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    りき色

    置き場

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    りき色

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    セラフ、長尾、ぽんちゃん、甲斐田

    後輩のバイト先「待てっおいっ待てって!!」
    昼過ぎの太陽の光が届かない、狭い裏路地に若い男の声が響く。
    180はあるだろう身体を器用に滑らすように窮屈な道を走り抜く。
    だが、徐々にスピードを落とし足を止める。
    目の前にはビルの壁と、その前に座り込む影。
    「よーし。行き止まりだな」
    その影に目線を合わせるように若い男が屈み右手に持っていた物の袋を破る。
    その袋に反応したのか目の前の影がのそりと動き男の右手に近寄る。
    「あーやっぱりお腹すいてるのかよ。ほら」
    そう言って男は目の前のクリーム色をして赤色の首輪を付けた猫へチュールを差し出す。
    すると猫は待ってましたとばかりにペロペロと舐め始めた。
    「えーと…クリーム色の身体に赤色の首輪。目の色は水色で…お前、メレか?」
    数時間前に見た猫の写真を思い出しながら名前を言うと「にゃー」と猫…メレが鳴いた。
    「おー。良かった。良かった。このまま見つからないと思ったよ」
    よし、事務所に帰るか。とチュールを舐めたままのメレを抱え、あっと思い出す。
    「しまった。籠、放り出したままだわ」
    依頼主から預かった籠は裏路地に居たメレを見つけて焦りのあまり投げ出したのだ。
    「あ〜壊れてないかな?」
    身体を反対に向け元の大通りへ向かいながら腕の中のメレへ話しかける。メレはチュールに飽きたのか、くあっと欠伸をした。
    油で塗れた室外機、いつから放置されているか分からない青色のゴミ袋、割れた鉢植え等を器用に避けて、『探してきます』と書かれたボロボロのチラシを踏んずけて歩く。
    すると今まで男の腕に顔を擦り付けていたメレが顔をあげ「にゃ」と鳴いた。
    「ん?どうした?」
    メレの鳴き声に立ち止まるとメレはモゾモゾと動き腕から地面に降りて左の細い脇道へ入っていった。
    「え…えぇ??」
    残された男は困惑しながら脇道を覗く。
    そこは大通りへの道では無く、自分が通れるかどうか分からないぐらい細い、建物と建物の間にある脇道だ。
    「ま、また振り出しか??せっかく凪ちゃんにマタタビの匂いふりかけてもらったのに…」
    と任務に出かける前に何故か笑顔だった上司の顔を思い出し、肩を落とすが「にゃー」とか細い鳴き声が聞こえ、顔をあげる。
    細い脇道に180cm越えの身体を横にして無理やり通る。
    つま先立ちで通った先は小さな空き地のような場所だった。
    壊れたロードバイクや潰れたタイヤ。比較的新しい空き缶を見るにここは誰か達の溜まり場なのかもしれない。
    「にゃー」と、メレも相変わらず座りながらないている。
    だが、男の目を引き付けたのはメレではなく、真ん中に横たわった人物だった。
    黒に近い紺色の長い髪を結び、黒い制服の様な服を着、右手に二本の刀を持っている。
    それは男が所属している会社の先輩だった。
    「えっ…長尾、先輩?」
    困惑した男、セラフ・ダズルガーデンの声に答えたのは「にゃー」というメレの声だけだった。



