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    渋川🌸

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    【なぎれお】監獄前、出会って間もない頃の二人。ng(→)ro

    ワンライのお題七夕をお借りしました。

    #凪玲
    #凪玲版深夜の創作60分一本勝負
    #ngro

     たまたま入ったコンビニで、凪はもうすぐ七夕であることを知った。児戯のようなデコレーションで「七月七日は七夕」と書かれた棚には小さな笹と、折り紙だの限定パッケージの菓子だのが陳列されている。凪は季節や日付の概念が薄く気温の変化くらいしか普段感じないが、昨今は商魂たくましいコンビニのおかげで、季節の移り変わりやイベント事も嫌でも知らされる羽目になる。
     七夕でもいまは一大イベントのように取り上げられていて、大出世じゃんなどと七夕のことを見直しながらスルーしようとしたところで、ひょいと玲王が顔を出した。
    「へー、そういやもうすぐ七夕か」
    「……玲王」
     玲王に突然サッカーに誘われて、無理矢理練習させられて、面倒だし疲れるのに何故か続けていて。こうやって練習帰りに連れ立ってコンビニに寄るくらいには、玲王と一緒にいる時間が増えている。少し前の自分からは考えられない事態が次々と起こっているが、玲王と一緒に過ごすのは悪くなかった。
    「なに、凪七夕に興味あんの?」
    「ない」
     少しの迷いもなく凪が答えれば、なにが面白いのか玲王はパッと花が咲いたように表情を崩し「だよな」と笑った。自分とは比べ物にならないくらい、玲王の表情は豊かだ。特に笑っている顔は非常に目を惹くし、見ていて飽きない。凪がじっと玲王を見つめていると、玲王はそのままコンビニの奥に足を進めた。凪も後に続く。
    「まー、俺もだけど。願い事なんて祈ったってな。願いは自力で叶えてこそだし」
    「さっすが玲王、かっくいー」
    「彦星と織姫だっけ。年に一回の逢瀬がなんで願い事に繋がるのが意味わかんなくて面白いけど」
     飲み物を買って、コンビニを出た。ぱきりとペットボトルの蓋を開けてごくごくと喉に流し込む。冷たいレモンティの甘さが、疲れた体に染み渡っていく心地がした。玲王はスポーツドリンクを飲んでいて、運動後の吸収がどうとか疲労回復がだとか前に言っていたなとぼんやり思い出す。こういうときに自分の好みではなく合理的に選ぶのが玲王だということは、短い付き合いの凪でもわかっていた。
    「天の川なんて見たことないし。そもそもこの時期晴れてるときのが少ないのに、なんでそんな迷信が普及したのかわかんない」
     梅雨入り宣言から約一か月、まだ明けたという発表はない。今日だってかろうじて雨は降っていないものの、空には灰色の重たい雲が広がっていた。晴れたところで、万年明るい東京では星なんて見えやしないだろうが。
     凪がそう言うと、玲王はなにかを考えるように顎に手をやり、おもむろにスマホをタップし始めた。表情は真剣そのものだ。なにをしているのかわからないながらに凪が玲王を見ていると、玲王が無邪気な顔で笑った。自信満々で輝くばかりの、玲王らしい笑顔だ。
    「凪!明日予定ないよな?」
    「え、ないけど……」
     無駄に詰め込むような練習は無意味だし休養も大事だと、練習がない日も適度に設定されている。明日はその練習がない日のはずで、どうせ雨だし家に引きこもってゲームでもしようと思っていたところだ。練習するとか言い出すのかと思い、少し凪は身構えたがどうやらそうではないらしい。
     明日のお楽しみな、と玲王は言って、その日はそれで別れた。


     そして翌日、半分無理矢理玲王に連行されたのは凪も何度か乗ったことがあるリムジンだった。そうしてばあやさんに玲王がなにかをお願いしていて、どうやらどこかに行くらしいと知った。面倒事じゃないといいなと思いつつしゅわしゅわを飲みながら揺られていると、リムジンは高速に入ったので凪の願いは早速叶わないことを悟った。
     そうして傾き始めたばかりの太陽が沈むくらいの時間が経ってようやく到着したのは、凪は聞いたこともない土地だった。あたりにはなにもなくて、玲王がなにを思ってここに来たのかさっぱりわからない。凪が戸惑っていると、玲王に手を引かれた。
    「ほら、行くぞ凪!」
    「えー、動けないー、玲王おんぶしてー」
    「ほんっとしょうがない子だな。ほら、乗れ」
     玲王がしゃがんで背中を見せたので、遠慮なくその背に体重を預ける。玲王に文字通り連れていかれたのは、なにもない場所だった。街灯ひとつなくて周囲は真っ暗。ばあやさんが持たせてくれた懐中電灯がなければ、きっと足元も見えやしない。そんな場所で電灯を消すと目の前の玲王さえよく見えなくなった。
     代わりにふたりを照らしたのは、満点の星空だった。見えなかったはずの星までよく見え、いままで東京で見ていたものと同じ空が広がっているとは思えないくらい、大小さまざまな光が夜空を彩っている。そして、夜の真ん中を帯のように横切るものに、凪ははっと息を飲んだ。
    「……もしかして、あれが天の川?」
    「そ。おまえ見たことないって言ったろ。でもやっぱ東京じゃ難しいし。ここは星がよく見えるって有名なとこなんだって」
     どうりで周囲になにもないと思った。建物や民家の灯りは、星を見るには適さない。
     まさか、あのたった一言で「天の川を見に行こう」と思って、実際に実行に移すとは思ってもみなかった。正直凪は非常に驚いているのだけれど、同時に納得もしていた。判断力と行動力、そしてやると決めたことは必ず成し遂げる貪欲さがある玲王ならば、きっとこんなことは朝飯前なのだろう。普段とまるで変わらない玲王の態度が、彼にとってはなにか特別なことをしたわけではないという証拠でもあった。
     改めて、玲王がサッカーで世界一になると言ったことを思い出す。きっと玲王ならば、そんな途方もないほど遠い夢も叶えるのだろう。それは運だとか神頼みだとかではなく、自分自身の力でもぎ取る世界一だ。
     玲王に捕まる腕に、自然と力が入る。玲王が世界を獲るときに隣にいるのは自分でありたいと、心から願う。
    「……うん。ありがとう玲王」
     玲王と出会ってから、想像もしていなかったことの連続だ。自分らしくないなと何度も思う。それでも玲王と過ごす時間は楽しかったし、これからも一緒にいたいと思う。
     今夜この場所で玲王とふたりで見たこの美しい星々が、凪の網膜から消えることはないのだろう。玲王の背中から伝わる体温を感じながら、凪は今一度空を見上げた。
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