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    hijiki_de_gohan

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    hijiki_de_gohan

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    今度書くものの後日談という実質次回予告というか自分用の首絞めマシーン。
    なんともよくわからんものを上げて申し訳ないです……。
    ※女装ネタを含みます
    ※あらゆる不穏にふわふわを載せて誤魔化す

    #akiden
    #アキデン
    akiden

    アイム・ゴナ・スクリーム「うわ、ついにやったの?」
     恐らくアキの怒鳴り声を聞いて、午後の二時に漸く起き出してきたデンジが眠そうな眼でカウンター越しにキッチンを見て放った第一声がそれだが、心外な響きだった気がしてならない。
    「……やってねえよ。何をだ」
    「さつまじん事件」
     薩摩人? ……殺“魔人”か。どうでもいいツッコミは置いておいて、肩からタオルケットを被って引き摺っている彼が持ってきた皿を受け取り、米粒の一つも残さず食べたのを確認する。綺麗に食うようになったな。舐めた訳じゃないといいがと思いながらシンクで水に浸す。
     デンジが軽く驚いたのは、キッチンで遅い昼食の準備をしているアキとその横で小さくなっているパワーの、主に上半身が飛び飛びに赤く染まっていたからだ。
    「血まみれじゃん」
    「ケチャップ」
    「うう~~……トマトのにおいがするぅ……」
    「当たり前だろバカ」
     半泣きのパワーに嘆息しながら、彼女の鼻の頭に付いたケチャップをティッシュで拭き取ってやる。しかし彼女のおろしたままの長い髪の毛にはべったりとケチャップが付いてしまっている。アキの方の被害はほぼエプロンのみで済んだが、これは拭うだけではどうにもならない。
    「お前風呂入ってこい」
    「一昨日入ったもん」
    「おい……昨日入らなかったのか……」
     聞き捨てならない科白に低い声を出す。クソ、気付かなかった。深夜こいつがマキマに送り届けられてきて……記憶が曖昧だ。
    「今日の夜も入るし、今も入れ」
     言い渡しながら嫌がるパワーを廊下に押しやり、付着したケチャップが落ちて今以上に床を汚しそうな自分のエプロンを外す。パワーは嫌がっていたが、そのままでは飯にありつけないと悟りしぶしぶ風呂場に向けて足を動かし始めた。
    「……デンジ元気になったか?」
     背を押されながらパワーがちらっと振り返ってアキ越しに問い掛ける。デンジは「だいたいね」と眠そうな顔のまま返事をした。俄に良心が痛みだしたので、仕方ないから当初の予定通りパワーのリクエストを聞いてやろうと思う。

