期限付き〝恋人ごっこ〟を~(以下略)②(――――そもそもあんなことしなきゃよかったんだ)
ダンスレッスンのあった日はしっかり湯船に浸かると決めている。
両手で掬った少し温めの湯をパシャリと顔面に押し付けて。ふぅ、と細く吐き出した息が水面に波を立てた。濡れた勿忘草色の前髪を額に張り付けたまま、湯気が燻る天井をぼんやりと見上げる。
流されるままにイかされた。事務的な性欲処理、名付けるならばそう呼ぶのだろうあの行為。あの時に拒絶していれば「その次」なんて有り得なかったのに。
(――最後まで、なんて。案外できちゃうもんだな)
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一線……なんて貞淑な娘でもないのだけれど。他に表現のしようがないそれを、あれから数日後にはあっさりと越えてしまった。何の皮肉か、その日は燐音の二十六回目の誕生日。
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