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    hl_928

    @hl_928

    ↑20/幻覚しか見てない。
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    まろ marshmallow-qa.com/hl_928

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    hl_928

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    本編後のやつ。
    ぼーっとしてるモーションの時に時計出してるパターンがあるのは忘れてもろて…。

    #HL
    #sebastiansallow
    #ominisgaunt

    unspoken 朝八時少し前。
     生徒が一番多くなる頃合いを見計らって、ホグワーツの大広間をフクロウが行き交い始める。新聞を運ぶフクロウ、分厚い紙包みを運ぶフクロウ、吠えメールを運ぶフクロウ。大抵は自分たちには無縁のものなのだが、この日は珍しく、転入生、セバスチャン、オミニスの三人組が朝食を摂るテーブルの上を、ホーッっと鳴きながら灰色のフクロウが旋回していた。
    「オミニス宛てかな」
     転入生には荷物が届くような心当たりがなかった。オミニスの顔がぎゅっと寝起きの不機嫌さの数倍も険悪になる。
     オミニスが家族に抱く感情とは裏腹に、彼の家族は思い出したかのようにふくろう便を送ってくることがあった。身の回りの細々とした品やお菓子、お小遣いなど。オミニスはそうした物が届くたびにこの顔をする。そんな様子でも荷物を捨てたり邪険にしたりはしないのが、なぜか彼らしいと思えた。
     ともあれフクロウはこちらが彼に気付いたことを察したようで、じゃあどうぞというように十インチほどの麻紐で括られた小さな包みを落としていった。
    「おっと」
     危うくスクランブルエッグに突入しそうになった包みを、セバスチャンがすんでのところでキャッチする。トーストを片手に表に貼られたメモを確かめた彼は、意外にもそれを自分の脇に置いて言った。
    「オミニス、安心しろ。君のじゃなかった」
     そうかと安堵のため息を漏らしたオミニスが、はたと止まり首を傾げる。
    「待て。君宛てか?」
    「ああ」
    「セバスチャン宛ての荷物?」
     セバスチャンはこともなげに頷くが、転入生は思わずオミニスの言葉を繰り返してしまう。誰が彼に荷物を送るというのだろう。
    「なんだよ失礼だな。僕にだって荷物くらい届くさ。頼んでいたものを届けてもらうように手配してたんだ」
     セバスチャンはそう言って食事を続ける。中身のことを教えてくれる気はないようで、そうなるとこちらは黙るほかない。
     まあ、なんでも無理に聞き出そうとするのは失礼だよね。転入生は自分にそう言い聞かせながらも好奇心に負けてセバスチャンの傍らの荷物に目をやる。包みの貼り付けられたメモには、簡素な文字で送り先であるセバスチャンの名前と送り主の情報が記載されていた。それを読んで思わず声が出てしまう。
    「ダイアゴン横丁!?」
    「勝手に見るなよ」
     セバスチャンが心底嫌そうな顔でこちらを睨みつけた。
    「ごめん見えちゃった。いや、ダイアゴン横丁なんていつ行ったの?」
    「俺も聞いてないぞ」
     オミニスも不満げな声で後に続く。セバスチャンはすました顔で紅茶をすすっている。
     しばしの沈黙。
    「ねえ、いつ行ったの」
     質問を繰り返すと、いかにも渋々といったふうに彼は答えた。
    「この間の休暇の終わり頃」
    「イースターに? フェルドクロフトに行ったあとにか?」
    「ああ」
     オミニスとバッチリタイミングが合った盛大なため息を吐く。
    「セバスチャンさ、最近色々話してくれてないこと多いよね」
    「フェルドクロフトのことも最初は言わなかったしな」
     転入生は頬杖をついて言う。不満をできるだけたっぷり込めて。オミニスの声はほぼ糾弾の調子だ。
     二週間のイースター休暇の前半、三人はフェルドクロフトに行っていた。なんとセバスチャンは一人で帰るつもりでいたらしい。話の流れで偶然それを知って驚いたオミニスと転入生は、二人してゴネて結局ついていったのだ。一緒にソロモンの墓参りをして、家の片付けやら掃除を手伝って、村の人と少し話をして。そしてセバスチャンはもうあの場所に帰らないつもりでいると言うのを聞いた。
     そんな事があった数日後にまた何も言わずに? 自分とオミニスの表情が険しくなるのは当然のことだろう。最近こういうことが多い…気がする。帰郷のこともそうだが、読書部屋代わりにしているあの懲罰室のことも、たまたまそこに入っていく彼を見つけた転入生が聞くまで、セバスチャンは自分からは何も言わなかった。
    「朝から勘弁してくれよ」
     向かいの二人の様子に、セバスチャンはそっぽを向いてうんざりとぼやく。
    「じゃあ説明しろ」
     オミニスの命令に、彼はわかったよと頭をガシガシ掻きながら早口で捲し立て始めた。
    「大したことじゃないんだって。グリンゴッツに行く必要があってウィーズリー先生に相談したら、彼女もダイアゴン横丁に用があるからって一緒に連れて行ってもらえたんだ。昼前に姿くらましで出て、夕食時にはホグワーツに戻ってたよ。べつに遊びに行ったんじゃないし、本当に君らについて来てもらうような用事じゃなかったんだ。ソロモンおじさんの金庫の引き継ぎとか、おじさんが管財していた僕らが親からの相続した物の確認とか、今後の管理の相談とか。そういう手続きのためだ。一緒来てもらっても三時間か四時間、グリンゴッツのロビーでひたすら待たせることになるのは目に見えてた。だから言わなかったんだよ」