    「メシなに?」
     後で洗濯機を回せるようエプロンとパワーの服を漂白剤に浸けて廊下に出たところでデンジの声がキッチンの中から聞こえてきた。
    「オムライス野菜抜き」
    「マジで?」
     軽く驚いた声を聴きながら自分もキッチンに戻ったところで、その光景に間抜けな声を上げた。
    「お前本当に、身体へいきうわっ!」
     思わず後退ってしまい、冷蔵庫に肩をぶつける。
    「早パイ、うわあって」
     キッチンに立って手を洗いながら「はじめて聞いた~」とか言っているデンジは、きちんとエプロンを身に着けていた。
     白い生地に肩紐はフリル。丸い前垂れの周りにもぐるりとフリル。胸元にはギャザーが寄っている可憐なエプロンは、昨夜仮装に使用したメイド衣装のものだ。
    「脳が?」
    「ああ? んだよ手伝ってやろうと思ったのに」
     それはいい。ちょっと感動するくらいだ。でもそういう問題ではない。
    「なんでそのエプロン」
    「これしかねえじゃん」
     さっき洗面台に水を溜めて浸けてきた臙脂色を思い出す。洗ってしまったら替えは無いのだ。最近洗い物などをたまに代わってくれるようになったデンジに、キッチンに立つ際はできるだけエプロンを着けろよと確かにアキは言った。とっとともう一枚買っておくべきだったか。でもお前それ生地もちゃちで薄いしそれに。
    「……昨日、ああなって、まだ着けようと思うのかそれを」
    「…………これは別に関係ねーじゃん」
     関係がゼロだったかというと…………この話はやめておこう。でもまだツッコミどころがある。
    「……お前……服は?」
     デンジはエプロンの中にシャツを着ていなかった。下はパワーの短パンを履いているのがエプロンの裾からかろうじて見えるがそれのみで、凹凸の少ない生足が伸びている。悪い冗談みたいな光景だ。対してデンジはずっと「一体なんの文句があるんだ」とでも言いたげに軽く怪訝そうにしていたが、その時ふっと表情が完全に消えた。
    「着れねえ」
    「は?」
     白いエプロンの胸元が摘ままれる。背の高い男性でも着られるような大きなサイズかつ一応造りは女性用なので、胸部にはかなり余裕がある。持ち上げたギャザーの生地の中にちらと見えたのは彼のスターターロープと、
    「…………絆創膏貼ってやろうか」
    「おめぇには頼まねえよ!」
     ギャンと吠えて断ってきて、デンジは続けて小さく「後でパワーに貼ってもらうし」と呟いていた。大丈夫だろうかそれ。お前らちゃんと間違えずに絆創膏貼れるか? というかそれはお前的に、なんか、いいのか。……その内パワーも風呂から出てくるのにその格好で居るんだから平気なのか。今一つこいつらの加減はわからないかもしれないと思う。出会ってすぐに一緒の寝室に放り込んだ自分が言うのもなんだけど。
     貼るのか。
     忘れよう。もう、いいか。こいつがこの格好でいいのなら。立冬も近かったが小春日和の陽射しは窓から熱を伝えてきているし、即座に風邪を引くこともないだろう。
    「んでぇ、なに? 野菜が?」
     デンジに問われ、気を取り直して食材を眺める。細かく切ってあるのは、鶏肉のみ。あとは炊飯器の中にある白米と、まだ冷蔵庫の中にある卵と、ぶちまけたケチャップ。
     昨夜非常にアホな理由で置き去りにしてしまったのに殊勝だったパワーに、詫びとして昼飯のリクエストを訊いて返ってきたのが「オムライス」だ。普段肉ばかり好む彼女にしては珍しかったが、たまたまテレビか何かでとろとろの卵を見て憧れを持ったとかいう話で。
     自信はないがやるだけ挑戦してみるかとアキが思ったところで、チキンライスを作るために冷蔵庫から出した野菜は次々とまな板の上を出禁になってしまった。じゃあお前最初から唐揚げとか言えよ。
     しまいにはケチャップがトマトから出来ていることを匂いで見抜いて、拒否ってアキから取り上げようと鷲掴んで生まれたのがさっきの惨状だ。
    「ケチャップって、食ってなかったっけ?」
    「ああ。気付いてねえ時は食ってたのに……」
     彼女の場合はそもそも野菜の避け方が極端だとも思うが、子どもの好き嫌いにはそういうところがある。入っていると知らなければ食べられるのに、判明した途端嫌がるのだ。せめて味で嫌ってほしい。
    「なんであんなに野菜目の敵にすんだろなアイツ」
    「食ったことなかったっぽいな」
     およそ食べ物の好き嫌いとは無縁そうなデンジに返す。こいつは野菜も大好きだし、なんならそこそこ味が苦手なものだって栄養があるなら残さず食う。アキが知っている中でデンジが飲み込めず吐き出したのなんてコーヒーくらいだ。……無糖のブラックコーヒーはカロリーないから、身にならないって意味では合ってるんだよな。
    「案外身体の元の持ち主の好き嫌いかとも思ったけど、人間は野菜怖がらねえだろ流石に」
    「元?」
     アキの指示を受けて、炊飯器からボウルに飯を移していたデンジが疑問の声を上げる。
    「そういうのはさ、こう、中身のモンじゃねえの?」
    「基本そうだけどな、内臓とかにも記憶があるんじゃないかとかいう話で」
     酒が一切飲めなかった人間が臓器移植を受けて以来ビールが好きになったとか、もっと奇妙な話では、心臓の移植を受けてから知らないはずの場所の記憶を所持しているとか……医学的には今ひとつ説明がつかない、そういう事例は世界各地にあるらしい。アキがそう説明するとデンジは、彼にしてはこの手の小難しい話題に対し興味深そうに耳を傾けている様子だった。
    「じゃあ俺のさ」
    「……俺の?」
     アキは少し温まったフライパンに油を敷いて鶏肉を炒め出しながら、俄に騒がしくなったキッチンで途切れたデンジの声に聞き返した。
    「うん。俺の眼とかを今つかってるヤツは、俺のイヤなものがイヤだったりすんの?」
     フライパンに焦げついてしまいそうな鶏肉を転がすのに忙しいフリをして一度口を噤む。少し前に聞いたけど、やっぱりマジだったんだろうなあの話。彼の生い立ちの話を聞くとアキは酷く気分が塞ぐ。関心を持たなかった時間が自分を責めるような身勝手な感傷だ。ちらとデンジの表情を横目に覗くが彼はなんとも思っていない様子で、それを見てますます生まれた冷たさが胃から上っていって、うなじの辺りにわだかまった。
    「必ず起こる現象じゃないだろうけど……例えば、お前は何が怖いんだ?」
     塩コショウをした鶏肉にケチャップをかけながら問い掛ける。普通なら玉ねぎを炒めた香りがするものなので、何を作っているのかよくわからない。
    「……結局入れんのケチャップ」
    「混ざってたら食うだろ」
    「そうだな」
     フライパンの中を見つめるデンジの表情は煙でよく見えないが、恐らく変わらずほぼ無表情で、でも少しだけ眉根を寄せてアキが言ったことを彼なりに検討している。
    「怖いモンは別にねえかな」
    「ずっとそうか?」
     ヘラを渡して頼むとデンジは、ボウルの中の白米をそっとフライパンの中に移し始めた。その間にもアキがフライパンをかき回すので、白い粒がどんどん赤く染っていく。
    「え~? 悪魔とか、刃物とか? は、慣れたのかもね」
    「血とかも」
    「怖かったこと覚えてねえなあ」
     先天的に、ということがあるのかわからないが、デンジのこの種の鈍さはデビルハンターに向いている。実際確かにアキも頼りにしているのだが、それでいいのかという迷いを近頃抱えている。
    「なんか無いのか」
    「なんか?」
    「怖いのとか、嫌なのとか」
     混ざったチキンライスを炒めながら、コーヒーと言われたらどうしようかなと考えた。コーヒーの悪魔が居たら、まさかデンジに勝つのだろうか。別に怖いわけではないか。
    「あ」
     軽く唸りながら考えていたデンジが小さく声を上げた。
    「うん?」
     訊き返しながらカチリと火を止めてヘラを置く。少し冷ましてからボウルに移すことにする。三人分なので結構な量の、鶏肉しか具のないストロングスタイルのチキンライスが出来上がってしまった。
     それを見ながら、彼はなんだかそっと口を開いた。
    「……牛乳、嫌いかも」
    「えっ」
    「デンジなんじゃその格好~」
     パワーがタオルで髪を拭きながら風呂から上がってきて、デンジの薄着を見て笑うでもなくそう言った。軽く呆けているアキをよそにデンジはパワーに「かわいい?」と訊いて、「特に」と答えられていた。



