バスケットボールを片手で持つ事ができる大きな両手を合わせて大は懇願していた。
「玉田様、おねがい!一回だけでいいから!」
深夜1時、夜の静かな空気に大の必死な声が部屋に響く。まわりの音が少ないのもその声の主張が鮮明に輪郭を感じさせ必死さを醸し出す助力となっている。
玉田はむすりと顔をしかめながらベッドの中から大を見ていた。
「やだ。ソファーで寝るの体痛くなんじゃん」
「だから俺もう体痛めてっから頼んでんだべ!?今日だけでいいからベッド貸してくんねぇか?」
「ムリ!」
何度断ってもひたすらに懇願し続ける大にしびれをきらし、玉田はくるりと向きを変えて背を向ける。こうなっては付き合うだけ無駄だ。アッ、と声を上げる大に無視を決め込もうと目を閉じた。
「…玉田ァ」
「おねがい」をする時の大の甘えた声色と共に安いベッドが軋み空気を震わせた。
背中の方にある布団が捲られスッと冷えた空気が背を撫でたと思ったら生温い体温が背中に張り付く。
「大!勝手に入ってくんなって!」
控えめな怒鳴り声をあげ振り返ろうとするが大のがっしりとした体がぐいぐいと玉田を壁際に追いやる。
「ふかふかだべー」
ふかふかではない。安いベッドに安いマットレスだ。
大が何度か腰の位置を動かしいいポジションを探る動きをするとふぅ、と生暖かい吐息を吐く。
「あったけえ。玉田様に感謝だな」
「せっま……お前絶対今日だけにしろよ…」
「んー…おう」
曖昧な返事を返すのを聞いて眉を釣り上げるが、トンと玉田の背中に額を押し付ける感覚が響いた。甘えた猫のような仕草に不思議に思い振り返ろうとするが狭すぎて体を動かす事もできない。だい、と小さく声をかけるが反応はない。
ただ、背中に感じる僅かな熱に嫌な気はしなかった。
連日ソファーで寝ているせいもあり本当に疲れているのか後ろからはすぐに深い寝息が聞こえはじめる。規則正しくリズムを刻む音は不思議と玉田の眠気を誘い、ふわふわとした幸福感が体を包む。気持ち良いまどろみに身を任せると目を瞑りそのまま眠りについた。
翌日、寝返りひとつ打てなかった玉田の体は悲鳴をあげていた。