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    まえにし猿棚

    @ooops_sartana

    一次創作BLの超短編を置いています

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    まえにし猿棚

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    イチャイチャ×ヒルビリー×都市伝説。アメリカのど田舎のお巡りさんコンビ、40代の自分をおじさんって言うタイプの先輩×20代のスカした後輩

    【スリーピング・デューティ】塩対応よりはペッパーポッツ 明らかに何かおかしいと思っているのだろう。マルボロの家へ行くと行った時、母は2回に1回の「何しに行くの」と尋ねる。もう21を超えた息子に言う言葉ではない。が、疎みつつもリグレーは母を尊敬していたし、こんな狭い田舎町、下手な嘘はすぐに露見する。だから大抵は正確に答える。「野球カードを見せて貰いに行くんだよ、何せ彼のは凄いコレクションだからね」「来週の競馬の勝ち馬を予想するんだ、下手なマネートレードより難しいよ」
     嘘はついていない。ただ、その建前は等閑にしかこなされず、大抵の場合ビールを一本飲んだらベッドへ雪崩れ込む。
     今夜のように、警察署から呼び出しがあった時はいっそ気楽だった。昔はサイレンを鳴らしていたそうだが、何度も襲われる内に人は学習した。アレは大きな音へ過剰反応するので、刺激しないよう個別受信機、最近はスマートフォンに通知が入る。
     スピーカーから聞こえてくる恋人の声に、いそいそと支度を整える息子に夜食用のサンドウィッチが入ったランチボックスを渡しながら、母はさも心配そうに息子の顔を見上げる。
    「大丈夫だって。警察署までは車で10分も掛からないんだから。母さんと父さんこそちゃんと戸締りして地下室へ……ウェンディは?」
    「友達のうちかしら」
    「後でテキスト送っとくよ……」
     何せ妹は17歳、遊びたい盛りだ。夜にほっつき歩いて、友達とたむろしたい気持ちも分かる。けれどアレはそんな事情、全く加味してくれない。リグレーの同級生でも、度胸試しを気取ってバドの6パック片手に森へ踏み入り、左腕しか戻って来なかった青年がいる(奴は右利きだったので、ビールも奪われてしまったという事だ)
     ショットガンを手にした父へ促され、キッチンの床下から地下室への階段へ向かう時も、母は繰り返し繰り返し息子の方を仰ぎ見続けた。
     愛されているほど失望は大きくなる。大事な跡取り息子が男と寝ていると知った母の行動は、勘当で済めば儲け物、うっかりすればショック死してしまうかも知れない。
     コンビーフ・サンドを齧りながら署の休憩室でそう話せば、マルボロはあの少し「その暁にはおじさんがお前の父親になってやろう」とふざけた事を宣う。
    「母が死ぬって言ってるんです、父親2人もいりません」
    「これがほんとのシュガー・ダディ……」
    「お金くれるんですか? まあ、親父は……家族の名誉を守る為とか言ってる、ショットガンで頭を吹き飛ばそうとするかも」
    「そこまでとなれば、後は駆け落ち位しかないな」
     もしかしたら自分が殺すかも知れない義理の母親が作ったサンドイッチを鷲掴み、ガブリと一口頬張る。「美味いな、タマネギが多い」と至って呑気な顔なのは、口にした大それた言葉が彼の中で全く現実味を帯びていないからだ。
    「置いてけないでしょ、お袋さん」
    「一緒に連れて行って、施設へ放り込むさ」

