雪にぃと礼光さんふっと意識が浮上する。
見慣れてきてしまった天井が目に入り、ブラインドのすき間から差し込む光にぐっとまた目を閉じた。
ゆっくりとからだを起こし、ベットの傍らに置かれているケージを見る。
礼光よりも早起きのウサギたちは今日ももう起きているようだ。異変はない。
「おはよう、礼光」
覚醒しきっていない頭に響かない、落ち着いた音が聞こえた。
挨拶をされている、と認識しそちらに目を向ける。
「すまない、起こしてしまったか?」
「いや」
ウサギたちと同じように早起きらしい同室の男、神名はトレーニングの準備をしているようだった。
「昨日も遅くまで仕事をしていただろう?よく眠れたか?」
「……あぁ」
眠りは浅く、神名が言うよく眠る、に当てはまっているかはわからない。
だが、他人と同室で眠るときいた時に想定していたよりは眠れているので真っ赤な嘘というわけではない。
神名もそのことに気づいているようだったが、とくに何も言ってこなかった。
他人と一緒に生活をする、冗談じゃないと思っていたが、神名と同室だったのは不幸中の幸い。
必要以上に距離をつめてこないし、静かで助かっている。ウサギたちも穏やかだ。
たとえば、そう、あのうるさいバカと同室だったらと考えただけで頭が痛くなってくる。
「走りに行くのか?」
「あぁ、今日は天気が良い。気持ちが良さそうだ」
ぐっと伸びをした神名は、朝日が透けるブラインドを見て目を細める。
「朝の空気を感じながら走ると、頭がすっきりして今日も1日頑張ろうという気持ちになる。まるで主任の笑顔のようだ」
「……そうか」
きゅいきゅいと鳴き声がした。
こっちを見てと言っているかのような、他の誰かの話をされるのが嫌だったかのような……。
……いや、朝ごはんの時間だ。それ以外にないだろう。
「じゃあ、いってくる。お前たちも、いってくるな」
神名が部屋からでていき、閉じられた扉をハクが見つめている。
「はぁ……そんなに寂しそうにするな」
ケージの中に手を入れると、手のこうに頭をすり寄せてくる。
やわらかで暖かい感触を感じながら礼光はまたひとつ息をついた。