ちゅう。
ちゅ。
可愛すぎるリップ音がちょっとだけ照れ臭い。
私の薄くて手入れもそこそこな唇と違って、ロージャはケアに関心があるからキスしていて気持ちがいい。ハリがあって、すべすべで——少し、甘い。
「イチゴの飴でも食べたのか?」
キスに溺れそうなのを誤魔化しつつ、気になった匂いについて聞いてみた。
腰を抱く腕はそのままに、やや考える素振りを見せる。
「甘い匂いがする」
「ああ、香り付きリップ付けてるからね」
「香り付き?」
「そ。今日はイチゴの香り付きリップクリーム」
ロージャがポケットから出したのは淡いピンク色をしたリップクリーム。
見た目は一般的なそれと変わらないが、キャップを開けると確かに甘い匂いが鼻をくすぐる。
「他にも色々種類があって、匂いだけじゃなくて味も付いてたりするよ」
「ふーん。味付きは舐め取ってしまいそうだな」
「ふふ、ほんとだね。……グレッグ、ちょっと上向いて」
自然な動作で顎を掬われてロージャと目が合う。
何をするのかと思えば、私の唇をひと撫でしてリップクリームを塗りだした。
「動かないで」
「……」
「良い子」
優しい声で褒められる。
年下から良い子なんて言われるのは落ち着かないけど、惚れた弱みか、嫌じゃない。
「せっかく可愛い唇してるんだし、ちゃんとケアすればいいのに」
「でもなぁ」
「じっとして」
「う」
丁寧にしっとりと保湿されていく唇から甘い匂いがふわり。
「はい、できたよ」
「ん、ありがと……へぇ、ぺたぺたしてる」
「あんまり触らないで。あと舐めないようにね」
「舐め……子供じゃないんだからしないよ」
私をいくつだと思っているんだと呆れて笑えば、ロージャも意味有りげに微笑む。
「そう? 味付きの付けてる日とか、グレッグのキスが積極的になるのは無意識から?」
ぐっと顔を覗き込まれ、喉を呼吸が擦れる。
「そ、れは」
「気づいて無いなら教えてあげる」
そう言って、クリームを塗ったばかりの唇をぱくりと頂かれてしまった。