    「…お引き取り下さい」
    「ええっ!それは無いでしょ寧さん!!」
    可愛らしいメモ帳や石のブレスレット。普段目につく雑貨から人形の涙や蜘蛛の糸で編んだスカーフなど。本当か嘘か分からない物まで売っているこのお店は先斗寧のバイト先である、異界と現代を繋ぐ雑貨屋だ。
    この店の扉の先は色んな場所と結んでくれるため、望んでこの店に訪れることは殆ど無い。ふっと何かに誘われていると思うといつの間にかこの店の扉の前に佇んでいるのだ。しかも、一度訪れるともう一回店に行くことは無いらしい。なのに…なのに…
    「なんでお前が来れんの???」
    「いやー。そういえば何処かの誰かさんからこの近くに寧さんのバイト先があるって聞いたの思い出してさ〜」
    「この店は探そうとすると見つからないのに…」
    「勘でこれた」
    「うぅ」
    なのに、偶にこう顔見知りが訪れるのだ。しかも、勘で。
    「…前も勘で来た人が居た…」
    「えっ、誰」
    「戌亥さん…」
    「わぁ」
    素敵なお店やね〜。と、ソファに座りお茶を飲みながらそう感想を呟いた先輩を思い出す。
    「…で?その後ろに背負っているのはもしかして??」
    「もしかして〜??」
    「焦らすなや」
    ガッと足を蹴ると痛っ痛い!と上から言葉が飛んでくる。
    「やぁ〜、仕事中に倒れてるの見つけてさ。流石に手に猫の籠持って背負ったまま事務所に戻るのはキツいんで」
    猫?とセラフの手元を見ると籠が見えた。
    「えっ!猫、居るの??にゃんこ??」
    バッと手元から籠を取り上に掲げると「にゃー」という猫の鳴き声が聞こえた。
    「猫!!!」
    「おーい、このソファに長尾先輩寝かすよ〜?」
    先斗の声を無視し、店の奥のソファまで進む。
    「あぁ。ええよ」
    先斗は猫の入った籠を持ちながらくるっと一回転して言う。
    先斗の声を聞きセラフはよいしょっと革張りのソファに長尾を寝かした。
    「しっかしなんでこの人はあんな所に寝っ転がってたのかな」
    「え?何処に居たの?」
    「ビルとビルの間の空き地」
    「えぇ…?」
    先斗は困惑しながらソファに寝かされた長尾を見る。
    いつも綺麗に結われている髪はボサボサで、黒い服も所々解れている。
    「…チンピラにでも絡まれたんかこの人は」
    「ふっ」
    思ったことをポツリと呟けば隣に居たセラフが吹き出す。
    「チン…チンピラって」
    「えっおかしい?何がおかしい??」
    「いや、ごめん、ごめん」
    謝ったが、まだセラフは先斗の言葉にツボっているようだ。
    「おまっお前なぁ!!」
    「あはっは」
    セラフは思わず声をあげて笑う。
    その姿を見て先斗は、セラフの足をまた蹴った。



    ポロン
    と音が鳴り桜魔皇国にある商店街で買い物をしていた甲斐田晴は歩みを止める。
    「…discordの通知?誰からだ?」
    通知の音はいつもこっちで使っている古い携帯からではなく、現世使いのスマホからだ。
    買い物鞄の小さなポケットからスマホを出し通知を確認すると後輩から『今、暇ですか?』というメッセージがきていた。
    「暇ですよ。っと」
    声に出しながらチャットを打ち返すとポロンと返事が返ってきた。

    『私のバイト先の雑貨屋に長尾先輩が居るのですが、回収に来てもらいませんか?』

    「…え?長尾?」
    思わず声に出る。たしか彼奴は今、魔の討伐の仕事に出ているのではないか?
    それが何故後輩のバイト先に居るのだろうか。

    『なんで長尾が居るの?』
    『セラフ・ダズルガーデンが仕事中に見つけて拾って来たんです』

    「セラフ…あぁ。彼か」
    全体的に赤い後輩を思い浮かべる。この間の案件で初めて顔を合わせた時、噂通り身長がでかかった。
    「といか彼奴、今現世に居るのか?」
    分からないことだらけだが、とりあえず返事を返す。

    『分かった。回収しに行くよ』
    『分かりました。先輩って今どちらにいますか?』
    『桜魔皇国。一旦そっちに行かないとだから少し時間かかるかも』
    『ああ。大丈夫ですよ』

