呼吸を、聴く。
冷える体を抱き寄せて、少しでも、彼を温めるように。
ロージャは時々不安定になる。
頻度は少ないが、座席に乗っている時の雰囲気や、夜に孤独を得ようとする姿は最初からあった。まだこの関係になる前、管理人の旦那が来る前の話だ。
普段は他のメンツと比べて意志の疎通が容易いのに、その時だけは妙に大人しく、様子にも違和感があった。一度気になって話しかけたら、定期的に不安定になるだけだから気にしないで、と力無く笑っていた。
そして、管理人の旦那が合流して、ロージャからの気持ちを受け入れてからは、こうして夜に部屋へ引き込まれることが当たり前になった。
ただいつもと違うのは。
まず、セックスはしない。
とろけるような甘い言葉も無ければ、優しいキスのひとつもない。
その代わりに、何かに縋るように抱きしめて来る腕と、何かに耐えるように乱れる呼吸が彼の感情を教えてくれるのだ。
その何か、を知る由も無い。
誰だって知られたくない過去はある。その過去に何を思い、何を考え、何を抱えてしまったのかも。
枝を得る関係上、仲間に知られてしまうことや知り得てしまったことはあるが、当然それが全てとは限らない。
このバスに乗る者が恐らくそうであるように、林檎の悪夢に怯える私がそうであるように、ロージャもきっと。
だから、私は何も言わない。
目と口を閉じて耳を塞ぎ、ただ彼のそばにいるだけだ。
私は何も知らないし、何も聞いていない。かすかに震える体も嗚咽のような呼吸も、背中に沈む手の強さも、全部知らない。
そうやって受け入れることが正しいと、信じたいから。
柔らかい髪を撫でてそっと抱きしめる。
大丈夫なんて無責任なことは言えないけれど、せめて、この低い体温を慰められたらと願って。