     州立大学を出て、地下鉄が走っているような街で働く事だって出来たはずなのに、何故こんな寂れた故郷へ戻ってきたか。話す機会があるたび、マルボロは供述を変える。哀しかったり惨めだったりするそれは全てが真実なのだろうと、リグレーは思っていた。
     理由の中でも頻発する「脳梗塞で左半身に麻痺の出た母を介護する為」は特に説得力がある。休日に、まるで玉座へ鎮座在しましているかの如く車椅子の中でふんぞり返る老婆を連れ、スーパーマーケットを歩いているマルボロの姿は、町でお馴染みの光景と化していた。
    「そんな事したら駄目ですよ。お袋さんが可哀想だと思わないんですか」
    「坊や、世の摂理についてのレッスンその1だ。まともな大人なら、40も超えてりゃとっくに親離れってもんをしてるんだよ」
     まるでリグレーが自立出来ていないような物言い。素直に唇を尖らせれば、マルボロはにやりと左側の口角を吊り上げた。
    「お前はまだまだだよ。おじさんにベッタリだもんな」
    「ベッタリされるのが嬉しい癖に」
     口で肯定する事をせず、ペプシを冷蔵庫へ取りに行こうとしたリグレーの腰を抱き寄せる。そのまますとんと膝の上へ腰掛けた若い恋人の頬を撫で、見上げてくる顔は、打って変わって柔らかい。
    「少なくとも、ここにお袋はいない」
    「マーの家でレコード聞いたね、確かクイーンだった。ママを縛り上げろ、パパを締め出せ、弟はレンガを抱いて泳がせとけ」
     出鱈目な鼻歌をすれば「そりゃボヘミアン・ラプソディだな」と訂正される。このスロッピング・ヒュービーで堂々とクイーンを聴いていた男にリグレーが会ったのは、マルボロが初めてだった。ちょっと変わり者なのだ。プリンスは好きなのにブルーノ・マーズは言う程だとか抜かすし。
     彼のそんな、明らかに人と違って平然としているところが大好きで仕方なかった。気障ったらしい所が鼻につく事はあるけれど、あばたもえくぼとはよく言ったものだ。
     そのままご機嫌に顎を持ち上げてくる男の頬を両手で包み、屈み込むようにして口付けようとしたタイミングだった。埃っぽいブラインド越しに差し込むヘッドライトは、お互いの口から漂うお揃いのタマネギ臭へ陶酔させてくれない。
     ドミノ署長が部屋へ入ってきた時、既にリグレーは先程腰掛けていた席へ戻っていた。まだ興奮で赤らんだ頬を、幸い署長は熱いコーヒーのせいだと勘違いしてくれたらしい。自らもサーバーから注ぎ、「今夜はこのまま、無事に済めば良いんだが」と首を振った。
    「ワージントンの家のドアへ盛大な引っ掻き傷があったが、侵入はされてない、電話で確認したが、相変わらず口の減らない爺さんだよ……あの被害の事は明日伝えるべきだな」
    「幾ら吝嗇のワージントンでも、こればかりは文句を言ったりなんかしませんよ。命あっての物だねなんですから」
     頷くリグレーと違い、マルボロの目は一見無害そうに見えて、酷く抜け目ない上目遣いを分厚い背中へ突き刺した。この町の老人の大抵と同じく、口の減らない爺さんであるドミノ署長は、スロッピング・ヒュービー初の黒人署長だった。シドニー・ポワティエのように知的で、デンゼル・ワシントンのように強く、サミュエル・L・ジャクソンの3分の1位の頻度でマザーファッカーと言う。
     彼は部下たちの関係を知らないか、或いは口を噤んでいるだけか。とにかく何も言わないので、2人は取り敢えず隠しておく事にしている。けれどリグレーは、行儀悪く投げ出されたマルボロの脛に革靴の脛を意味ありげに擦り付ける。いい所で止めさせられた腹いせだ。案の定、マルボロは煙草にライターで火をつけながら、剣呑な上目で睨みを利かせる。
    「マー、リグ、報告は?」
    「ありません、サー。今夜も町は寝静まってます、アレ以外はね」
     怒った顔をしている割に、深々と紫煙を吐き出す息の音はやたらと満足そうなのだ。
    「マテルのところの婆さんにも見習って欲しいものですね。彼女、一度孫の子ども用の自転車を漕いで20マイル以上逃げやがった。どんだけ足腰が達者なんだ」
    「あそこまで行くと徘徊っていうか、本当にボケてるか怪しくなるね」
    「彼女はオーリアリーに住む息子のルーカスへ会いたかっただけさ。そう言うリグは、ウェンディと連絡がついたのか」
    「あ、忘れてた」
     慌ててスマートフォンを取り出せば、噂をすれば影とはこの事。やんちゃ仲間であるマテルの家の孫娘と遊んでいたらしい。『あたしがそんな間抜けなわけ無いでしょ、馬鹿』とポップアップしたテキストの語調は荒いが、所在地まで馬鹿正直に報告してくる辺りがまだまだ素直だった。
    「時々心配になりますよ」 
    「まあ、こんな町で大それた事も起こらんさ」
     漂う煙の中、意味深な流し目で一瞥をくれながら、マルボロは呟いた。
    「素直な所はお前にそっくりじゃないか」
     署長はもう会話に飽き、サンドイッチを2つ掴むと、自分のデスクへ戻ってぱくつき始めていた。
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    まえにし猿棚

    DOODLE2024年度ルクイユほの怖いBL準備号に見せかけた脇役達のスピンオフ。ボンデージ・アーティスト見習い×ポルノスター
    美しい年齢達 ”ぼくは二十歳だった。それがひとの一生でいちばん美しい年齢だなどとだれにも言わせまい。”
     そう書いた小説家は、35歳の時にフランスの浜辺で戦死してしまったそうだ。15年余分に生きた暁には、その傲慢さも少しは悔い改められていただろうか。

     少なくともシャハブからすれば、彼の考えは全く傲慢なように思えた。世間が20歳の人間を美しいと定義付けるなんて、無邪気に信じていたのだから。
     この業界だと、20歳にもなればそうそう新人とは見做されない。高校を中退するや、国中からニューヨークへ、ロサンゼルスへ、マイアミへ、グレイハウンド・バスの片道切符を買ってぞくぞく押しかけてくるポルノスター志願者は後を経たない。例え古い肉が腐ろうと、新鮮な肉のお代わりは幾らでも。動画サイトのプロフィール欄を検索してみるがいい。この国中の19歳が登録しているのかと思うほどの人数が現れる。明らかに盛っている人間もいれば、その容姿で名乗るのは幾ら何でも肌が弛んでいるだろうと思える者まで、19歳の示す射程範囲は様々だった。
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    まえにし猿棚

