花弁の裏側ひらひら。と、彼がつい先程まで座っていた椅子に桜の花弁が舞い落ちる。
1つの質問に考えた答えを言っただけなのに。と、鬼伏千隼は思った。
考えた答えを口にしたら彼は失望したような、絶望したような、何とも言い表せない顔をして、ポケットから懐中時計のような時計を取り出した。
それを見て(ああ)と納得した。
鬼伏は彼のことも、彼が探している人物も詳しくは知らない。
彼の名前を口にすると、彼は手を止めこちらを見た。
「捜し物。頑張れ」
にこっと笑顔を付けて言えば。
「そう」とだけ返ってきた。その反応から彼は随分捜し物をしているらしい。案外、捜し物を探すのは下手なんだなと思った。
そして、彼が消えて今に至る。
ちらりとコメント欄を見ると「どうしたの〜?」「変なお便りでもあったか」「フリーズした」などのコメントで埋まっていた。消えた彼に言及するコメントは無く、コメント欄をスクロールしても鬼伏へ向けたものしかなくて、最初から彼は居なかったことになっていた。バーチャルだなぁと鬼伏は思った。
「んや〜捜し物のコツってどんなのだろう。ってふと思ってね〜」
肘をついて手に顎を乗せコメント欄を覗く。
その言葉に反応したコメントが次々に出てくる。鬼伏は「ベットの下とか」というコメントを見てふっと笑う。彼の捜し物が彼の自宅のベットの下に居れば彼はさぞ驚くだろう。鬼伏はその状況を妄想してまたふふっと笑った。
「なんかツボハマってんな」「思い出し笑い?」「どうしたの???」
「ごめん、ごめん」
はぁ。と、笑いのツボから抜けてコメント欄に謝る。
「いや〜ちょっと面白いのを想像してね。うん」
と言いながらさっきと同じ体勢になってコメント欄を眺めた。すると、スマホからブーブーとバイブ音がなった。
スマホを手に取るとさっきまで居た彼の名前が表示されていて口角を上げた。
さっき遡ったときに見たのだが、こちらの彼は遅刻をしているらしいかった。
「あ!」
と声を上げてから応答ボタンを押すと『ごっっっっめん!!』と大声が聞こえて「にゃはははは!」と笑った。
『千隼、笑うな!聞け!!』と必死になって遅刻になった経緯を話しているが、鬼伏は笑いを堪えるのに必死だった。「オリオンのこんな姿見たことない」と呟けば『俺だって初めてなんだよ!!!』と叫ばれた。『俺は何をすれば良い』と聞かれたのでとりあえず頭に浮かんだ逆立ちでもすれば?と言えばキレられた。
「で?どうする?あと15分くらいあるけど」
『うう……なにする…?』
電話の向こうでは半泣きになっているのだろう。
その様子を想像して「お便り読もっか!」と言った。
『お便り…うん。そうだな』
がたっと音がする。きっと椅子にでも座ったのだろう。
「あっ!」
『え、なに?』
コメント欄を見て、思い出す。そういえばこれをしてなかった。
「自己紹介、自己紹介!忘れてるよ!」
『ん、ああ。そういやしてなかったわ』
んん。と喉を震わす声が聞こえる。
『えー、オリオンこと九埜織人です』
「あれ?私が提案した口上は?」
『うるせぇ』