    「ん?」
    大丈夫。とはどういう意味だろうか。
    疑問に思っていると続けてチャットが来た。

    『扉を探してください。甲斐田先輩なら出来ます』

    「…扉?」
    扉を探せとはどういう意味だろうか。
    『分かったよ』と返事をし、スマホから顔をあげ辺りを見回す。
    周りは八百屋や骨董屋。古着屋等の店があり、相も変わらず賑わっている。
    とりあえず探すかとスマホを鞄の中に入れ歩き始める。
    おばさん達の何でもない会話や駄菓子屋へ向かう子供達の声。威勢の良い肉屋の店主の大声などをBGMにしながら昼間の商店街を歩く。
    平和だな。なんて呑気に思っているとふわっと桜の花の匂いがして思わず立ち止まる。
    桜はこの国なら何処にでも年中狂ったように咲いているがこの商店街の近くには桜ではなく銀杏の街路樹がある。なので、此処で桜の匂いなんか匂うはずがない。
    疑問に思いながら辺りを見回すとある店と店の間にある脇道がふと目についた。
    近づいてみると奥に扉が見える。
    群青色の木でできた扉だ。
    甲斐田はその扉に吸い寄せられるように脇道へ向かう。
    一歩、脇道へ踏み出すとさっきの賑やかな空気が一変し冷たい、得体の知れない空気が甲斐田を包み込む。
    その空気に驚き甲斐田は歩きを止めようとするが勇気を出し、奥の扉へと向かう。
    その扉は近くで見ると上部に小さな小窓が取り付けられており、その周りには桜が飾られていた。
    「桜…いや、造花か?」
    扉の前に止まり桜をまじまじと見つめる。
    小ぶりで可愛らしい桜だ。
    先斗が言った扉とはこの扉のことだろうか。
    小窓を覗いて中の様子を見るが暗く、よく見えない。
    「う、う〜〜ん??」
    戸惑いながらドアノブに手をかけると鍵が掛かっておらず、カチャ。と小さな音がした。
    「…入っても良いのか?」
    何度か考えたのち、意を決して扉を開けた。
    カランコロンと良い音が扉のギィという小さな音と共に鳴る。
    一歩足を踏み入れると不思議な香水のような匂いと…カップラーメンの匂いがした。
    「ん!」
    と奥から声がしてそちらを見ると、何かを食べているのか、口をもごもごしながら後ろを振り返って立ち上がるセラフが居た。
    「んー!!ん、ん!」
    もごもごと口に手をあてながらセラフは自身の目の前を指さす。
    「えっ、なに?どうしたの?」
    と甲斐田は机やら布が被った物の間を通りながらセラフの元へ行く。
    そこには対面に設置されたソファとその間に小さなローテーブルが設置されていた。
    入口の方のソファにはセラフがおり、ローテーブルには食べかけのカップラーメンやブルーベリーが詰まった瓶が置いてあり、その向こうにはソファに寝転がった長尾が居た。
    「あ!!長尾!!!」
    その姿を見て甲斐田は声をあげる。
    長尾は服が多少解れているが見たところ傷は無いようだ。
    「はぁ。思ったより無事だな…」
    「あっ、甲斐田先輩」
    その声に甲斐田は顔をあげるとカウンターの奥から茶色のエプロンのリボンを結びながら先斗が出てきた。
    「あ!ぽんちゃん!」
    「良かった。先輩が無事に此処に来れて」
    ぱたぱたと先斗が甲斐田達の元へ小走りでやってくる。
    「迷ったらどうしようかと思いました」
    「あー意外と分かりやすかったよ」
    そう言って甲斐田はソファに横になってる長尾を見る。
    「で、長尾はなんで此処に居るの?」
    「えっと、」
    「俺が見つけたんです」
    カップラーメンを食べ終えたセラフが言った。
    「任務、えっと、猫探しの依頼で猫を探してたら建物と建物の間にある空き地に倒れててここに運び込んだんです」
    「そう。運び込まれた」
    じとっと先斗がセラフを見るとセラフはふいっと目を逸らした。
