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    izumik22

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    izumik22

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    つづき。夏の思い出作ろうぜ!編(?)
    やっぱりステージにいる🐝が好きだなぁと思いながら書きました。
    次回への繋ぎ部分でもあるので、わりとあっさりめの話です。

    #燐ひめ
    rinhime

    期限付き〝恋人ごっこ〟する~(以下略)⑤「「「「オフ?」」」」

     寸分のズレも無く重なった声を、アイアイ!と相変わらずの仰々しい敬礼が打ち消した。事務所のスタッフは慣れたもので、誰一人自分の仕事の手を止めたりはしない。
    「例の発表からこっち、Crazy:Bの皆様方には多方面で華々しい活躍をしていただいておりますからね。アルバムのプロモーションもひと段落したことですし、二日間だけですが休日を入れておきました」
     コズプロはブラックな労働環境では無いと関係各所にも伝わるでしょう!と、こちらが本音だろう。茨の示したスケジュール表には確かに手書きの赤字でオフ!とスピード感満載に記載されている。なるほど、来月から始まるツアー前の最後の休息ということか。
    「惰眠を貪るも良し、自主的に己を高めるも良し!皆さんお揃いで仲を深めるのも宜しいでしょう。迷惑行為だけはおやめ下さいね!」
     そう言いながら手渡されたフライヤーには、セゾンアベニュー周辺で開催されるサマーフェアの告知が大きく載っていた。

    ***

     久しぶりにゆっくり買い物に行こうか、それとも気になっていたオープンしたてのカフェに行こうか。そう密かに浮き足立っていたというのに。
     真昼に比べればいくらかはマシ、程度に日差しがほんの僅か和らいだ夕方になって、唐突に訪れた燐音によってHiMERUはマンションから連れ出されていた。文句は言った。当然受け流されたけれど。
     それから街の入り口で手を振るこはくとすでに両手いっぱいの食べ物を抱えていたニキと合流し、結局四人揃ってフェアで賑わう通りを散策している。こんなに付き合いの良いユニットだっただろうか。

    「あー待って!あそこに揚げたてのドーナツ売ってる!」
    「ニキよォ、とりあえずその抱えたモン食っちまえば?」
    「揚げたてには揚げたてにしかない味があるっす!!秒で鮮度が落ちるんすよ!」
    「わかりますよ椎名」
    「HiMERUはんもノるんかい」
     ケラケラと声を弾ませながら。うっすらと一番星が輝き始めた空の下、店先を気まぐれに覗き込みながら歩く。日が沈むにつれて人の波も増えてきた。夏の夜というものはどことなく気分が高揚するから不思議だ。
    「四人してこない遊ぶん、いつぶりやろなぁ」
    「昔、大阪の街で同じようなことしましたね。一応アレは仕事でしたけど。もしかして今日のコレもオフショット撮って提出を求められているのでしょうか」
    「コッコッコ。知らん知らん。あん時もニキはんは食べモンのことばっか言ってたな。燐音はんも阿呆みたいな写真撮ったり」
     変わっとらんな、みんな。こはくの少し大人になった声が零した呟きに苦笑しながら、ニキと並んで前を歩く背中に視線を向けた。相変わらずふらふらと定まらない、それでも確かにこのユニットの指針であった背中をいつからか信頼に足るものだと思うようになっていた。ステージの上に限って、という注釈は付けたいが。

     正直に言ってしまえば。降って湧いたこのオフ、燐音が連絡も無く家に来た時点では、ここぞとばかりに籠って時間も忘れて欲に溺れることになるんじゃあるまいなと思っていた。大概思考が毒されている。
     策を巡らせる余裕も無く本能のままにHiMERUを喰らう燐音のカオを、こはくも、一緒に住んでいたことのあるニキですらもおそらく知らない。同時に、溢れる嬌声を必死で噛み殺すHiMERUのさまなど当然知る由もない。いつもと変わらず四人で歩いているのに、燐音とHiMERUの間に二人しか知らない時間がある。秘め事は麻薬みたいなものだ。後ろめたさの中の快楽が癖になって、離れられなくなりそう。
     それでも一歩外に出れば、こうして適度な距離感を保ったユニットメンバーという感覚で居られるのだから不思議なものだ。外で見る燐音は、相変わらず騒がしくて自分勝手で調子が良い。
     か細い声で誰かの名前を呼んだりしない。
     だからHiMERUも、何もないように振る舞うだけだ。


