ラハくんの直感の話メインホールの一角。
積み上げられた何冊もの本をや書類が散った机に向かい、ラハはそれらに目を通しながらペンを走らせていた。
委員会の仕事は、たまに依頼なんかも受けながら体制を整えたり、クルルやオジカと共にそれなりに忙しい日々を過している。
最近は少し落ち着いて、お花が冒険や依頼がない時はなるべくグリダニアの家から通うようににも出来ていた。
グリダニアからオールドシャーレアンまでの道程はかかるる。
テレポがあれど月の2.3度くらいならば休暇をとクルルは薦めてくれてはいた。
それは多分、数ヶ月まえに式をあげた自分たち新婚への変な気遣いもあるのだろう。
ありがたい申し出だけど、お花の仕事がない期間は長くはないので、だいたいお互いゆっくりと家で過ごすくらいだ。
それに一緒に過ごせば何かと世話をやきの彼は常に動いてしまうのだ。
したくてやってるし、ちゃんと休めていると言われても、ラハからすればそうは見えなかった。
なら自分が動いている方が気楽だった。
なので急ぎの仕事さえなければゆっくりと出勤できる恩恵だけは、ありがたく甘えさせてもらっている。
手元の書類を仕上げると、ラハはふうと小さく息をはいてペンを置いた。
今日は何かが引っ掛かり集中力が途切れやすい。
それがお花に対してなのだけど何が引っ掛かるか分からないのだ。
頭の中に何度も繰り返し時間を巻き戻し原因を探る。
昨日は互いに休暇を家ですごして、今朝は少し寝坊をしてしまって急いで支度をして、お花が用意した朝食を食べた。
出る前に「何時頃帰る」とは聞かれたけど..
特に変わった様子はないのに、違和感がざわざわしたものがどんどん強くなっていく。
壁の時計をみればお昼がお昼時は過ぎていた。
何かあれば連絡が来るだろが、ポケットにしまったリンクパールは鳴ることはなかった。
少しの空腹が襲うけど、このまま後に少し残ってる書類をとっとと片付けて早めに帰ろうか..
悩んでいるとメインホールの扉が開かれた。
「やっぱり 」
あきれたように苦笑いするクルルだ。
お昼に行くと聞いた気がするから戻ってきたのだろう。
クルルは近づくと、持っていた包みをラハの机に置いた。
「お昼はきちんと食べないとだめよ」
カフェのマークが刻まれてた包みを手に取ると、ほんのり温かい。
開けば美味しそうなコーヒーとサンドイッチが何個か入っていた。
良い匂いだ。
キュルルとお腹のむしが正直になく。
ラハは真っ赤になって、お腹を抑える姿にクルルが笑った。
「....ありがとう 頂くよ」
「どういたしまして!」
そういうながら、クルルはラハの腰の辺りを軽く小突いた。
「何するんだ?」
「はぁ..ラハくん 今日はとってもいい天気だし外で食べてきたら? 時計よりずっと健康てきよ」
クルルにも分かる程に気にしていたのか...
肩をすくませる彼女を横目にラハは席を立つ。
「ああ..ちょっと行ってくる」
「ごゆっくり~」
手をふる彼女に見送られラハはメインホールを後にした。
外に出ると座りっぱなしだった重みが肩や腰に一気に伝わる。
伸びをするとポキッと小さな音がなり、思い切り吸い込んだ新鮮な空気で頭がすっきりした。
見上げると植えられた木々は黄色や赤に彩られつつあり、少し涼しい風が秋の気配を感じた。
お昼をすぎたオールドシャーレアンの街人は仕事や学校にもどり、人通りは少ない。
ラハは人気のない道のベンチに腰をかけた。
包みからサンドイッチとコーヒーを取り出して食べれば美味しさで赤いしっぽや耳が無自覚にゆれた
食べながらラハはもやりの正体いを追いなが記憶をたどる。
昨日は一緒に家事をしたり、近所に買い物に出たけどゆっくりした日だった。
お花は前日の依頼が大変みたいだった様子で良く寝てた横でラハは本を読みながら過ごしていた。
そうゆう事は珍しくはなかった。
夕方くらいにお花が起き出して夕飯を作り食べたり、他愛ない話をしながら早めに寝たっけ。
今朝は起きたらお花がひっついてニコニコしてたから、まだ余裕あるうちに起きたのかと時計を見て焦った。
珍しく離れがたそうな彼から抜け出して支度を済ましたら軽い朝食が1人ぶんラハの席に用意されていた。
「ん?花は食べないのか?」
一緒にいる日は一緒に食卓につくようにしてるのに。
「後でたべるよ」
彼は少し微笑んで食事をとるラハを眺めたり新聞をみたりしていた。
朝は急いでたのもあったし、彼は休みだし自分に合わせる事もないと気にならなかったけど。
ざわりとしたものが大きくなる。
「ラハ..」
靴を履く背中から呼ばれる名前が、今思えば少し不安げだった気がする。
「何時頃 帰る」
いつもなら「いってらっしゃい!」とだけなのに珍しいと思ったけど、深く考えずに帰宅時間だけ伝えた。
「そうか 気を付けてね」
壁に少し寄りかかり手を振る見送るお花が脳裏に浮かぶ。
サンドイッチを食べていた手が止まる。
杞憂かもしれないと確認する為にポケットからリンクパールを取ってお花にコールする。
いつもならすぐに出るはずがなかなか繋がらずに切れた。
今日は何もないと言っていたし、もし何かの用事が出来たなら依頼なら連絡が入るはずだ。
何かのやっていて取れなくてもすぐに折り返しがくるだろう。
予感が当たらないのが一番良いのだけど、彼と出会ってからこの感は大体当たるのだ。
一緒に暮らしてからはお互い休日の時にはあったけど。
もし予感があたってたら...
