涼くんとジャイロヘアゴム「涼さんさ……」
「?」
リビングでクーラーの風にあたりながら棒つきアイスをなめている涼。
夏の良くある光景だ、ある一点が気になること以外は。
「最近ずっとそれだよな」
「うん。ハマってるんだ~。ケンケンが箱で買ってくれたから、冷蔵庫にまだあるよ」
「アイスはいいよ。アイスじゃなくて……その、前髪」
前髪?と涼が上を向く。それに合わせてひとつにゴムでまとめられた前髪がぴょこんと動いた。ゴムについた賢汰の顔も一緒に動く。
「おでこに風があたって涼しいよ。礼音もやったら?」
「いや……てかさ、昨日洗面台に深幸さん置きっぱなしにしたの涼さんだろ?けっこうびっくりするからやめてくれよ」
「? ごめんね」
電気をつけて、洗面台に置かれた深幸の顔が目にはいった時のことを思いだし、忘れようと礼音は頭を振った。
涼は最近、このGYROAXIAメンバーの顔がついたヘアゴムで前髪をまとめている。
デフォルメされたイラストなどではなく、リアルな顔のため、なんだか……気まずい。
夕飯の時、向かいに座った涼の頭についた自分に見られているようで居心地が悪かったこともある。
正直家でつけるのはやめてもらいたいぐらいだが、せっかくつくってもらっている、実際に販売されるグッズであるためつけるなとも言いづらい。
「そうだ、ちょっと待ってね」
おもむろに立ち上がった涼はリビングからでていき、すぐに戻ってくる。
食べかけのアイスを持った手とは反対側の手を礼音の方に差し出した。
手のひらに置かれた那由多と目が合う。
「……」
「那由多はまだあけてないから。礼音にあげる」
「……涼さんが後つけてないの那由多だけだろ?ここまできたら那由多も涼さんがつけてやったほうがいいんじゃないか?それに、せっかく5人揃ってるんだからそのまま涼さんの部屋に揃えて置いといてよ」
「そうかな?」
「それが良いって!」
「そっか、じゃあそうするね」
またソファに座り、アイスをなめる涼。
那由多の顔がついたヘアゴムはテーブルに置かれている。
涼の部屋に並べられるジャイロメンバーの顔を想像して、礼音は那由多から目をそらした。