     街の端にほど近い広場に出たところで、軽快な音楽が夜風に乗って耳に届いた。音の出処を探してみると、広場の中央に人だかりができている。
     板を組んだだけの小さなステージ。五十センチほどの高さしか無いそこでは、通りすがりの見物客がランダムに流れる曲に合わせて入れ代わり立ち代わり自由に踊っているようだった。
     技術なんて関係ない、誰もが笑いながらメロディに乗って身体を動かしている。心ごと弾むような空間に、ふとユニットとしてデビューした頃を思い出す。書類だけ渡されていつの間にか結成させられていたユニット。あれから数年、休日に揃って遊びに繰り出すようになるなんてあの頃誰か想像しただろうか。
    「……よォっし、腹ごなしだ。行くぞテメェら!」
    「は!?」
     いてもたってもいられなくなったのか、燐音が駆け出した。腕を掴まれたニキがお菓子の袋を落として、それを拾いながらこはくとHiMERUも慌てて後を追う。
    「お邪魔するぜェー!!」
     先陣を切ってステージに飛び込んだ大きな体躯が、力強く跳ねた。

     そこからはもうちょっとした騒ぎ。
     呆気に取られていたオーディエンスから「え、あれって」「……クレビ?」「うそ、クレビ揃ってるじゃん!!」とすぐに声が上がって。ちょうど流れてきた曲が聞き馴染んだESアイドルのものだったこともあり、ほんの数曲だけのゲリラライブの様相を呈した。
     歌い踊りながら、HiMERUは思う。ちゃんとしたセットも音響も無くて、服だってただのTシャツにダメージジーンズやハーフパンツ。それだってやっぱりステージの上に立てば自分達はアイドルで、自然と燐音の隣に立ち位置をとってしまった。どうしたってそこが一番しっくり来るようになってしまったので。そんなHiMERUに気付いた燐音がくしゃりと眩しそうに目を細めた。キラキラと光が零れるよう。好きだな、そのカオ。

     情報はすぐに拡散される時代だ。話を聞き付けたファンだけではなく野次馬までが続々と集まってきて、さすがにちょっとしたお遊びでは通じ無さそうになってきた。騒ぎを収めようと警察でもやってきたらシャレにならない。せっかくのオフが取り上げられてしまうかも、と四人はササッと視線を交わすと逃げる算段を付ける。きっとすぐ茨の耳に入るだろうけれど、集まった観客の楽しそうな顔が見られたから良しとしよう。
     ダンスの振付けに紛れるようにステージを飛び降りて。
    「メルメル!」
    「……っ」
     汗ばんだ掌がHiMERUの手を取った。
     ステージを振り返れば、反対側からニキとこはくが駆け出すのが見える。
    「じゃあなおまえら!またな!!」
     大きく手を振りながら。燐音は集まったオーディエンス、それから対面の出口から広場を去ろうとしている二人に向かって叫んだ。

     思いがけず楽しかった時間はこのままお開きらしい。引かれる手にぐっと力が込められたのを感じて、そこからはひたすらに二人で夜道へ飛び込んだ。
    「ちょっと、どこまで走る気ですか!?」
    「行けるだけ!」
    「なんですかそれ!」
     賑わう通りの隙間を縫うように走った。花壇を飛び越えて、散歩中の犬に吠えられて、曲がり角から急に現れた自転車をダンスのステップを踏むように回避して。かと思えば途中何度かすれ違う人と肩がぶつかって、その度にすいませんと半ば叫ぶように言葉を落としながら。
     いい歳をして何をやっているんだと思うと、思わず笑いが込み上げてきた。それを拾ったのだろうか、足を動かす速度は変えないままに燐音の声も弾ける。馬鹿みたい、それなのに見えるもの全てが煌めいて愉快だ。
     同じユニットのメンバーで、同性で、良かった。こうして二人で居ても何も不自然じゃない。スキャンダルになりもしないのだから。
     先導する手が離れないように強く握り返す。一人の方がきっと早く走れる。わかっているのに、そうしなかった。したくなかった。それどころかもっと深く繋がりたくて堪らない。なんておかしな夜。


     行けるだけ走る、なんてふざけた物言いには当然限界が来た。勢いのまま駆け込んだ地下鉄の、人が疎らな車両の隅で荒い息を必死で整える。発車ギリギリに飛び込んできた二人を乗客は迷惑そうにちらりと見てすぐに視線を逸らしてしまった。人目を避けるように俯く軽薄そうな雰囲気の若い男二人、関わりたくないと思うのが普通だろう。他人に興味が無い、そんな都会の風潮が今は有り難い。
     やがて額を伝う汗が引いた頃、車内アナウンスが機械的に読み上げたのはHiMERUの自宅マンションの最寄りの駅名である。無意識かそうでなかったのか、ここまでずっと身体の陰で繋いだままだった手。電車がゆっくりと速度を落としていく。手を離して距離を取って、お疲れ様でしたとホームに降りればきっと〝メンバー同士の仲を深める〟機会に恵まれた一日が終わる。いつもなら迷わずそうする、けれど。


