キョンシーis+ng→br
+マスターズ
設定がばがば
定期報告で話し合いをしているだろう自らの道士である絵心のところへ用事があり、道士達の集まる部屋に向かって歩いていれば、途中縁側に座り込みぼんやりと視線を彷徨わせている凪がいて、凪も俺の存在に気づいたのかゆるっとした視線が俺に向く。
「あ、潔だ」
「凪、そんなところでどうしたんだ?」
ゆったりとした声で名前を呼ばれて凪の近くまで近寄れば、廊下にいるのが凪だけじゃない事に気付く。
「馬狼じゃん」
「…チッ」
凪に隠れるようにして縁側に倒れ込んでいたのは馬狼で、覗き込んだ俺と目が合うとあからさまに舌打ちされる。
どうして馬狼が倒れているのかは何となく想像がついて、道士に従うのは癪だと、貼り付けられた札をわざと引っ剥がす馬狼の悪癖には随分付き合わされているので、またかよ…なんて思う。
「何だよ、またやったのか?」
「ふざけんな!ちげぇ!」
「え?なら何でそんなところで倒れてるんだよ」
少し呆れたような反応で首を傾げれば、くわっと顔を怒らせた馬狼がすごい剣幕で言い返してくる。
否定するだけで理由は分からず、変わらず問い掛ければ馬狼の顔が嫌そうに歪む。
「……」
「……、凪、お前は知ってるのか?」
「んー、俺が取っちゃったんだよね」
「は?」
きゅっと唇を尖らせながら押し黙ってしまった馬狼から視線を凪に移して聞いてみれば、予想外の答えが返ってきて、思わず声が漏れる。
「こいつが逃げるから」
「…イカれてる」
あっけらかんと言い放つ凪の言葉に倒れたままの馬狼は忌々しそうに呟く。
突飛すぎて、凪の思考回路を考えようとすると頭が痛くなる。
「あー、凪は馬狼と一緒にいたかったって事?」
「まぁ、そんなところかも?」
訂正、凪ですら凪自身の思考が分からないらしい。
「くそが…っ、潔、スナッフィーに言ってさっさと替わりの札持ってこい」
「持ってくるのは良いけど、勿論タダでなんて言わないだろ?」
「?」
俺の言葉に馬狼が眉間に皺を寄せて、警戒するような目で見上げてくる。
心地良い日差しと柔らかい風が俺と凪の札を揺らして、馬狼の髪の毛がサラサラと縁側に広がり、顔に掛かる髪の毛を払う事も出来ず、ただ横たわるだけの馬狼の様子に思わずごくりと喉が鳴る。
人知れず好意を寄せる馬狼が無抵抗な状態でいて、凪以外の人目もない、自分の欲を満たすにはうってつけの機会だ。
突っ立ったままの俺に馬狼が怪訝そうな表情を浮かべて見上げてくる。少し不安げに視線を向けられて迷いが一気に散っていき、日差しのおかげで温まった縁側へ俺も腰掛け、凪と俺で馬狼を挟み込むように座れば恐る恐ると艶っぽい馬狼の髪の毛を触ってみる。
「おい、勝手に触んな」
「さらさらだな」
「あ、良いな、俺も触りたい」
指先に感じる艶やかな感触に感動しながら掬い上げた細い髪の毛は指の隙間から逃げてしまう。
ぼんやりと馬狼と俺を見ていた凪の手も馬狼の髪の毛へと伸ばされる。
「ばろー、今度俺の髪の毛も洗ってよ」
思いの外丁寧に馬狼の髪の毛へ触れる凪に少し安心しながら、無邪気に馬狼へおねだりする凪にざわりと心臓を逆撫でされたような感覚を覚える。
それが何なのか、分からない訳じゃない。
「ざけんなテメェで洗え!」
「えー、だってめんどくさいもん」
身体の自由が効かない馬狼は俺たちの手に好き勝手触られて、鬱陶しそうに目を細めて、睨み付けてくる。
「お前ら覚えてろよ、ぶん殴る」
