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    now_or_lever

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    now_or_lever

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    ホワイトデーhdpsです。飲料の嗜好に関する捏造あり。TL放流時から特に加筆などはしておりません。作中の茶葉は実在する物をもじってます。海神の別名でググると出ますので機会のある方は是非お飲みください^ ^

    #ハデポセ

    はじめてのにがみ誰にでも背伸びしたい年頃はあるものだ。この神ですら例外でなく。

    ハデスは所謂コーヒー党である。だが、普段と違う味を楽しみたいときに、気分さえのれば別の飲み物を用意することもある。その日選んだのは紅茶だ。戸棚からポットを取り出し、湯を沸かし始めたところで、本を抱えた幼い弟が近寄ってきた。
    「…茶を淹れているのか」
    「ああ。今から飲もうと思ってな…どうした?そろそろ寝る時間だろう?」
    膝を折り目線を合わせてやるが、両手で抱えた本で顔の半分が隠れたポセイドンが、ちらちらとテーブルの上に視線をやっていてなかなか目が合わない。
    「…余も飲む」
    「お前もか?しかしだな…」
    普段ポセイドンが就寝前に口にしているのは白湯やホットミルクだ。よく眠れるように、と昔からそれらばかり飲ませてきており、当のポセイドンが今まで不満を訴えたことも無いため、何の疑問も無く続けている習慣であった。
    「紅茶を飲むとすっきり眠れなくなるかも知れないのだぞ。明日眠たくて辛くなったらどうするんだ。だから、」
    なるべく落ち着いた声で、優しく説く。
    「それでも飲みたい。今からなら2客分くらい淹れられるのだろう?」
    しかし兄の心、弟知らず。もしくはわざと無視しているのかも知れないが。たまに、ごくたまに、ポセイドンは兄の言うことを聞かない。何らか意地を張っているのか、今夜は紅茶以外で口を潤す気はなさそうだ。
    「…眠れなくなっても知らないぞ」
    「完璧な神たるもの紅茶くらい飲める」
    「わかったわかった…お前の分も淹れるから座って待っていなさい」

    ふたり分のストレートティーと、念の為砂糖やミルクも携え、ソファへ戻る。兄が近付いて来る気配に、ポセイドンは読んでいた本を閉じ、カップを慎重に受け取った。自分のマグカップをじっと見つめたのち、その視線はハデスの持つティーカップへ。
    「…?どうした?」
    「…次は余もそっちで飲む」
    そっち。そっちとはティーカップのことか。初めて飲むものだから食器は普段通りの方が落ち着くかと思ったが、お気に召さなかったらしい。よく見ると少し頬を膨らませている。
    「次は気をつけよう。それより飲まんのか?冷めてしまうぞ」
    はっとした顔をして、カップを持ち上げ恐る恐るといった具合に、ちろと舐めたようだ。その顔は無表情であった。否、僅か一瞬顰めかけたが、兄の視線を感じて慌ててポーカーフェイスを装った、と言った方がより正確だ。

    つまり、幼い弟の口に合わない。

    「…熱かったか?」
    不味いのか、とは聞かない。聞けばきっと気を遣わせるだろうし、何より自分で飲みたがった物が飲めないと認めさせることは、彼のプライドを傷付けるだろうから。
    「…問題無い。飲める」
    短い返答の後に、ポセイドンはカップの紅茶を一気に呷ると、再び本を持ってぴょんとソファから降りた。
    「ごちそうさま。おやすみなさい」
    「ああ、おやすみ。良い夢を」
    脇目も振らず部屋を出て行くポセイドンを見送り、ハデスは自分の分の茶に口を付けた。使われなかった砂糖やミルクを眺めながら。
    「焦って大きくなろうとせずとも良いのに」

    どのくらいの時間が経っただろうか。
    さっき閉められた扉が細く開けられ、ひょこっとポセイドンが顔を出した。
    「寝付けないか?」
    少しの間ののち、その問いにこくりと小さく頷いたのを見て、ハデスは内心愉快に思いながら、先ほど弟がやって見せたように自分のカップに残った茶を一気に呷って立ち上がる。
    「あ、…邪魔するつもりは」
    「気にするな。寝辛くなるのをわかっていて与えたのは余だからな。今晩は責任を取って一緒に寝ようではないか」
    「……はい」
    頬にほんのり赤みが差しているのは、見なかったことにしておいてあげよう。ポセイドンの寝室へ、二柱並んで歩く。
    さて、どうやって寝かしつけようか。ハデスはひっそりと思案する。もし寝付けなかったらたまには一晩中一緒に居てやっても良いかも知れん。
    (兄弟離れ出来ていないのは余の方だな)