     ドアが開く直前、絡んだ指先が解けようとするのを引き止めたのはHiMERUの方だった。


    ***


     隣家への迷惑を考えることもせずに勢い良く玄関のドアを閉めたのは初めてだ。金属のぶつかり合う重い音が廊下に響いた。
     しまったなと苦く笑いながらも考える前に身体が動く。熱くなった指で後ろ手に鍵をかけて、冷えた扉に引き込んだ男の背を押し付けた。ほとんど変わらない身長。目の前の首筋に額を擦り付けるようにして顔を埋める。汗でベタつく肌が放つ燐音自身の匂いに、漏れた息が震えた。靴も脱がずに真っ暗な玄関で何をやっているのだろう。
    「……どォしたよ」
     普段の饒舌さが嘘のように引かれるまま付き従ってきた燐音が、ここまできて漸く口を開いた。呆れか、惑いか、あるいは想定内とでもいうのか。わからない、ただHiMERUの後頭部に添えられた掌が温度を上げた気がした。
    「天城、……あまぎ」
     求める声が舌に絡みつく。自分が発していると信じたくないくらいに甘ったるくて、媚びるみたいで気持ちが悪いのに。目を覚ましてしまった欲求をどうにかしたくて、それができるのは目の前の男だけだと知っている。
    「あまぎ、シたい」
     身体の内側からジクジクと熾火に焼かれていく。久しぶりにあんなに近い距離で観客の興奮する顔を見て気が昂っているせいだ。それからドラマじみた短い逃避行のせい。……けれど、それだけでは無いこともHiMERUはとっくに理解していた。
     何の制限も無いステージで飛び回る燐音を、向けられる笑顔とか熱量とか全部、欲しいと本能が訴えたのだ。今日は健全な一日を終えるはずだったのに、理性なんてあっという間に負けて欲は簡単に顔を出した。だって今だけは紛い物でも〝恋人〟なのだから良いだろうと言い訳をして。
     自覚した恋心が厄介で憎らしい。憎らしくて、愛しかった。
    「メルちゃんってば、欲求不満~?」
    「嫌なら勝手にするから。身体だけ貸せ」
    「オイオイ、俺っちのカラダ目当てだったのかよォ。メルメルのえっち」
    「……そうですよ。それだけでしょう、俺とあんたは」
     顔を寄せた首筋がピクリと跳ねる。大きく息を吸い込んでから吐き出す、その筋肉の動きまでも伝わって、HiMERUは思わず強く目蓋を閉じた。

    「――ずりィよな。本当」

     それは、どっちが?
     苦笑めいて聞こえた呟きに疑問符が頭上を掠めかけたけれど、腰を抱き寄せてくる大きな手の力強さにそんなものは瞬時に消えて。

    「シよ」

     何回でもできそう、と耳奥に注がれる秘めやかな声が脳を侵した。

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    izumik22

    SPUR MEつづき。ここから後半です。
    前回の話から少し時間が経ち、燐音不在、クレビの他3人は個人活動をしています。
    要くんが元気です。(会話パートはありませんが、存在してます)
    大きな出来事の無い日常。ここからしばらく燐音くん出てきません🙇‍♀️💦
    ~〝恋人ごっこ〟する燐ひめ ⑦ 仕事に追われる毎日の中で、時間はすり抜けるように過ぎていった。冬を越えて、春を越えて、夏を越えて。それを二周。気付けばあと数か月であれから丸二年、HiMERUは二十五歳になっていた。あくまでも公式プロフィール上である。

    ***

     ガラガラと引き摺るキャリーケースは日本を飛び立った時に比べると随分重くなった。主に仲間たちや大切な家族へのお土産が増えたからだ。菓子箱は嵩張る。
    「蒸し暑い……っ」
     遠慮を知らない太陽はもうとっくに沈んだというのに、夜になってもなお汗ばむこの国の気候は好きになれない。十五時間に及ぶフライトを終えて帰国したHiMERUは、空港ロビーを足早に抜けながら小さく舌打ちをした。

     連日最高気温を更新し続けていた真夏の日本を抜け出したのは一か月と少し前のこと。フィレンツェに活動拠点を置く瀬名泉の指名を受けて、ブランドのイメージモデルとしてヨーロッパでのショーに幾つか参加していた。相変わらずプロ意識の高すぎる瀬名はなんだかんだと口うるさく言いながらも仕事相手としてHiMERUを気に入っているらしく、同じステージに立つ機会も少なくない。HiMERUが個人活動を始めてからは特に。
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