「じゃあ今のうちに触っとく」
まるで捕食者のような強い瞳に捉えられてゾクッとした恐怖を感じても、凪はマイペースに髪の毛から手を離し馬狼の顔を指先で撫で始める。
それに苦笑しながら、結局殴られるのなら今のうちに触っておくのもありだなと、凪に習って綺麗に梳いた髪の毛をまとめた後、馬狼の顔の形を確かめるように指を這わせて指先から伝わるすべすべとした感触を楽しむ。
暫く二人して黙々と馬狼の髪の毛や顔を触っていれば、馬狼も諦めたのか騒ぎ疲れたのかぐったりと脱力してしまって、そろそろやめてあげないとなぁと物足りなさを感じながら思っていれば、突然、凪が馬狼の口に指を突っ込みギョッとする。
「馬狼の唇柔らかいね、歯の形もきれーなんだ」
「ンッ!、っ、ぅ?!」
凪の行動に俺も馬狼も驚いて、目を見開いた馬狼は咄嗟に俺に視線を向けてくる。
まるで、どうにかしろっ!と言っているようで、凪を止めようと名前を呼べば、なに?とまるで気にしてないような感じで目を向けられる。
「ぅっ、ゥ、」
入れ込まれた指が口腔内をなぞっているのか、時折溢れて聞こえてくる馬狼の声にぶわっと熱が煽られる。
「馬狼の口ん中あっちぃね…気持ち良さそう」
「っ、ぐ…ッ、ぇ…、っン」
無遠慮に指で口腔内を弄る凪の指に馬狼の眉毛が顰められて飲み込みきれなかった唾液が口端から溢れる。
止めてあげないとと言う気持ちよりも、もっと見たいと思う気持ちの方が強くて、きゅっと細まった馬狼の瞳に心臓が締め付けられるような感覚を覚える。
好奇心を満たすためなのか飽きず馬狼の口の中を指で撫でる凪はどこか楽しそうで、苦しそうにしていた馬狼の声に徐々に甘い吐息が混ざり始める。
耳を擽る馬狼の声にいつも平坦な心臓の動きが脈を打っている気がするくらいに興奮していて、ごくりと喉を上下させて生唾を飲み込む。
血の通ってない肌に朱がさしてるように見えるのは気のせいかも知れないけれど、苦しいだけじゃなく別なものを感じているだろう馬狼の反応を少しも見逃さないように、じっと見つめる。
「馬狼」
「ん、っ、、ふ…っ、ぅ」
凪の指が動くたびに馬狼の伏せられた瞼が震える。
その下の紅い瞳がどんなふうに揺らめくのか、どうしても見たくて、俺の姿を映して欲しくて名前を呼べば、俺の声にハッとしたように目を開いた馬狼が口の中に入ったままの凪の指に噛み付く。
「いたぁ!」
慌てて指を引き抜いた凪がちょっと目を潤ませながら手をひらひらと振って痛みを逃がしていて、凪から解放された馬狼はきゅっと唇を引き結び、苦しさからかそれとも別の理由か、水気の多い紅色が俺を捉える。その瞳が責めているようにも欲しがっているようにも見えてしまって、そのまま欲に従って伸びそうになる手をなんとか引っ込め慌てて立ち上がる。
「ッ〜、お札貰ってくる!」
道士達のいる部屋までどうやって辿り着いたのか覚えてないけれど少し驚いたような反応を見せる3人の視線を一気に浴びて少しだけ冷静になる。
「あ、会談中すみません、馬狼が…」
そう名前をあげれば、馬狼の道士であるスナッフィーがゆるっと首を傾げる。
「またあの悪童、札でも破いたのかい?」
目を細めて笑う道士に、なんと言えばいいか考えながら凪の道士であるクリスをちらっとみれば、まさか俺に見られるとは思ってなかったのか少し怪訝そうに見返さられる。
「あ…いや、凪が…」
「おおっと、遂に手を出しちゃったのかなウチの子は」
