俳優パロ その1男にも女にも見える美しい悪魔──エリクスと、凄腕の悪魔祓い──ザ・パニッシャー。
狩るものと狩られるもの、立場も種も性別も越えた彼らの愛の果てに待ち受けるものは…──。
「……何やねんコレ」
事務所の責任者とマネージャー、そして、自分。
三者は渋い顔を付き合わせて、企画書に目を通す。キャッチコピーだろうか、コンセプトアートに謳われた一文を読んで、ウルフウッドは目を眇めた。
「全9話。動画配信で来春放送予定、だと」
既に興味を無くしたのか、今現在事務所の長を預かるロベルトは、ソファーにどっかりと背中を預けた。
「いやいやいや、これどー見てもホモ向けAVやんけ」
「あら、そんなこと言うものじゃありませんわ!それにこれ、ちゃんと純愛ですのよ!」
そうやないねんて嬢ちゃん。ウルフウッドは年下のマネージャー兼事務員のメリルを一瞥すると溜め息を吐いた。
ウルフウッドには分かっていた。ここで異を唱えようと、自分が所属するベルナルデリ芸能事務所の存続の危機は依然として継続しているのだ。
所属タレントも今や自分と、弟分のリヴィオしか残っていない。役者志望の自分達に回ってくるのは、いいとこエキストラ役ばかり。直近の仕事に至っては、イベントの着ぐるみ(しかも、リヴィオが貰ってきたアルバイト)だ。
「すごいじゃありませんか!いきなり助演ですよ!!」
セリフもいっぱい貰えますよ!メリルは鼻息荒く喜んでいる。
「せやかてなぁ……」
テーブルに散らかった書類を一枚つまんで持ち上げる。そもそもオーディションも無しに何故弱小事務所に、しかも何の実績もない無名の役者を指名してくるのか。一言で言うと怪しい。
「なぁおっちゃん、ほんまにコレ受けんの?何かヤバいことに巻き込まれたりせぇへん?」
ウルフウッドの胡乱げな視線を感じて、ロベルトは誤魔化すように胸ポケットから煙草を取り出す。
「先輩?」
メリルがじとっと見てくる。世の禁煙の風潮に流されて、我がベルナルデリ芸能事務所もまた喫煙者の肩身が狭くなったものだと、ロベルトは眉根を上げて取り出した煙草を元に戻した。代わりに、テーブルサイドに置いてあるキャンディボックスに手を伸ばす。
「社長のツテで回ってきた仕事だ。断るのは無しだ、ニコラス」
「そぉいうことなら、しゃあないけどォ…」
ウルフウッドもキャンディボックスに手を突っ込み、中の物を掴めるだけ掴んでテーブルに色を散らかす。ロベルトはキャンディボックスの減りが早い理由を見咎めたが、同じ喫煙者として心中察するものがあったので何も言わないことにした。
「それじゃ、今夜ご挨拶に行きましょう!」
「んぐっ!?」
名案だと手を打つメリルの明るい声に、ウルフウッドは危うく頬張ったばかりの飴を飲み込みそうになった。
「ああ?顔合わせは月曜じゃなかったか、新人」
「そうなんですけど、向こうの方から返信頂きまして。是非とも親睦を深めたいから早々に挨拶をしたいそうですよ」
ほら!と、メリルに向けられたスマホの画面には慇懃無礼な言葉が並び、確かにそういった文面が書かれていた。
「ずいぶん腰が低い方なんですねぇ、ヴァッシュさん。駆け出し同士、仲良くしたいのかも知れませんよ!」
「…誰が駆け出しやねん、誰が」
学費の足しに始めた子役仕事から数えると芸能活動が10年は越える自分と、ぽっと出の雑誌モデル上がりと同列にするなと、ウルフウッドは甘い飴を苦々しく噛み砕いた。
彼の持つ書類には、髪を伸ばした美しい金髪の青年が写っていた。白く浮かび上がる半裸の青年は、確かにこの世ならざる妖艶さと儚さを持ち合わせているようだった。
「……ぜったい根暗のホモやで」