    「まったく。店長がいーひんから良かったけどさぁ」
    「は〜い」
    二人のやり取りを見て甲斐田は内心笑う。
    「まぁまぁ。長尾を連れてきてありがとうな。セラフ」
    「はい。じゃあ俺はここで失礼しますね」
    そう言ってセラフはソファの脇に置かれていた籠を持って店の扉へ向かう。
    「それじゃあ、また」
    ぺこり、とお辞儀をしてセラフは外へ出ていった。
    それを見届けてから甲斐田はソファに横になってる長尾の傍にしゃがみこみ、顔を覗き込む。
    気を失っているのか眠っている長尾の顔は数箇所にかすり傷が出来ていた。
    「長尾先輩、大丈夫なんですか?」
    後ろから先斗が聞いてくる。
    「だーいじょうぶだよ。寝ているだけだろうし。こっちに来たのは転送術の不備か何かだろうな。」
    そう言って甲斐田は長尾の耳の近くでばちんっと手を叩く。すると「おっっっわ!!!」と叫びながら長尾ががばりと勢いよく起き上がった。
    「え?なに?何事??」
    「おはよう長尾」
    「えっ、ああ、おはよう甲斐田…え、先斗?」
    「あ、どうもこんにちは」
    飛び起きた長尾は思考が回ってないらしく、驚いた顔をしながら周りを見渡していた。
    「え、此処どこ?」
    「ぽんちゃんのバイト先のお店だよ。お前、現世の空き地で倒れてたらしいぞ。セラダズが見つけて此処に運んだんだってさ」
    「ほーん」
    そう答えて長尾はよっ。と声を出してソファから立ち上がる。
    「え、長尾先輩立ち上がって大丈夫なんですか?」
    「だーいじょうぶ、大丈夫。で、甲斐田はなんで居るの?」
    「お前を迎えに来たんだよ!!」
    甲斐田の叫びに長尾は「お、おおう」と引き気味に言った。
    「あとさ、長尾。此処に来る前に覚えてることない?」
    「覚えてることー?え〜と…任務から帰ろうとして歩くの面倒くさかったから術式使ったまでは覚えてるけど…あ、もしかして不良?」
    「だろうね。さ、帰るよ」
    そう言って甲斐田は長尾の腕を掴んで扉へ向かう。それを見て先斗がぱたぱたと追いかけてくる。
    「あ、この扉の先何処に繋がってるの?」
    「ああ、先輩達の地元。えっと、桜魔…です」
    「現世じゃないんだ。セラダズがそっちへ帰って行ったからそうだと思ったよ」
    甲斐田が後ろを振り向いて聞くと先斗が答えてくれる。
    「縁が出来たんですよ」
    「縁?」
    「はい。このお店が先輩達のことを覚えたんですよ。なので大丈夫です」
    建物って生きてますし。そう、回答になっているのかなっていないのか分からないことを自慢げに話す先斗に二人は「そうなんだ」と答える。
    心の中で二人は(後輩ってよく分からないな)と甲斐田は思い、(まぁ人それぞれ常識は違うもんな)と長尾は納得していた。
    「それじゃあ、失礼するよ。ありがとうね。ぽんちゃん」
    「はい」
    「またゲームで遊ぼうなー!」
    軽くお辞儀をしてから甲斐田はぶんぶんと元気に手を振る長尾の腕を引っ張りながら扉を開く。
    扉の先は冷たい空気が漂っている先程の脇道に繋がっていた。その先には昼過ぎの暖かな光が注いでいる商店街が見える。
    「おー。此処に繋がってたんだな」
    「うん。僕が此処からあの店に来たからね」
    バタン
    後ろで大きく扉が閉じる音がして二人して後ろを振り向く。そこには群青色の小さな窓がついた扉なんて無くて、突き当たりの壁に茶色の木の板が寄りかかっているだけだった。
    「…え?」
    「あれ、音、聞こえたよね…」
    「おおん」
    ぺたぺたと木の板を甲斐田は触るが壁から木の板を持つのは怖いので止めた。
    「後輩のバイト先…こわ」
    後ろに一歩下がって言う長尾に甲斐田は深く肯定をした。
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