雨中烈火最初の接吻は、はっきりと覚えていない。
剣戟の最中だったか。
妓楼の中だったか。
こんな雨の日では無かったはずだ。
「ぼんやりしてっと死ぬぜ!」
眉間目掛けて突き出された剣先をはたき落とす。
弾かれたことで開いく胴に躊躇無く踵をねじ込んだ。
「ぐ、ぅ!」
「……隙だらけだ」
「ぅ……はっ! 蹴りの一発で満足なのかぁ? お安い野郎だ!」
赤い唾を吐き捨てながら笑う男。
薄暗く濡れ、傷も増え、着物も髪も重さを増してなお隻眼は烈火を宿していた。
口端を吊り上げ、呼吸が整うとすぐ切りかかって来る。
何度、何十度、星霜を重ねるかの如き剣戟。
今日が初めてでは無い交剣で、弾ける火花に垣間見る烈火から、いつしか、目が離せなくなっていた。
748