「ウルフウッドさん!言葉遣い!」
かくして、ウルフウッドはあまり気乗りしない仕事の挨拶回りをすることになったのだった。
「──でね、僕が……って、もー!ウルフウッド聞いてる??」
まさに弾幕だった。このヴァッシュという男、息つく間もなく、既に30分近く喋り倒しているのだ。
「あ、あの、ヴァッシュさん、そろそろ時間じゃありませんか…?」
「あっそうだね!ありがとうメリル!それじゃ、二人ともまたねー!!」
人懐っこく破顔して、いっそ太い尻尾を振る幻覚さえ残して、ヴァッシュは廊下の向こうへ走り去った。姿が見えなくなった先でも、悲鳴と「わーっごめーん!」と謝る声が聞こえてくる。
「えーと…」
ロビーのソファに座ったまま、身動ぎしないウルフウッドの横顔を見ながら、メリルはどう話しかけたものかと考えあぐねていた。
芸能界は信頼関係だ。挨拶に始まり、互いの仕事に敬意を払い合う。皆で作品を作り上げるのだから、兎に角にも信頼関係を築くことが肝要なのだ。ウルフウッドはそう叩き込まれ、普段の素行の悪さは端に、至極真面目に紳士的に仕事に取り組んできた。
それをなんだ。
「わあっ、来てくれたんだ!ありがとー!」
おはようございますの「おは」の口の形で固まるウルフウッドに金髪の青年はニコニコと駆け寄ると、メリルとウルフウッドにハグでもするように両手を差し出した。
「ヴァッシュ・ザ・スタンピードでっす!よろしくね!」
そう自己紹介すると、右手でメリルの、左手でウルフウッドの手を取り、ブンブンと握手した。
メリルが気圧されながらもなんとか挨拶を交わし、ヴァッシュに自分の部屋よろしく促されるまま、ロビーに備え付けられたソファーに腰掛けると、件の弾丸トークが始まった。
やれ役者の仕事がこんなに大変だなんて思ってなかったやら、やれスタジオで迷子になって違う現場に入り込んで怒られたやら、エトセトラエトセトラ。
こう見えて意外と勤勉なウルフウッドからすると、仕事を舐めているとしか思えない言動の嵐だった筈だ。メリルは、ウルフウッドがいつヴァッシュの胸ぐらを掴んで恫喝しやしないかハラハラしていたのだ。
ウルフウッドは詰めていた息を、それはそれは長く吐き出し、無の表情で口を開いた。
「なんっっっっっっやねんアイツ聞いてもおらんことベラベラベラベラ喋り倒していきよって嵐か人間台風か人になって出直してこいっちゅーねん」
メリルは、スマホに上司への報告を打った。
助けてください!どうしましょう!初顔合わせ失敗しちゃいました!
上司からの返事を待つ間、今なお文句が止まらないウルフウッドの旋毛を見ながら、メリルは自分の中の引き出しを引っ掻き回してフォローの言葉を探す。
いいから、帰ってこい。
ペコンと気の抜ける音がして、震えたスマホには呆れた顔のスタンプが添えてあって、メリルは撃沈した。
っていう俳優パロ考えるの楽ちい!楽ちいね!
ウルフウッドはセリフ覚えるの苦手でイントネーションも直せなくてめちゃくちゃ苦労してるのに、ヴァッシュはエリクスが憑依してるのかってくらい役を演じきる。
これが才能っちうもんかって凹むウルフウッドをヴァッシュが無邪気に応援するもんだからカッとなって押し倒したうえ、レ◯プまがいのこと(not挿入)(癖です)して余計気まずくなるっていう…(後のハピエン)
ちなみに、ウルフウッドはセリフ貰えた役がエキストラの葬儀屋スタッフだったので、現場スタッフに影で葬儀屋って呼ばれてる(本人も知ってる)
でも、その撮影の斎場(あれ?ここ日本?)で本当に葬式をあげていたヴァッシュに本物の葬儀屋と間違われたまま食う笑論で励ましたことをウルフウッドは忘れている(癖です)