     かくして半熟に仕上げたオムレツをチキンライスの上で切り開く作業には成功し、そこにデンジが大苦戦しながらケチャップで「パワー」と書いてお出しすると、お姫様はトマトへの憎しみを忘れてはいないようで口をへの字にしたが、「ここまでしたのに」という二人からの圧に負けて一口食べた後は気に入ったようだった。
    「お前、飲んでなかったか」
     オムライスを平らげた二人でキッチンに戻り、冷蔵庫から牛乳を取り出してボウルに移す。
    「だけでは飲んでねえ~」
    「コーヒー牛乳は好きだよな」
    「あれ牛乳のにおいしねえもん」
    「においがダメ?」
     デンジは隣で、アキの手元を難しい顔で覗いている。
    「腐ってるの飲んで腹壊した記憶しかねえんだよな……」
     アキは納得した。彼の元々の暮らしぶりを聞く限り想像に難くないし、そういう切っ掛けでその食べ物自体に苦手意識が生まれることはままある。人間の身体は面白いもので、一度当たると腐っていなくても腹を壊すようになったりするが、デンジはそこまでではなさそうだ。
    「アイスは好きだよな」
    「……元は同じモンだろって言うのかよ。においそんなしねえもん。パワーですらケチャップ食えたじゃん」
     牛乳を睨んでいるデンジの前で、ボウルに砂糖を入れて泡立て器で混ぜる。バニラエッセンスが有った方が良さそうだが急にそんなものないし、今はなくていい。
    「牛乳だな?」
    「ええっ? うん……」
     アキが指差した牛乳を見て、恐らく飲まされると予想して逃げたそうにしているデンジを後目に、アキはもう一回り大きなボウルを取り出した。それに冷凍庫の氷を移す。
    「塩かける」
    「そっちに?」
    「より温度が下がるらしい」
     大雑把に説明しながら氷に塩をふり、少量の水を張る。氷の温度がボウルに移って、押さえている手が冷たくなってきた。
     牛乳を入れたボウルを、氷を敷き詰めたボウルの中に入れる。摂氏零度以下まで温度が下がった氷がボウルに密着し、底にだけ水が触れ浮力が働いている。こんな感じだろう。デンジは首を傾げている。アキはゴムベラを手に取った。
    「これ、俺が混ぜるから」
    「うん」
    「お前、ボウル回せ」
    「んん?」
     ますます眉根を寄せたデンジの手を取り、ボウルの縁を掴ませて一緒に動かす。少しだけ浮いたボウルは氷の中でスムーズに回り出し、ぶつかった氷がガラガラと音を立てる。
    「そのまま回してて」
     零れないよう慎重に、回るボウルの中で牛乳を攪拌する。アキの腕の下から手を入れて両手で作業をしながらずっと怪訝な顔をしているデンジの視線の先で、白い液体は状態を変えていった。ゴムベラに触れる感触が重たくなっていく。ボウルの底に触れている部分が固形になるのでヘラで剥がして混ぜて、また別の部分を固めることを繰り返す。
    「え、なに、もう凍るの?」
    「手冷たくないか?」
    「だいじょぶだけど、マジで?」
     驚いているデンジの前でもったりした中身をヘラで持ち上げる。一旦こんなものでいいか。やめていいぞ、とアキが声を掛けるとボウルの回転は止まった。
    「なんでェ?」
    「空気ってのは温度を伝えるのに割と邪魔だから、こうやって回転させて氷とボウルの間の空気を散らすと急速に冷える」
     濡れタオルを氷点下で振り回すと一瞬で凍るアレと同じ原理だ。デンジは知らないだろうから言わないが。
    「……はぁ~」
    「ん」
     スプーンを取り出してボウルの白い中身をひと掬いし、デンジの口元に運ぶ。恐らくギリギリ話を理解したデンジは、スプーンを見つめて、アキの顔を覗き見て、またスプーンに視線を戻す。嫌だ要らないと言われても食わせる気まではなかったが、彼は口を開けた。
    「つめてえ」
     舌先で溶かして嚥下したデンジが言う。
    「アイス?」
    「おお」
     デンジはボウルのゴムベラを手に取って、牛乳だったものをなんとなくいじっている。目の前で変化して、食えるものだと意識すれば違うかもしれない。駄目なら駄目でどうということもないのだが、克服できるならした方がデンジが得だろう。
    「ジャム入れるか?」
    「そんなことしていーの!?」
    「許す」
    「最強のアイスできんじゃん!」
     嬉しそうに叫んで、彼はジャムの瓶を取るためにアキの横を離れる。そうして空いたスペースに、オムライスを食い終わったもう一人がすっと入り込んだことに一瞬アキは気が付かなかった。
    「ウヌらまた……」 
     先ほどまでより微かに位置が低くなった金髪に赤い角が生えている。ムスッと不服そうな表情の魔人は、ゴムベラを逆手で握ってボウルの底に叩きつけた。
    「今日はワシも混ぜろ!!」
     ガィン! 音を立てて大きく揺れたボウルは、中身をアキの方に向けてぶちまけた。



