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    now_or_lever

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    ハデポセバレンタイン2022。今更ですが修正後のverをポイピクに載せます。

    #ハデポセ

    刺々しい冥府には咲かんだろうし今日くらいは花でも見ていけ。その言葉とともに贈られた色とりどりの薔薇。花を活けるのは不慣れだがせっかく弟から贈られたのだから、と埃を被った花瓶を引っ張り出し、悪戦苦闘ののち全て片付け終えたのがつい先ほど。

    ハデスはソファに腰掛け、中指の先端に付いた小さな刺し傷を見詰めていた。
    (そう言えば棘があったな)
    花どころか久しく植物さえ視界に入らない生活だったのが祟った。この余がたかだか花を扱うだけで負傷するとは。大怪我でも無し、放っておいてもいずれ治るであろう。とは言ってもよく使う指であるが故に、何かに触れる度刺したときの感触を思い出して僅かながら不快である。さてどうしたものか、と掌と手の甲を交互に返しながら指を見ていると、今度は爪が気になってきた。少し長いしそろそろ切っても良い気がする。整えるか。

    ちょうどポセイドンが用事を終え戻ったので声を掛ける。
    「お帰り。悪いが爪切りを借りたい」
    「ただいま…構わんが…ああ、自分で活けたのか。誰か呼ぼうかと思っていたが…」
    「丁寧な生活とやらから縁遠い身でな。このザマだ、随分散らかしてしまった」
    ポセイドンがゴミ箱の中の茎や葉の残骸を、続いて中指をいじる兄の姿を見た。
    「よほど手を焼いたんだな…すまない」
    「謝らなくて良い。折角の贈り物なんだから…それに、」

    「生命に嫌われるのは慣れているからな」

    冥界の王に座する以上、良くあることだと、受け入れねばならないことだと。そう思って生きてきた。この爪が伸びるのも、草木が葉や枝を広げるのも、一緒だ。生きているから。手折ったり、鋏を入れようとしたりすれば、刺されもするだろう。ならば、せめて大切なものくらいは一つの傷も付けないまま愛しみたい。

    己にとっては当然の事実を口にしたまでだが、彼にとってはそうではなかったらしい。彼は生命の源、海を統べる者。対し己は生命にある種の終焉を与える身。生き物への在り方がまるで違うのだから。子どもの頃から永く一緒に居ても、進む道が分かれると、こんな些細な違いすら生まれてしまう。

    少し、寂しい。

    「そんな顔をするな」

    それはどちらの口から出た言葉だったか。ポセイドンは徐にハデスの手を掴み、音を立てて中指を吸った。血が止まった傷口から、ポセイドンの唾液が入り込んでくる。

    「う、…っ」
    痛みと、それと違う刺激に息が乱される。水音とごく小さな呻き声が部屋を満たす。
    「は…っ、どうだ、痛むか」
    漸く指を解放したポセイドンが控えめに、しかし芯を持った声で問う。

    「忘れされてやる、そんな傷」

    見透かされているな。他の者の機微に聡い子に育った。そう悟ると、愛しさが溢れて堪らない。首に腕を回し、耳元で囁く。
    「楽しみにしている…余の可愛い弟…」
    返事は無い。その替わりに首筋に擦り寄られ、くすぐったくて思わず声を漏らした。

    「そうだ…ずっと笑っていろ、ハデス」

    冥府の王に笑っていろ、とは。
    愛弟のエゴに縛られるのも悪くはない。
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    now_or_lever

    DONE「御不満ですか?」を題材としたゼウハデ…の筈だったものです。最近の本誌の次男(ネタバレ無し)が好きでつい書いてしまった。末っ子と次男のお話です。兄弟絡みの話はなんぼあっても良いですからね。
    御不満ですか?「こんなときまで兄貴面するんじゃねえよ」
    若気の至りの項目に例文で載るほどの暴挙。直情的な次兄は殴りかかってきた。すぐ上の兄は背筋が凍るほど冷ややかな目を向けてきた。そんな弟たちを静観していた当の長兄は、少しも心乱さずやれやれと肩をすくめていた。

    あれからどれほどの時が経っただろう。
    「やっぱワシ、お兄ちゃんの弟で良かったんだわ」
    「今更かよてめえ」
    椅子が四脚あるテーブルにて、老いた末の弟と機械の体になった次兄が向かい合っていた。向かい合っていた、とすると若干の語弊がある。次兄はテーブルに向かわず明後日の方向を見ていたし、末の弟は持っていたティーカップに視線を落としていた。最終闘争も終結し、もう誰も座ることのないその二脚の椅子に視線を移す。瞼を閉じると「困ったヤツだ」と言いながらも微笑む長兄と凪いだ海のように静かなすぐ上の兄が瞼の裏に浮かぶ。今まさに茶を入れて皆で飲んでいるかのごとく。実際成神してからそのような雰囲気で兄弟全員がただの食卓を囲むことなど数えるほどしか無かったというのに、こんなときに限って記憶は鮮明に戻ってくるのだ。末弟は己のデキた脳味噌を少しばかり疎ましく思った。
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    now_or_lever

    DONE駄菓子屋パロ時空のこじポセです。薄ら両片思い。オリジナル要素が強いので粗筋(https://poipiku.com/3772614/6683664.html)を先にお読みの上お楽しみください。
    それはテーブルの上の二つの麦茶がすっかりぬるくなってしまった頃。

    「坊ちゃんは紙風船で遊んだことはあるかい?」
    盆休みは流石に店を閉めているだろうな、そう思いつつもつい足を運んでしまったいつもの駄菓子屋で、彼にそう問われた。今は夏休みで帰省しているが、急ぎ実家で済ませたい用事が片付いたので散歩がてら立ち寄った。オーナーと将棋に興じつつ奥の座敷で店番をしていた彼と話して小一時間。口下手の自分が提供出来る話題に限界を感じ始め、名残惜しいがそろそろ腰を上げようとしていた矢先の質問だった。
    「存在は知っています…本で…」
    嘘ではない。子どもの頃確か図鑑か何かで見た筈だ。昔の玩具がフルカラーで掲載されたページに、平らに畳まれた状態と、空気で膨らませた姿とを両方目にした記憶がある。自分が実際触ったことのある玩具と言えば、外国のメーカーの、どちらかというと高価な部類に入る知育玩具だった。幼過ぎて脳に残っていないだけかも知れないが、思い返してみても確か弟のおもちゃ箱には紙製のボールは無かった。普通のゴム風船なら腐るほど見たが。
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