エゴ諦めを知らない、我の強い彼が打ちのめされている様はとても見ていられなかった。
罪の恐怖と後悔と魂の亀裂。その全てから来る痛み。
取ってあげよう。そう思った。自分ならうまくやれる。
「大丈夫。安心して」
彼の前に温かい紅茶を差し出しながら笑いかけると、両手を額に当てて俯いていた彼が顔を上げた。何日も眠れていない酷い顔だ。
迷いなく彼の両腕の隙間に杖を差し込み、胸に先端を当てる。スッと杖を引くと、なんの手応えもなく銀色の液体とも気体ともつかないものが杖にまとわりついてきた。
彼は虚をつかれて自分の胸から引きずり出される銀色を見つめていたが、すぐに我に返ってこちらの手首を掴み上げる。
窶れたその顔には嫌悪と怒りが溢れていた。
「返せ。それは僕のものだ」
手首の骨を折らんばかりの彼の力に、思わず杖を取り落とす。銀色のそれは呆気なく薄れながら彼の胸に戻っていった。全ての痛みが帰っていくのを見届けて、彼は乱暴に掴んでいた手首をつき放す。
「誰にも何も奪わせない」
自分で自分の何もかもを奪い去った強欲者は、もう一度だけこちらを睨みながら二度とやるなよと吐き捨てた。