「あ、の……ロージャさん?」
「なーに?」
「分かってるくせに」
背中には無慈悲な壁。
これ以上下がれないのに、距離を詰めて来る男を怪訝に見上げた。
「ち、近い」
「うん、抱きしめていい?」
「そんなこと今更……」
男女の仲になってハグは何度もしたしされた。体格差のせいですっぽり包まれてしまうのが心地いいと、まだ本人に言えていない。こちらからは片腕しか回せないのが残念でならないとも。
「えっと、じゃあ、ちょっと待ってくれる?」
「うん?」
「腕の袋取って来るから」
ロージャを静止して夜眠る時などにつけている革の袋を探す。
その気になれば革くらい裂いてしまえる腕だが、寝ている間程度なら覆いとして役に立つ。
特に、理性がちかちかして無我夢中で彼にしがみつかないといけないような夜には必須だった。
「はい、これでいい……何笑ってるの?」
腕に袋を装着して振り向くと、ロージャが笑いをかみ殺している最中だった。
どうしたのだろう。
「ねえ、私は抱きしめていいか聞いただけだよ」
「え? うん」
「抱くとは、まだ言って無い」
でも積極的で嬉しいな。
固まる体を抱きしめられて、やっと顔が熱を持った。
やらかした。いつも夜はそうだったから。
「ち、ちが、これは、ちがっ!」
「うんうん。愛してるよグレッグ」
頭は炎上して言い訳も作れず、空回りする舌をキスで絡め取られる。
ああもう、そもそもロージャのせいなのに。
彼とする習慣で何も考えずしまっただけなのに、期待してるみたいで恥ずかしい。
「……ばか」
乱された呼吸で空気を集めて悪態をつく。
そんな弱弱しい攻撃も、ロージャは笑って受けながら、シャツに手を掛けるのだった。