ts囚人ロジャグレ。
・あれだけ血やいろいろでドロドロになるならどっかでシャワールームくらい使うだろう。頼む使ってくれ。
・囚人グレの制服でベルトにたるんだ生地が油断した腹回りに見えた。
許してほしい。
「……、……まずい」
頭から被った臭い返り血を気持ちよく洗い流し、さっぱりした髪と体を拭いて、下着と眼鏡を着けたところで、認識したそれに眉をひそめた。
見降ろす胸の下……お腹周りに前より肉が付いてる、気がする。何気に少し胸もキツイ。
戦うための腹筋はしっかり感じられるが、薄く、というか、下着が食い込むくらいの柔らかい肉がいる。
……まぁ、心当たりは確かにある。むしろ心当たりがありすぎて困る。
不摂生の自覚はあるし酒も飲めば煙草はやめられない。こんな世界でこんな仕事してるんだからストレスは良き隣人だとしても、確かに最近の不摂生は普段より加速していたようだ。
この肉はその成果物。
「う、うぅん……」
つついても無くなってくれない肉をつつきながら考える。
単純に腕で削ぎ落したりなんかして、無計画に旦那に迷惑をかけるわけにもいかない。
とりあえず食事制限が先か。運動は戦闘が不本意ながら適度にあるのと、訓練と称してヒースクリフあたりと手合わせしよう。煙草と酒は……駄目だ、もし止めたら呼吸するだけで気が狂う。
今思いつく案を整理して、タールより重いため息と共にシャツへ手を伸ばした時、不意に後方のドアが開かれた。
「あわァア」
「あれ、グレッグ?」
勢いでしゃがみ込み、振り返ると今一番会いたくない相手の姿。
ロージャは頭をぶつけないようにドア枠より下げて不思議そうな顔を覗かせている。
「何、なに」
「誰もいないと思った。何してんの?」
「いる! いるから! は、早く閉めろ! 使用中!」
あとこっちを見るな。
咄嗟に掴んだシャツで胸元は辛うじて隠しているが、届かない背中側は当然丸見え。
いやだ、バレる。
ただでさえ恥ずかしい恰好なのに、その上この肉を知られたら——。
「…………はぁい」
妙な間を置いて顔を引っ込めるロージャ。
ドアが閉まる気配に、ひとまず危機を乗り越えたと胸をなでおろしていると、油断した意識を貫通する言葉が飛んで来た。
「ぷにぷにしてるグレッグも可愛いよ。安心して」
ぱたん。
無常を表したような音がやたら遠くに聞こえた。
「…………」
汚れを落としたばかりなのに冷や汗が止まらない。
ああもう、最悪。
絶望と大荒れの思考で今後を考える。
まずはこの後ロージャを一回殺して、夜はひたすら逃げ回ろう。多分、それが身の安全を守る最善策。
「……何が、安心して、だ……」
一番安心できないケダモノのくせに。
再び重いため息を吐き捨てる。
誰も味方がいない中、憎たらしい肉だけが寄り添ってくれていた。