勢いよく立ち上がり大きな反応をして見せるクリスに思わずぴくりと肩が跳ねて、どうすれば…と、困惑しながら絵心に目を向ける。
椅子に座って足を組み、腕を組んでいた絵心は顔色ひとつ変えずにことりと顔を傾ける。
「それでお前は?」
「え?」
「お前は何もせずすごすごと札を取りに来たのか?」
「いや…何もしてないって訳じゃ…ない、けど」
絵心の言葉に思わず馬鹿正直な言葉が出てしまって、この場には馬狼の道士がいるのを思い出す。
貴方のキョンシーに悪戯しましたと言っているようなものだ。今更焦っても言ってしまった言葉は元に戻らない。
恐る恐る、反応を伺うようにスナッフィーに目を向ければ大きな澄んだ瞳と目が合い、全部を見透かされているような視線にぎくりと身体が固まる。
「へはは、なんだ、随分と好かれてるんだな」
俺の緊張を感じ取ってか、柔らかく笑ったスナッフィーがゆっくりと椅子から立ち上がる。
「もう話はいいだろ?うちの可愛い悪童を迎えに行かないといけないみたいだ」
「俺も行こう、凪がまだちょっかいをかけているかも知れないしな!」
「はぁ…、分かった、話は終わりにしよう」
絵心のため息を待たずして道士達が部屋を出る。
「随分とまぁ、可愛がられたみたいだね?」
「ッー!くそが、お前気付いてただろ!」
道士を引き連れて縁側に着けば、スナッフィーが面白そうに笑いながら馬狼に近寄りしゃがみ込む。
それに気付いた馬狼がまたくわりと顔を怒らせて怒鳴る。
「ヘイ!凪、気があるからって乱暴したらダメだぞー」
「乱暴してないし、馬狼も喜んでた」
「ふざけんな!喜んでねぇよ!」
一気に騒がしくなった縁側の様子に絵心のため息が聞こえてくる。
優しい手つきで馬狼の髪の毛を梳くスナッフィーに文句を言い続ける馬狼は、髪の毛を触られる事を気にしていないようで、その光景にもやもやとした蟠りを感じる。
「最近お前、調子乗ってたからちょっとお仕置きしたんだけど、効果あったみたいだね?これからはお札剥がさないようにね」
「ッー、分かったから…さっさとしろ」
ぐったりと疲れをみせる馬狼が投げやりにスナッフィーに言って、にやにやと口元を緩めるスナッフィーがお札を馬狼の被る帽子へと貼り付け、帽子を被せる。
やっと動けるようになった馬狼にホッとしながらも、ギギっと動きにくそうに身体を起こした馬狼は何か言いた気にスナッフィーを睨み付けて舌打ちをする。
「お前っ…、っ」
「へはは、大人しくて結構、帰ろうか」
ぐうっと歯を噛み締める馬狼はそのままスナッフィーの側に立ち、眉間に皺を寄せこめかみを痙攣させながら押し黙る。
きっと拘束の強いお札なのだろう。
馬狼の意識はそのままに、身体の自由は拘束されているのか、俺たちを殴りにくる素振りは見られない。
結局そのままスナッフィーに連れられて帰っていく馬狼を見送り、凪とクリスも間を空けずに帰っていく。
一気に静まり返った縁側にもの寂しさを感じながら、名残惜しくて馬狼の感触を思い出し指先を擦り合わせる。
髪の毛はサラサラだったし肌も意外に柔らかかった。何と言っても、あの強気な紅い瞳が縋るように俺に向けられた瞬間が忘れられない…。
もっと触りたいしもっと見て欲しい。
ずくずくと欲が煽られるような感覚に息を吐く。
きっとこの気持ちは普通持ち合わせるべきじゃないのかも知れない。
でも、周りに何と言われても譲れない。
今日は凪に先を越されたけれど、次に会った時、どうやって馬狼に見てもらおうかと俄然やる気が出てきた。