     セバスチャンが一息にそこまで言ってこれでいいかと向かいのオミニスと転入生を睨む。オミニスはまだ不満そうに眉を寄せていた。
    「大したことじゃないというなら、尚更言ってくれれば良かっただろう。なんでいちいち隠すんだ」
    「おじさんの名前が出た時に、君がどういう顔をするかわかってるからだよ」
     オミニスはソロモンの話が出るとどうしても動揺を隠せないようで、表情が固く暗くなる。セバスチャンがそれを気にしているのはわかっていた。早く慣れて欲しい。いつまでもあの調子なんて彼のほうが参ってしまいそうだ。オミニスが居ないところでセバスチャンが苛立ちと心配半々にそう言っていた。彼のほうはあの事件の直後から。ソロモンの死の真相もアンに距離を置かれていることも周囲にはおくびにも出さなかった。最近は話題になることも減ったが、おじのことで先生や友人たちにお悔やみを言われれば控えめに頷いて礼を返し、アンの近況を聞かれても当たり障りなく躱す。ことによっては「情けないことに最近はオミニスのほうが頼りにされてるんだよな」などと言って平気でオミニスに話を振るのだ。オミニスはそんなセバスチャンの神経が信じられないと思っているようで、これが続けばいつか二人が表立って対立し出すのではないかと転入生は気が気でなかった。
     とにかく今のこれはセバスチャンの秘密主義が原因だ。別に悩みや頼みがなくたって話してくれても良いだろうことを言ってくれない。
    「セバスチャン。別に何もかも洗い浚い話してくれなんてわけじゃないんだ。オミニスも僕も一言言って欲しかっただけ」
     説き伏せるように語りかける。セバスチャンはふいとこちらから目を背ける。壁際の火の入っていない暖炉を睨みながら考え込んでいるようだった。たっぷり一分ほど黙り込んでから、彼は盛大に溜息を吐いてこちらに向き直った。その顔には申し訳無さそうな笑みがあって、転入生はホッとする。
    「…そうだな。僕が悪かったよ、オミニス、転入生。今度どこかに行くときは必ず言う。約束するよ」
    「絶対だぞ」
     まだ少し厳しいオミニスの声にセバスチャンは困ったような笑顔のままカップに紅茶を注いで、お詫びの印にと彼の前に差し出した。
    「で、それは何なの?」
     空気が落ち着いたところで転入生は小包を指差す。セバスチャンは結局聞くのかよと呟いてから、それをテーブル越しに放って寄越した。
    「開けていいの?」
    「黙ってダイアゴンに行ったお詫びにな。でも中身には触らないでくれ。壊されたらたまらない」
     ニヤリと笑って彼は言う。
     転入生は皿を脇に避けスペースを作る。そっと小包を置いて麻紐に手をかけた。横からオミニスが興味津々に杖をかざしてくる。二重の油紙が巻かれているのを破らないように開いていると、もっと適当に開けていいのにとセバスチャンに言われた。包装を破って開けるなんて密猟レベルのとんでもない発想だ。油紙の中には小箱と小さな紙袋があった。紙袋はその辺の紙を張り合わせただけのもので、中身にいくらか厚みがあるようだ。箱の方は黒い布張りだが装飾や印字はない。そっと蓋を持ち上げると銀色の平べったい円盤があった。懐中時計だ。新品ではないようで磨かれた表面には使い込まれた細かい傷があるが、それでも鈍く光を反射している。
    「懐中時計?」
    「なんでまた急に?」
    「図書室も懲罰室も時計がないから参ってたんだ。六年になったらきっと課題に追われて休み時間や空き時間もやることが増えるからな。持ってたほうがいいと思って」
     返された一式を受け取りながらセバスチャンが言う。中の時計を取り出して重さを確かめるように掌でくるくると弄び、少しぎこちない仕草でパチリと蓋の縁を弾いて文字盤を確かめる。
    「中はこんな感じ」
     こちらに差し出された文字盤を見ると、スモールセコンドはあるが全体的に素っ気のないほどシンプルで、特徴のない黒い文字で数字が印字されていた。12時を指す数字のすぐ下に記されているメーカー名らしいテキストだけが時計の機能に関わらない情報だ。
    「シンプルでいいね。僕も買おうかな」
    「こういうのは高いんじゃないのか?」
    「修理代が少し嵩んだけど新品に比べれば安くついたよ」
    「そっちは?」
    「鍵とチェーン」
     セバスチャンが一旦時計を置いて、封筒の中身を掌に滑り落とす。出てきたのは時計と同じようにシンプルな銀の鎖で先の方から分岐して、片方の端には一インチほどの棒状のものが付いている。時計の頭の輪に鎖の端をつなぐと、セバスチャンは立ち上がって鎖の反対端をベルト通しに着け、ポケットに時計を滑り込ませた。それから自慢気に時計を取り出してパチンと蓋を開いてみせる。
    「どうだ?」
    「かっこいい。羨ましい」
    「ベストには着けないのか」
    「腹のところでチャラチャラなると気になるんだ」
     座り直したセバスチャンは時計を包み込むように持って裏蓋を開くと、数回ゼンマイを巻いて閉じる。今度は注意深く表蓋と風防を開くが、手を止める。キョロキョロとあたりを見渡すが、おそらく彼が求めているだろう時計は大広間にはなかった。というか校内は大体の物事は鐘の音を合図にしていて時計が殆どない。
    「たぶん談話室のが一番近いんじゃない?」
     広間の周りに教室はないから他に心当たりがなかった。興を削がれたというようにセバスチャンが大げさに口を尖らせる。
    「これだからこいつが要るんだ」




