「だぁから! そんなの私には似合わないって!」
「やってみないと分からないですよ」
「そう。やってみたら案外しっくりくるかも」
「しっくりこなかった時の代償がでかすぎるんだよ! ほらあの隅見てみろ! 良秀が腹抱えて笑ってやがるじゃないか!」
橙色の乙女と、無表情の中に期待を滲ませる美女に追い込まれて喚き散らす。
年長者としてみっともない? 大人なのに情けない?
やかましい。彼らが持つそれらから逃げられるなら無様にだってなってやる。
「せっかくウーティスがグレゴールのために裾上げまでしてくれたのに……このミニスカメイド服」
「上げすぎだろ。私の足はそんなに短くないぞ」
イシュメールが手に持った白いフリルと黒いスカート生地のコントラストが絶妙な、所謂メイド服を撫でる。どこから調達したのか知らないが、デザイン自体はよくあるコスチュームプレイに使用されるようなオーソドックスなものだ。スカートの丈が異常に短いことを覗けば。
「お前らならともかく、この歳でそんなに足出せるかよ。出したら事故だよ事故」
「だからソックスも用意した。長さはスカート丈と調整して、動かなければ肌は見えず、動いて初めて太ももの絶対領域が展開されるこだわりの逸品」
ちなみにガーターベルト付き。
普段は気だるげにして、人付き合いから距離を取るようなファウストが何故か前のめりで売り込んでくる。
二人とも、少なからずこの会社の理性だと思っていたのに、どうして。
どうして私にミニスカメイド服を着せたがるんだ!
「どうしてってそりゃ面白いからだろ」
飛んで来たヤジを睨みつける。
睨まれたヒースクリフはわざとらしい口笛を吹きながらあちらを向くだけだ。
「面白いからは、まあ……けど、似合うというのは本当です。さあ」
「結局面白がってるんだな……」
薄々気づいていた結論にがっくりと項垂れた。どうもこの会社には私で遊んでいい風潮があるように思えてならない。
何がそうさせているんだろう。世渡り下手が原因か?
「楽しそうなことしてる~!」
「ロージャ」
「げっ」
不運は続くもので、今一番来ないでほしいと願っていた男が上機嫌で近づいて来た。
「グレェッグ、恋人に向かって、げ、はダメ」
「……」
「イシュメール、その服は?」
目敏くイシュメールが抱えたままのチンドン制服を受け取り、まじまじと眺めながら彼女から今までの経緯を聞くロージャ。流れでファウストからもこだわりのソックスなる説明を受けた後、眩く咲くような笑顔をに向けた。
——あ、逃げ遅れた。
本能が降参すると同時に体を拘束され、ひょいと手荷物のように抱えられる。
「イシュメール、ファウスト、悪いけど借りるね。洗って返すから」
「別に」
「……使用感の感想とかあったら後で教えて」
「うん。ありがと二人とも」
ロージャは橙と銀色を一回づつ撫でてから、変な衣装と抵抗してもがく私を持ってどこかへ歩きだす。
「なんか…………生々しくてちょっとアレだな……」
若干目を細めて呟かれたヒースクリフの言葉に、誰も何も言わなかった。