士道龍聖のストッパー。試合終了のホイッスルが鳴り響く。4ー2。Uー20代表戦練習試合は、糸師冴の率いるチームの勝利で幕を閉じた。
盤石とはまさにこのこと。冴は士道を獲得し、チームとして更なる飛躍を遂げていた。
整列に一足早く並ぼうと動く。すると、独り言かのような音量でなにか聞こえてきた。「……クッソ、卑怯だろ。こんなバケモンと戦んなきゃなんねぇとか………」
冴は聞き流そうとそのまま足を止めない。すると、バキッ、と何かを殴るような音が鼓膜をつんざいた。
「あァー なんか言ったかよ、聞こえねぇなぁ♡」
「…士道」
冴は大きく顔を歪めた。威圧がかかる雰囲気に、士道は手当たり次第に相手チームの選手を殴ろうとかかる。
後先考えねぇ、快楽バカが…。心の中で口汚く罵った冴は「おい」と士道を牽制しようとした。 その時聞こえた声がなかったら、冴は士道を半殺しくらいにはしていただろうか。
「クソバカ……。他人のフリしてやったのに、お前ほんっとどうやって糸師冴のチームに入れたの」
「ア…?星来、か?」
「むしろ気付いてくれてなくてよかったよ、恥ずかしい。え、僕こんな性欲ゴリラに負けたの?」
「精通もまだなガキにはわかんねェんだな、俺のこの凄さが♡」
「…糸師さんですよね。え、アイツ淀川に落とすの手伝いますよ」
「…………そうだな」
冴はうまくその少年を横目で見る。身長が180ある冴の、頭2つ分は低い。試合中だったから顔は覚えていなかったが、2点決められたのは間違いなくこの少年からだった。
黒髪童顔で、あどけない顔立ちをしている。正直小学生くらいかと冴は思った。
少年、と呼ぶのが一番しっくりくるような。士道と並ぶと真逆さがヤバい。
「星来てめェ、まだサッカーやってたんか♪ 中学までしかやんねェとかほざいてたろ、クソガキ」
「そもそも始めたのが中2なんだけどな。僕も呼ばれたんだよ。どっかの性欲ゴリラと一緒で」
冴は少し思考を停止。そうして、耳を疑う。
中2から?冗談だろ、じゃあサッカー歴何年だ?中学校から、この成長速度?
冴は思った。初対面の俺にも気軽に話しかけてくるコミュニケーション能力。サッカーセンス。何よりも、問題児・士道龍聖のストッパーにもなる。
これ以上が、あるか?少なくともそっちのチームは決して強くはなく、調整相手もいいところ。
チームに恵まれなかったで、廃れていく才能はあってはならない。冴の持論だ。
「…お前、ポジションは」
「SBです。」
「オイ星来、そうだ、お前俺のチーム入れよ。お前女のLINEクソ知ってるし、サッカーまぁまぁ出来るし、便利だからよぉ♡なぁ、入れよ。そしてお前のオンナを俺に分けろ粗チン」
「はァ?嫌だよ、みんな僕のカワイイ彼女とセフレだから、お前にやるわけねーだろゴリラ。 つーか入れるわけねぇだろ、規則的に。糸師冴のチームだぞ」
「ア?何でだよ、オイいいよなァ下まつげ」
「あぁ。規則の方は後で俺が交渉に行く。歓迎するぞ、星来」
「……あっはは!遠慮します!」
にっこり可愛い笑顔を浮かべて、星来が全力否定した。すると、冴はゆらりと歩き出し、首だけ星来の方に傾け、
「決定事項」
威圧。星来の喉がひゅっ、と、嫌な音を立てた。