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    hl_928

    @hl_928

    ↑20/幻覚しか見てない。
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    hl_928

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    すごい久しぶりに二次創作したやつ。

    #HL
    #sebastiansallow
    #ominisgaunt

    now it's yours 呼び出されて訪れた地下聖堂には、既にセバスチャンが待っていた。
     二人きりになったのは久しぶりのことに感じる。
    「オミニス」
     彼の声は張り詰めている。
     アンからの手紙を受け取ったあの日以来、セバスチャンはこんなふうに追い詰められた硬い声を出さなかった。する必要がなくなった。何もかもを失ったから。
    「セバスチャン」
     呼びかけに応える自分の声に警戒の色が出ていないか心配になる。
     彼は誰よりも大切な友人だ。「だった」と表現はしたくないし、するつもりもない。けれど既に起きてしまったことを思えば、いつかそうなってしまう日が来たとしても不思議ではないと心の片隅で怯えている自分がいる。そして、そうなるとしたらそれは彼自身の行いの結果としてだろうという予想も。
     セバスチャンはいつでも揉め事を引き起こす。ずっとそうぼやきながら、あるときは嘆息しながら、あるときは苦笑しながらそれに巻き込まれるのを楽しんでいた自分も居たけれど、今となっては次の揉め事など絶対にあって欲しくなかった。
     だからあの頃を思い出させるセバスチャンの声に、思わず体に緊張が走る。
    「安心しろよ。もう、妙なことは考えていないから」
     ふ、と小さな笑い声とともにセバスチャンが言う。何もかも嘘のように、何度も何度も聞いてきたいつもの声。
     安心できると思うかと問い詰めたくなるのをぐっとこらえて続きを促す。
    「アンのことなんだけど、いや待て、言っただろ、変な考えは起こしてないよ」
     オミニスの眉間に力がこもったのを察したのか、彼は手を振ってこちらを制して、それから一転して押し殺した声で続けた。
    「いまの僕にあいつに会う資格はないってわかってる。きっと、こうやって君と話すことも」
     壁や床の反響でセバスチャンがこちらを見ていないのがわかる。
     絞り出すような、後悔と恥の音。
     彼の出す声、一つ一つから何を考えているか必死で探ろうとする自分がいる。そうしたくなっても仕方がないと思う自分もいれば、彼を素直に信じられなっていることが辛くて惨めで叫び出したい自分もいる。
    「それで?」
     セバスチャンはしばらく言い淀んでから、それからおずおずと口を開いた。
    「教えたくないなら答えなくても良い。でも教えてくれたら嬉しい」
     いくらか諦めの混じった、探るような声。
    「あのあと、アンから居場所の連絡は来たか?」
     オミニスは考え込む。
     セバスチャンは黙ってオミニスの応えを待っている。
     連絡は来た。そして、セバスチャンには絶対に言わないでと書かれていた。
     アンは呪いのせいで健康もホグワーツでの生活も、兄も叔父も、何もかも失ってしまった。友人だったオミニスは全くの役立たずで、何一つ彼女の助けになれなかった。それどころか共犯ですらあるのに、それでも彼女はまだ信頼を寄せてくれている。こんな不幸に見舞われる必要なんてまったくなかったのに。ただ運が悪かっただけなのに。たった一人呪いと秘密を抱えながらも、セバスチャンのしでかしたことに怒り悲しみ、距離を取るという決断をしたアンの正しさと強さは、オミニスには想像もできなかった。だから、絶対に彼女を裏切ることは出来ない。
     けれども。
     セバスチャンは彼女の兄だ。彼がアンをどれだけ心配しているか知っている。実際のところ全くそのようにはならなかったけれど、彼がアンのことを思っているのは紛れもない真実だ。ただ妹を助けたかった。恐ろしく愚かにも暴走して皆を裏切って、最悪のことをしでかしたのは、その気持ちの結果だった。
     頭を抱えたのか祈るように手をすり合わせているのか、セバスチャンが身動ぎしてわずかに肌の擦れる音がした。
     居場所は教えられない。けれど、オミニスがそれを知っていることを教えるのは。
     たっぷり迷ったあと、オミニスはこの答えが過ちでなければと祈りながら答える。
