永遠ノ愛ヲこれは、とある九尾の狐が見た、遠い昔の時の夢である。
「っ…ここ、は」
パチリ、と目を開くと先程まで彼といた神社…の筈なのだが。
どこか、いつもとは違う気がする。
確かにいつもの神社であることは確かなのだが、なんというか、少しばかり新しい気がする。
「あ……」
視線を動かした先には、橙色の髪と着物の青年が立っていた。
そこで確信する。これは、夢なのだと。
随分と、懐かしい夢だ。
「お、一!こっち来いよ」
「嗚呼、アキト今向かう。」
これは、アキトと初めて出逢った頃の夢だ。
遠い昔、まだこの神社ができて間もない頃。
できたばかりだというのに妖が出るとすぐさま噂され、人ひとり来ないような神社に、一人の少年が訪れた。
「……何をしに来た」
姿を見られれば石を投げられ、刀で切りつけられ、手助けをしてもすぐさま逃げ出される。
心も身体もボロボロで、初対面の印象は最悪だったはずだ。
自覚するくらいには悪い態度で接したのに…それなのに、
「…これ、使え」
そうぶっきらぼうに言い放つとポイ、と何かをこちらに投げる。
これは……
「ほう、たい…?」
「お前、傷だらけじゃねーか」
「あ…嗚呼、だがしかし…」
「うるせーな、黙って使え」
口は悪くとも、優しさに満ち溢れている発言に、照れからきているのか赤くなっている耳。
その不器用な優しさにぐっ、と目頭が熱くなる。
「なっ…わ、悪い、強く言いすぎたか…?」
「あ…ちがっ…」
違うと言いたくても、しゃっくりが邪魔して喋れない。
彼からの膨大な優しさを抱えきれず、涙に変わって溢れ出てくる。
「あー…泣きやめよ…」
「す、まな…嬉しぐ、てグス」
「…あっそ」
ぐい、と彼の指が目元を拭う。
いつの間にこんなに近くに来ていたのか。
そこで初めて気が付く。
彼が、自分に、触れていると。
「っ…!離れろ!!」
「なっ…!?」
「あ…あ…また、また俺は…!」
俺は、また一人のヒトを不幸にしてしまった。
俺は天狐といって、人間に憑依できる妖怪。
そのせいで、今まで誰にも憑依したことがないのに恐れられ、嫌悪されている。
そんな俺に触れた人間には「印」が現れる。
なぜ印が現れるのかは俺自身よく分かっていないのだが…
集落の言い伝えにこの印が載っているため、印があるやつはみな、他の者から恐れられ、俺と同じような末路を辿ってしまう。
そして、彼もまた、俺と、同じように…
「おい!!」
ぐんっと顔を彼の方向に向かされて、ハッとする。
どうやら俺は混乱してしまったらしい。
「あ、す、まな…」
「ったく、ビビらせんな」
彼に、このことを伝えなければ。
けれど、伝えてどうする?この先不幸になると伝えてなんになる?
どうしよう、今までこんなに焦ったことはない。なぜこんなに焦って、悔やんで、悲しんでいるのか。
分からない、分からないことだらけだ。
「なぁ、この印って…お前がつけたのか?」
ヒュッと喉が変な音をたてる。
気付かれた。もう話すしかない。
嗚呼、せっかく優しくしてくれた人がいたのに。また、離れて行って、俺は一人に…
「っ……」
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ!
もう、一人にはなりたくない。
けれど言わなければ、言わなければっ…!
そう思うほど、声が出なくなる。
掠れて、音にもならず、喉の奥へと消えていく。
もう、ダメだ、俺は、本当にまた一人になってしまう…と思っていたのに、
「綺麗だな、この印」
「え…」
今、彼は、何と言った…?
「…実は、俺、前にお前に会ったことあってさ。すっげー小さい時だったけど。」
「…あ」
そうだ。そういえば昔、同じような橙色の髪をした少年が、迷い込んできた気がする。
その時にも印が付いてしまった筈だが…
「あの後、村でお祓い?みたいなのやらされて、印が消されたんだよな。俺、結構お気に入りだったんだけど。」
だから、また付けてもらえて嬉しい。
そう顔に出ているのを見て、胸がザワつく。
だって、これは不幸にするものの筈だ。
それなのに、嬉しいだなんて、そんな…
嬉しいのは、こちらの方だ。
ポタポタと、地面へと水が垂れる。
おかしいな、今日は雨なんて降っていないのに。
彼は先程と同じように優しく目元を拭う。