     何度目かの溜め息を吐きながらシャワーを浴びる。やり方をもう一度デンジに説明して任せてきたが、今日の休日はキッチンの大掃除の日になるだろう。
     怖いものや嫌いなものなんて、好きなものとは違って少ない方が生きやすいのに、割と雄弁にその人物を語ると思う。でも全然理屈じゃないし、線引きは曖昧だし、簡単に変わったりするんだよな。
     なにせ今アキの家のキッチンで騒いでいるのは悪魔たちだ。じゃあ今のアキはもうアキじゃないのかというと、まあ、そんなことはない。
    (沢山損もしたけどな)
     お湯を止めて、髪をかき上げて、アイスを食うガキどもの元に戻ろうと浴室のドアを開ける。
    「ヒェッ」
     湯気の向こうから間の抜けた悲鳴が聞こえて、巻き戻す動きで一度ドアを閉めた。水が滴る前髪の間から浴室のドアに透ける影を見つめる。
    「……ヒェッってなんだ」
     自分の平坦な声が風呂場に響いた。
    「あれ? 早パイ今上がったんじゃねえの?」
    「ヒェッってなんだよデンジ」
    「は? なんだってなに?」
     今たまたま廊下にいたのであろうデンジに、声は聞こえているようだ。
    「ヒェッって、お前、なん……何見て言ったんだ! なんだそれ……!」
    「はあ!? なにがだよ! なんでもねえよ!」
    「お前、怖くなったとか言、いや元からか……?!」
    「だから! なにがだよ!!」
     ピンポーン。
     甲高い音で玄関のチャイムが鳴いた。続いて「宅配便でーす」という声がドア二枚越しに聞こえる。
    「あっ、ああーー宅配便出るね。開けるからオメェそこ開けんなよ! ツーホーされっからな!」
     デンジの声が少し離れる。今一瞬で見えなかったというか、三人とももう慣れてどうでもよくなってたから意識してなくて、それで。
    「…………待てデンジ。お前……着替えてないよな……? デン、おまえ……デンジ! ドアを開けるな! 馬鹿! デンジ……!!」

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