手だと思うな」
目が笑っていないナルニアの言葉に、これは本気だろうとアンリはブリッジを押し上げる。
ただでさえ悪魔学校で他の教師や生徒と関わっている事実が腹立たしくもあるのにと言う呟くような言葉を聞かなかった事にしようと息をつく。
「ナルニアさんそんなんでよくウザがられないっすね」
「カルエゴがそんな反応する訳が無いだろう」
この悪魔には何を言っても無駄かもしれないとフェンリルも口を噤んだ。
「っくしゅ……んん、何だ」
「風邪?カルエゴくん」
「いや……何か嫌な予感がした」
「予感?悪寒?」
「…………どっちもだな」
「不吉なのやめてね?」
「俺のせいではないだろう」
「カルエゴくんの嫌な予感って当たりそうだから」
「シチロウが言うと本当に当たりそうだからやめてくれ」