刺々しい冥府には咲かんだろうし今日くらいは花でも見ていけ。その言葉とともに贈られた色とりどりの薔薇。花を活けるのは不慣れだがせっかく弟から贈られたのだから、と埃を被った花瓶を引っ張り出し、悪戦苦闘ののち全て片付け終えたのがつい先ほど。
ハデスはソファに腰掛け、中指の先端に付いた小さな刺し傷を見詰めていた。
(そう言えば棘があったな)
花どころか久しく植物さえ視界に入らない生活だったのが祟った。この余がたかだか花を扱うだけで負傷するとは。大怪我でも無し、放っておいてもいずれ治るであろう。とは言ってもよく使う指であるが故に、何かに触れる度刺したときの感触を思い出して僅かながら不快である。さてどうしたものか、と掌と手の甲を交互に返しながら指を見ていると、今度は爪が気になってきた。少し長いしそろそろ切っても良い気がする。整えるか。
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