    DOODLEイチャイチャ×ヒルビリー×都市伝説。アメリカのど田舎のお巡りさんコンビ、40代の自分をおじさんって言うタイプの先輩×20代のスカした後輩
    【スリーピング・デューティ】恐るるべき子供 知り合ってすぐの頃、と言うことはまだリグレーが高校生の頃だが、マルボロが写真集を貸してくれた事がある。
     友人達と釣りに出かけた帰り道、とっぷりと日も暮れた森でオーバーヒートした車の中、アレと遭遇したらどうしようと震え上がっていたところに現れた救世主。初めてまともに会話をした時から、リグレーはすっかりハンサムなおまわりさんに首ったけだった。
     マルボロはリグレーが法定年齢に達するまで手を出さない代わり、色々な知識を授けてくれた。例えばモータウン・サウンドの素晴らしさとか、コミックが原作ではない映画の面白さとか。

     半世紀以上前に活躍したカメラマンの業績についても、学びの一環として教示しようとしたのだろう。当時のリグレーが知る女性のポートレイトといえば、スポーツ・イラストレイテッドに月替わりで掲載される裸体が関の山だった。どれだけページを繰っても、淑女達はビキニのトップスすら外そうとしない。と言うか、そもそも水着写真がない。この乙に澄ましてオートクチュールの服を身につける、鶴のように細い淑女達の一体何が良いのだろう。ショッピングモールまで車で3時間走らないと詣でられない田舎のティーンエイジャーがそう考えるのは、ある意味当然の話だった。
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    まえにし猿棚

    DOODLEイチャイチャ×ヒルビリー×都市伝説。アメリカのど田舎のお巡りさんコンビ、40代の自分をおじさんって言うタイプの先輩×20代のスカした後輩
    【スリーピング・デューティ】オールドファッションを喰らう やる事をやって良い気分。交換した清潔なシーツに潜り込んで心地よい微睡へ身を浸そうとしていたら、場違いなほど張り詰めた声と共に肩を揺さぶられる。「今外で変な音がしなかった?」
     低く呪詛の呻きを放ちながら、マルボロはベッドから身を起こし、クローゼットからTシャツとジャージのズボンを引っ張り出した。
    「俺も行きます」
    「良いからベッドで大人しくしてろ、まだ足腰もまともに立たない癖して」
     先程まで男に体を暴かれて乱されたリグレーはすっかり疲労困憊。あれだけ泣き咽んでいた顔はまだ目も頬も幾分腫れぼったい。明日は日勤だが、この調子だと2人とも一日中欠伸を連発しなければならないだろう。

     今夜は2人でWWEの中継を観た後、もっと穏やかな、せいぜい触り合いっこ位で済まそうと思っていた。けれどこの若い情人がひしとしがみつき、甘えた様子で肩口に頬を擦り付けて来たのがいけなかった。男の四十路とはまだまだ枯れるなんて言葉とは無縁の存在だと、誘惑を受ける度にマルボロはつくづく実感する。年下の恋人を作れば若返ると言う都市伝説は、案外間違っていないのかも知れない。
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    まえにし猿棚

    DOODLEイチャイチャ×ヒルビリー×都市伝説。アメリカのど田舎のお巡りさんコンビ、40代の自分をおじさんって言うタイプの先輩×20代のスカした後輩
    【スリーピング・デューティ】ここはヒルビリーのビバリー・ヒルズ「これは焼きもちを妬いてるんじゃ無いんですが」
     そう前置きし、リグレーは懐中電灯のスイッチをカチリと押す。濡れたような黒髪と、ハッとするような青色の瞳が人目を惹く青年は、自分の強みを嫌と言うほど理解していた。だからいつも制服のズボンはワンサイズ小さめ、こうしてしゃがみ込めば、ぱつぱつになったカーキ色のスラックスが破裂しそうになっている。
    「ただ、気になったんです。昨日の晩、あんなに熱心に話し込んでたので」
    「話だって?」
    「しらばっくれたって無駄ですよ。ブロンドで、アイシャドウをコッテリつけたヤク中丸出しの女」
     ああ、と頷く代わりに、マルボロは咥えていた紙巻煙草を指でつまみ、前歯についた刻み葉を舌先でちっと跳ね飛ばした。その仕草に何を想起したのだろうか。リグレーの耳と言えばトマトスープよりも真っ赤だった。本人も状況を分かっているのだろう。殊更真面目腐った表情を浮かべて顔を背けると身を屈め現場検証に戻る。
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