罰幼い頃の事だ。
「私と約束をしてくれるか?」
「やくそく?」
「そう。私との約束は破ってはいけないよ?破ったら私はお前に罰を与えなくてはいけなくなる」
兄上はそう言って俺の手をとり指先へキスをした。
「私はお前を傷付けたくは無いからね」
「はいっ」
幼い頃の無知で世界の殆どが兄上で埋まっていたあの頃の俺はただ笑って頷いた。
成長した俺はそんな頃の話し等記憶の片隅へと追いやっていて、兄上が未だにそれを心に秘めていたことを気付きもしなかった。
「ぐっ、ぁ」
「約束しただろう?カルエゴ」
不意に首を絞められ、簡単に持ち上げられた体。息が出来ず、兄上の手を掴めてもうまく抵抗が出来ない。と言うより力業で兄上に勝てた事は今までだって無かったのだから当然とも言える。
「約束を破ったら罰を与えると」
「っ……ぁっく」
目の前が白くなりだした瞬間兄上の手からは力が抜け、地面へと体は落とされた。えずきそうになるのを堪え息を整えようとした俺の視界は兄上の影で暗く。苦しさが消えない首に触れた手をとられた。
「私はお前の奏でる音が気に入っているんだがな」
目元が僅かに細められた。いつもの穏やかな時の兄上と同じ目で、込められた力は本来とは逆の方へと指を折り曲げた。
外耳と体内に響く骨の曲がった音。痛みであげそうになる声を無理矢理押し込めた。
声をあげるな。苦しんだ表情を見せるな。この悪魔は相手に苦痛を与える事を生業にしている悪魔だと、自分に言い聞かせ歯を食い縛った。
「お前が破った約束の分の罰は全て受けて貰わないといけないね?」
痛み等我慢しろ。食い縛れ。抵抗しろ。兄上との道は違えたのだ。約束等と言う言葉に惑わされるな。
「イルマにはもう二度と近付くな」
「……それは、出来ない約束です」
俺の指を掴んだ兄上の手に再び力が入ったその瞬間、体に巻き付いた蔓と視界の端に映った赤に何故か心が安堵した。