「気遣いすぎるだろ..」
残りのサンドイッチを急いで食べきると足早にメインホールへ向かう。
怒りやら不安やらでいっぱいになる。
この間にもリンクパールが鳴れば良いのにと思いながら..
メインホールの扉が思い切り開け、びっくりしたクルルに切羽つまったような表情でラハは近づく。
そしつた息を切らせながら頭を下げた。
「ごめん!ちょっと...」
「ラハくん? 取り出す落ち着いて!お水飲まない?」
心配そうに慌てながらラハを落ち着かせようと席を立つクルルの肩を押さえ止めた。
「だ..大丈夫...だから ..それよりすまないが早退させてくれないか?」
「それは...大丈夫よ 」
捕まれたラハの手が小さく震えているのをポンポンと撫でる。
こんなラハの姿は以前にも見かけた事がありクルルは何となく察していた。
「早く帰ってあげて。もし必要なら明日はお休みしてね」
「ごめん..」
「今は急ぎの仕事もないのだし大丈夫よ!」
ラハはクルルから手を放し、深呼吸をして息を整た。
「ありがとう」
クルルに引き継ぎをすませると荷物を纏めてメインホールを足早に出る。
普段は革紐を通し首にかけている真新しい指輪を取り出すとラハは小さく呪文を唱えた。
指輪の力を借りたら相手の一番近い場所にテレポされる。
あまり普段は使わないものだけどなりふり構ってられなかった。
彼からのリンクパールは未だにならないのだ。
降りた先は家の前だった。
「はぁ...とりあえず良かった」
英雄である姿や強さを知っている。
お花の事だから何処にいようが多少は大丈夫だとは思うけど。
今は家の前で安心した。
庭の周りをみまわす。
ラベンダーベッドの森に囲まれた住宅街。
午後の柔らかい光と囀ずる小鳥の鳴き声やら近くの川のせせらぎしか聞こえず今は人通りもない。
庭には干された洗濯物がそよそよとなびいていた。
扉に手をかけると鍵は掛かっておらず、明かりはなく静まり返っていた。
「花 」
名前を呼んでみても返事がない。
ラハは家に入り、ソファーに荷物をおいて靴を履き替えお花の気配を探した。
ぴちょんと水音がしてキッチンに目をやればシンクに朝食べた食器が水につかっていた。
普段ならすぐ片付けてあるのに珍しい事だった。
ダイニングテーブルにはリンゴが一つ、何口か齧られて置かれていた。
「これだけ?...まぁ頑張ったて食べた方だよな」
思えば晩御飯もあまり食べてなかった気がする。
予感は的中に違いない。
すやすやと聞き覚えのある呼吸が聞こえてラハの耳は音の方へピンと立つ。
辿るようにロフトに上がり覗くと丸いシーツが上下に小さく動いていた。
「見つけた」
▪
ラハはロフトに上った。
藁のベッドにシーツをすっぽりかぶった丸まる先に見覚えのある長い耳が覗いていた。
静かに近寄ると無意識に探すように片耳が小さくラハに向いた。
「はーな! ただいま」
小さく声をかける。
返事はないから寝てるのだろう。
起こさない様にベッドの空きすぺーすに腰をかければ、彼の耳がおかえりと言うようにぴょこりと跳ねた。
頭まで被ってあるシーツをゆっくりと捲ると彼の寝顔が表れた。
起きてある時は自分より大人びてるけど寝顔は幼さく見える。
弱ってるから尚更か?
