れおなゆ休日の昼すぎ、買い物を終えてシェアハウスに帰宅した礼音はただいまとつぶやいた。
誰にきかせたいというわけでもなく、習慣として口からでた言葉はしんとした空気にすいこまれていく。
他のメンバー(那由多以外)も今日は出かけると言っていて、礼音が一番早い帰宅なのかもしれない。
那由多は……部屋にいるのだろうか。
ちらと那由多の部屋のドアに目を向けるが
、中の様子はわからない。
昼食は外ですませてきていて、ほどよい眠気。
ふあとあくびをしつつ自室のドアをあけた。
「!?」
見慣れた部屋の中の、見慣れないものが目に入りぎょっとしてドアノブをつかんだまま動きが止まる。
それはベッドの上、薄い掛け布団をしっかりからだにかけて……那由多が寝ている。
「え……那由多……?」
おそるおそるベッドのそばに寄り、様子を伺う。とじられたまぶた、起きそうな気配はなくよく眠っているようだ。
どう見ても那由多なのだが、那由多だよな……とまじまじ見て改めて確認してしまう。
間違いなく礼音の自室、いつも自分が寝ているベッドで寝ている那由多。
近くで見ても現実味のない光景だった。
部屋の中を見て何か居る、と感じた瞬間跳ねた心臓は落ち着いてきていて、どうして?という疑問がわいてくる。
寝ぼけて部屋間違えたとか……?
以前、寝ぼけた涼が間違えて部屋に入ってきたことがある。まさか那由多も?
何故礼音の部屋で那由多が寝ているのか、それぐらいしかすぐに思いつくことがない。
ここ数日、曲作りで部屋にこもっていて、ちゃんと寝ていないようだと賢汰が心配していた。
入る部屋間違えて気付かずにそのまま寝ることあるか?とは思うがそれぐらい疲れているのだとしたら笑えない。
たたき起こす理由もないし、寝かせておくことにしようと帰宅してから持ったままだったカバンを静かに床に置いた。
部屋でゆっくりしようと思っていたのだが、寝ている那由多と同じ空間でくつろげるわけがない。
リビングに行くことにしてカバンからスマホだけとりだし、スマホの充電が少なくなっていることに気づいた。
ベッドの枕元、那由多の頭と壁の間に白い充電ケーブルがのびている。
……那由多を起こさないように取れるだろうか。
那由多に触れないようにそっと手をのばす。
距離が近づく。寝ている那由多がすぐそこにいる。普段感じない緊張感にごくとつばを飲み込み、指先が触れたケーブルをひっぱった。
「?」
コンセントに差しっぱなしになっているケーブルを抜こうとして、想像していなかった重みを感じる。
那由多のからだに隠れていて気付かなかったのだが、ケーブルの先にすでにスマホが繋がっているのだ。
那由多が、自分のスマホ充電してる……?
意識がスマホに向いてしまい、ベットをぎしと揺らしてしまった。
「ん……」
すぐ近くにある那由多の頭が動く。
視界の中にぱっと現れた赤。
ばちっと目が合う。
ひらかれた両の目に自分がうつっている。
いつもいつも目付きが悪い那由多のこういう風にひらいた目を見るのは珍しい。
まばたきをすると、そこには見慣れたきつい目付きでこちらを睨む那由多が、
「…………どけ」
「!!あっ、わるい…」
あわてて那由多から離れた。
ゆっくりからだを起こした那由多は、すぐに部屋からでていくかと思ったがベッドに座ったまま動かない。
前髪で隠れて顔がよく見えないが起きたばかりでまだ意識がはっきりしていないのだろうか。
「えっと……その……そうだ、曲、できたのか?」
「…………」
どうしたらいいかわからず、ただ那由多のことをながめているのも気まずい礼音はそう声をかけた。
那由多は何も答えずに、充電ケーブルに繋がったままのスマホを手に取ると乱暴にケーブルを抜く。
何だ、と思っていると少し操作したスマホを礼音の方に向け、画面に表示されている再生ボタンをおした。