    「聞いてるよ。でも、」
    「よかった! 誰にも知らせてないのか、それだけが心配だったんだ。本当に一人じゃ助けも呼べない」
     セバスチャンはオミニスの言葉が終わるのも待たずに、安堵のため息を吐いた。
    「居場所を聞くつもりはないよ。教えてもらえるなんて思ってない。転入生にも教えてないんだろ。いいんだ。正しい判断だよ。あいつが知っていたらうっかり喋るか、僕が聞き出しかねないからな」
     言葉の後には自嘲するような忍び笑いが続く。
     起伏の激しい声音の変化に、オミニスには彼が何を考えているのかわからない。
    「オミニス」
     困惑しているオミニスに近づきながら呼びかけてくるセバスチャンの声は、気持ちを改めるように先程の硬い調子に戻っている。さらに距離を詰められたと思った途端、突然ぐっと肩を掴まれた。
     驚き、びくりと背筋が痙攣する。
    「なぁオミニス。お願いだ。あいつに何かあったら、助けを求められたら、すぐに駆けつけてやってくれ、絶対」
     縋るセバスチャンの手には力が籠もっていて、少しだけ鎖骨が痛い。
     彼は念を押すように、お願いだ、絶対に、と数度繰り返す。
     聞いているうちに頭が冷えてきて、同時にわかりきったことを言う彼に少しだけ苛ついた。
     今更。そんなこと。
    「言われるまでもないって思ってるだろ。でも、言わなきゃいけないと思ったんだ」
     セバスチャンの手が肩から離れ、そのかわりに彼の額の重さを感じる。いつの間にか背中に回された彼の手はオミニスのローブを握っていた。その手が、その体がわずかに震えていることに気付く。
     僕が馬鹿だったから。
     オミニスは急速に怒りが消え失せて、体の力が抜けていくのを感じた。
    「あいつが頼れるのは、もう君だけなんだ」
     オミニスの体にその言葉を染み込ませようとしているかのように、ゆっくりと低い声で彼は囁く。
    「この世界でたった一人」
     弱々しい息が首元にかかる。
    「僕にはもう、そうすることは許されないから」
     消え入るようなセバスチャンの声。
     自分はいつも彼の声に惑わされている。
     楽しそうな声。安心させてくれる声。嬉しそうな声。意地悪そうな声。苛ついた声。呆れた声。急かす声。不安そうな声。気遣う声。甘えるような声。泣きそうな声。壊れてしまいそうな声。この声で言葉を紡がれると、ときどき自分がどうするべきかが分からなくなる。正しいはずのことが出来なくなる。今の自分はちゃんとやれているだろうか。
     急に胸騒ぎがした。
    「君だけなんだ」
     なにか言葉を返さなければと思っているのに、喉が渇いて声が出ない。
    「忘れないでくれ」
     ほとんど距離のないセバスチャンとの間で、じわ、と何かが密度を増しているように感じる。
     セバスチャンの腕に力がこもった。抱きしめられながら懇願を聞く。
    「アンを頼む」
     泣きそうな声。縋るような声。
    「お願いだ」
     この声に何度も翻弄されてきた。わかっていても、今回ばかりは振り解けるはずもない。なのに。
    「わかってるよ、セバスチャン」
     どうしてこんなに胸がざわつくのだろう。
     どうしてこんなに泣きたい気持ちになっているのだろう。
     セバスチャンはまだ言葉を続けるのだろうか。
     息苦しさを振り払うように彼のほうに首を傾けると、見計らったようにセバスチャンはひときわ強くオミニスを抱きしめて、ぱっと身を引いた。
    「本当に、ありがとう」
     少し泣いていたのだろうか、軽く目をこすりながらセバスチャンは言った。
     その感謝の言葉にあった感情は、安堵と。それと。何か。
     オミニスが測りかねているうちに、彼は誤魔化すようにじゃあ僕は先に戻るよと地下聖堂を出ていった。

     取り残されたオミニスは呆然と立ち尽くす。
     アンが去って以来ずっと変わらない地下聖堂の重たい空気が、更に重量を増してオミニスを押しつぶそうとしていた。
     いつの間にか胸のざわめきは静まって、かわりに胸をかきむしりたくなるような不安の塊がそこにはある。
     セバスチャンの抱えていたものは、いまやオミニス自身が抱えるものになっていた。

     この世界でたった一人で。
     呪いを抱えた、何もかもをなくした少女を。
     助けられるのは、自分だけ。
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