さらさらなミルクティのような色素の薄い髪が汗で前髪がぺたりと瞼にかかっていた。
優しく指で前髪をかき揚げれば、相変わらず人形のように整った綺麗な顔があらわになる。
こうしてみたら、お城にいるお伽噺話の王子みたいなのに。
毎日世界をかけまわって冒険して、過酷な場所なんかも前線で剣さえも振るう英雄なんだよな。
それが楽しいとキラキラしながら言うけど、彼が思ってるより大変で何処か無自覚な負担がかかっているのだろう。
昔は病弱だったらしく、こうして倒れる事が昔からあったらしい。
今は本人は数が減ってきてるし、見ていても年に一回程、数日寝込む程度だけど。
症状は続いているのだ。
早い呼吸で苦しそうだ。
額に手を宛てればとても熱い。
冷やさねばと離そうとするラハの手の冷たさに、お花は額をすりすりと寄せて、口許を緩ませ笑みを浮かべた。
それを見てるとようやくラハにの緊張もとけ、肩から力が抜ける。
いつからだろう?
昨日からしんどかったんだろうか?
彼は優しくて、気遣いか、プライドか分からないけど人前に自分の弱さを見せずに一人で倒れて頼らず何とかしようする。
そういう生き方が身に染みているようだ。
性格かもしれないけどラハはたまに居たたまれなくなる。
それでも、何度か彼の弱さに触れる度に、彼なりに自分に頼ってくれてるんだろう。
「何時に帰る」と聞くような小さなサインとか。
「分かりにくいよ」
困ったさんに笑ってしまう。
(とりあえず汗ふかなきゃな)
額に宛てた手を前髪から横へと数回頭を撫でる。
ベッドから立ち上がろうとすると、とたんに腰に手を回され戻された。
「わぁ!」
振り替えり彼をみれば、閉じられていたゆっくりと瞼が開かながら、掴んだものを探すようにに桜色の瞳がさ迷った。
「花?おきちゃったか?」
名前を呼ぶと視線がまっすぐに此方に向いた。
熱で少し潤んでいる。
「...ん.......らは..」
状況が分かってないみたいだ。
「ただいま 花」
「ん?...おかえり...そか」
何かを理解しはじめて腰を掴まれた腕が離れていく。
「そうか...ごめん」
もそりと腕に力を込めて起き上がろうとするが、ふらついて倒れかける。
ラハはあわてて彼を支えベッドに戻した。
「何が? いいから病人は寝ててくれ」
「洗濯物しかしてないや..何時」
珍しく彼は不満そうな声をあげる。
表情を隠すように、ラハの腰に頭を埋めた。
「大丈夫だから寝てなよ。 嫌な予感して早退した」
「えー...ごめん..」
「にしてもラハに何でバレるんだ」っと小声で呟いている。
隠したかったのだろう。
独り言に呆れてしまいラハは、ため息をついた。
「どうせバレるなんだから隠すなよ。重症になる前に言ってくれ」
「....」
彼は微動だにしなかった。
そんな彼にラハはうずくまり彼の頭のあたりに額をくっつけるようにかるく小突いた。
「心配..したんだ」
耳元に囁くとしゅんと耳がたれる。
「ばぶウサギちゃん とりあえず着替えようか 汗で気持ち悪いだろ?」
あやすように背中を軽くポンポンする。
「....ん」
小さな返事がする。
再び立ち上がろうするラハに、返事とは裏腹にお花の両腕ががっちりと腰を押さえこまれる。
「ちょっと!まだばぶウサギちゃんなの?良いコだからさ...少しだけ放してくれないか?」
嫌だというようにお花は首を横に振る。
「すぐ戻るって....うわ!」
立ち上がれない程だというのに。
どこからこの力は出てるんだ
どっかど越える力はみたいなのは聞いたことはあるが。
強い力でラハはシーツに引きづりこまれて、すっぽりとお花に抱き抱えられてしまった。
首の辺りにうまった顔をあげるとニコニコと満足そうにお花が満足そうに微笑んでいた。
「ら~はぁ」
そしてゆっりりと瞳は閉じられ開くことはなく、すやすやとした寝息が聞こえる。
起こさないように離れようとするもびくともしない。
「甘えん坊さんか...」
こうなったら諦めるしかないよな。
お花の腕を回して背中を撫でる。
それから何処かできいた赤子をあやす歌をラハは小さく口ずさんだ。
少しでも彼が安らぐように。
着くように。
(終)