日々戯れ、繰り返し「福沢さぁーん」
休日の私宅に響く福沢を呼ぶ乱歩の声。日々其の様な場面に当たると平和とは斯く在るべし、と福沢は思う。
声の出処から乱歩を探し当てれば、乱歩の自室からのお呼び立てであった。廊下から開いていた襖越しに顔を覗かせれば、声の持ち主は直ぐ見つかり、目が合った瞬間にへらと破顔した。
「どうした」
問うと同時に、然う云えば昔探し当ててくれるのが嬉しいと云っていた事を思い出す。
福沢からすれば唯音を聞き、其れを頼りに向かっているだけなのだが、乱歩は違うらしい。
「僕、着替えたいなあ」
乱歩は今日、自室に篭って読書をしていた様に思うのだが終わったのだろうか。或いは、読破はしていないものの途中で飽きたのかもしれない。
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