    持参した茶がカップの中で形作る紅い湖面をぼんやり見ながら、ハデスは目の前に座る弟の幼い頃を思い出していた。
    以前彼に薔薇を貰ったため、お返しにと茶葉を持って居城を訪ねた。今は客間のソファで、ポセイドンが早速淹れてくれた紅茶に舌鼓を打っている。
    「うん…やはり自分で用意するより美味い」
    「おべっかを…お前が淹れた方が美味いだろうに」
    彼なりの賞賛の言葉に、マグカップを両手で握りしめつつ顰めていた顔が浮かびハデスは小さく笑った。カップの中の紅い湖面が波打つ。
    「……………?」
    「何でも無い…ああそうだ、この茶葉、ミルクティーにもおすすめなんだと」
    怪訝な顔をされたので話題を逸らす。
    「蜂蜜にしっかり漬け込んだ果物とマリーゴールドの花弁の香りが織りなす調和…だったか」
    ポセイドンはパッケージに記された謳い文句を読み上げる。確かに、しっかり蒸らした茶葉からは甘くフルーティな香りが立ち昇っていた。続いて、ポセイドンの視線が中央に控えめに印刷された茶葉の名前をなぞり、そこに込められた意味を察して押し黙る。
    「素直にミルクも砂糖も使えるくらい大人になったお前に良いかと思って」
    「……話が見えんのだが」
    「小さいお前に紅茶を初めて与えたときだよ。余の後ろをよくついて回っていたのが終わって、周りの成神と同じ物を欲しがっていた時期があってな」
    「ああ、あの頃か…僅かだが覚えている」
    カップを傾けるポセイドンに、さも何も気にしていない風に問う。
    「あの時、本当は自分ひとりで寝られたんだろう?」
    紅茶のせいで寝付けないなど、虚偽の申告であると。
    さあ、この愛弟はどう返してくるか。
    「茶のせいで眠れないなどと言った覚えは無い」
    僅かだが覚えている、などと。随分と念入りに否定してくるではないか。ふいと目を逸らして頬を小さく膨らます弟に、ハデスの肩は震えた。
    「おい、溢れるぞ…」
    「そんな勿体無いことはせん…っ、お前が折角用意してくれた物を」
    「買ってきたのはお前だろ…それよりも、」
    改めて、茶葉のパッケージを兄弟揃って見遣る。
    「…作ったのか、わざわざ」
    「まさか。下界で買った物だ…美味いだろ?」
    「………そうだな」
    目を逸らしたままもにょもにょと歯切れ悪く答える弟に、ハデスは今度こそ我慢せず笑い声をあげた。


    銀に輝く茶葉の缶には遠い異国の言葉でこう言葉が添えられている。
    『ポセイドン———真心をいつまでも側において』
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    now_or_lever

    DONE「御不満ですか?」を題材としたゼウハデ…の筈だったものです。最近の本誌の次男(ネタバレ無し)が好きでつい書いてしまった。末っ子と次男のお話です。兄弟絡みの話はなんぼあっても良いですからね。
    御不満ですか?「こんなときまで兄貴面するんじゃねえよ」
    若気の至りの項目に例文で載るほどの暴挙。直情的な次兄は殴りかかってきた。すぐ上の兄は背筋が凍るほど冷ややかな目を向けてきた。そんな弟たちを静観していた当の長兄は、少しも心乱さずやれやれと肩をすくめていた。

    あれからどれほどの時が経っただろう。
    「やっぱワシ、お兄ちゃんの弟で良かったんだわ」
    「今更かよてめえ」
    椅子が四脚あるテーブルにて、老いた末の弟と機械の体になった次兄が向かい合っていた。向かい合っていた、とすると若干の語弊がある。次兄はテーブルに向かわず明後日の方向を見ていたし、末の弟は持っていたティーカップに視線を落としていた。最終闘争も終結し、もう誰も座ることのないその二脚の椅子に視線を移す。瞼を閉じると「困ったヤツだ」と言いながらも微笑む長兄と凪いだ海のように静かなすぐ上の兄が瞼の裏に浮かぶ。今まさに茶を入れて皆で飲んでいるかのごとく。実際成神してからそのような雰囲気で兄弟全員がただの食卓を囲むことなど数えるほどしか無かったというのに、こんなときに限って記憶は鮮明に戻ってくるのだ。末弟は己のデキた脳味噌を少しばかり疎ましく思った。
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    now_or_lever

    DONE駄菓子屋パロ時空のこじポセです。薄ら両片思い。オリジナル要素が強いので粗筋(https://poipiku.com/3772614/6683664.html)を先にお読みの上お楽しみください。
    それはテーブルの上の二つの麦茶がすっかりぬるくなってしまった頃。

    「坊ちゃんは紙風船で遊んだことはあるかい?」
    盆休みは流石に店を閉めているだろうな、そう思いつつもつい足を運んでしまったいつもの駄菓子屋で、彼にそう問われた。今は夏休みで帰省しているが、急ぎ実家で済ませたい用事が片付いたので散歩がてら立ち寄った。オーナーと将棋に興じつつ奥の座敷で店番をしていた彼と話して小一時間。口下手の自分が提供出来る話題に限界を感じ始め、名残惜しいがそろそろ腰を上げようとしていた矢先の質問だった。
    「存在は知っています…本で…」
    嘘ではない。子どもの頃確か図鑑か何かで見た筈だ。昔の玩具がフルカラーで掲載されたページに、平らに畳まれた状態と、空気で膨らませた姿とを両方目にした記憶がある。自分が実際触ったことのある玩具と言えば、外国のメーカーの、どちらかというと高価な部類に入る知育玩具だった。幼過ぎて脳に残っていないだけかも知れないが、思い返してみても確か弟のおもちゃ箱には紙製のボールは無かった。普通のゴム風船なら腐るほど見たが。
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