     朝食を終えて寮に戻った後。
     箱を置いてくるからと談話室から一人で寝室に戻ったセバスチャンはドアを後ろ手で締め、適当にベッドの上に黒い箱を放り出した。それからベッドに座り込んで、ようやく息ができるというように大きな深呼吸をする。
     まったく彼らときたら。何かを聞き出そうとするなら出てきた話に気まずい顔をするのは止してほしい。あんな顔を見たくないから言ってなかったのに。嘘を吐きたいわけではない。もう彼らを裏切りたくないし心配させたくない。曇った顔を見たくない。だから何を言うか選んでいるだけだ。
     時計を取り出してパチンと裏蓋を開く。
     ダストカバーには巻き上げのための鍵穴が一つ、それに大文字のMを丸で囲んだようなマークと細く繊細な文字の刻印。穴に鍵を差し込んでゆっくり回す。キリキリというゼンマイの巻き上がる手応えと一緒に不思議と心臓が軋む気がする。
     これから毎日これを回す。巻きすぎるとゼンマイが切れて壊れてしまう。注意深く、丁寧に、必要なだけ。止まらないように。忘れないように。
     刻印の文に目をやる。これを見たとき彼らはどんな顔をするだろう。

    For distinguished service
    S. Sallow
    その功績を称え
    S・サロウに贈る

     セバスチャン・サロウは無表情に自分が殺した男の名前を指で撫ぜてから、そっと時計をポケットに仕舞いこんだ。
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