可惜夜の伊織くんに心残りがひとつあるとすればきっと、セイバーさんの願いを叶えてあげられなかった事と、もうひとつあるよなあと。
どちらも真の意味で果たすには、やはり伊織くんは底に置いて来た余分も含めて全てを取り戻すほか無いと思うのです。その為に一度全てを喪って、ひとつずつ拾い上げるのがいいのかな、なんて思って。だったら、伊織くんの全部を知って、それでも「私はイオリを好きになった」と口にしてくれたセイバーさんと一緒に行って欲しいよなあ。
本編・イベント以降の記憶を全て喪ってしまった伊織くん。しかも単に記憶を無くしただけでは説明が付かない程、存在が薄れているように感じられるんですね。
突如として伊織くんの身に起きた異常事態に、「また私の事を忘れおって!」と憤るだけの余裕は流石に無くて。セイバーさんは、ぼんやりとして心ここに在らずな様子の伊織くんを急いでメディカルルームまで引き連れて来ればいい。
メディカルチェックの結果、記憶を喪った原因の特定には至らなかったが、記憶障害の影響によるものなのか、なんと"サーヴァント・宮本伊織"の存在が徐々に薄れてきているという事が判明。原因特定と対処を急がねば、数日以内に現界を保てず消滅してしまうだろう、と診断されてしまう。
どうすれば……と焦る藤丸。そして、こういう時に限って不幸とは連鎖するもので、謎の特異点が発生したという緊急アナウンスがカルデア内を騒がせる。ブリーフィングのため藤丸と同行していたマシュは管制室に呼び出され、(それと状況報告のためかネモ・ナースも)メディカルルームを後に。
セイバーさんは多分、今のイオリをひとりにする訳にはいかぬと、伊織くんの傍に付くと思う。
伊織くんはベッドに横になっていたんだけど、暫くして起き上がると緩慢な動きでベッドから降りて部屋の出入口に向かって歩き出す。ふらふらと覚束無い足取りで外へ出ようとする伊織くんの腕を掴んで引き止めるセイバーさん。
「ま、待てイオリ! 何処へ行く?」
「何処……? 俺は、何処へ──いや、違う。呼ばれているんだ。行かなくては……」
尋常ではない伊織くんの様子と、彼が口にした「呼ばれている」という言葉に一瞬思考を奪われて、腕を掴んでいた力を僅かに緩めてしまうんですね。その隙に部屋から出て行ってしまった伊織くんの後をすぐ追うんだけど、セイバーさんが廊下に出ると伊織くんの姿はそこになく。
「……そんな、まさか。だって、ネモ・ナースも云っていたのだぞ……? 数日は保つだろうと」
これ迄の記憶を全て失くし、姿を消した伊織くん。示し合わせたかの様なタイミングで発生した特異点。そして伊織くんの口にした「呼ばれている」という言葉。手掛かりは特異点にあると考えたセイバーさんは管制室へ向かい、特異点調査に同行させて欲しいと言うわけですよ。
「伊織が消えた!? そんな、どうして……」
「ちょっと待って。彼は姿を消す前に"呼ばれている"と、そう言ったんだよね?」
ダ・ヴィンチちゃんの言に頷くセイバーさん。
「実は今回発生した特異点全域から、彼とよく似た魔力反応が確認出来たんだ」
「……あくまでも仮説だけど、この特異点は宮本伊織と同等の存在、或いは彼本人が作り出したものである可能性が高い」
「うむ。イオリの身に生じた異変、示し合わせたかの様に現れた特異点……私にも、是らが無関係とはどうにも思えぬ」
⭐︎
レイシフトした先でまず目にするのは大きな扉。
扉といっても、その奥に何かある訳では無く。ただ扉だけが静かに聳え立っている。
大きな扉を前に立ち止まるセイバーさんと、それを不思議がる藤丸ら。
「タケル? どうしたの?」
「……フジマル、きみには見えていないのか?」
「そこに何かあるの? マシュは見える?」
「残念ですが、わたしにも……」
「ふむ……応えられぬ者には見る事すら能わぬと云う訳か」
「成程。この特異点、イオリが深く関わっていると云う話に俄然真実味が増してきたぞ。どうやら主たるきみにすら見せられぬ、或いは見せたくないものがあるらしい」
まだ細かい所は浮かんでないのだけど、この後セイバーさんが扉を開いてみると、そこには大きな空間が広がっています。──以前、巴御前と遊んだげぇむにこんなものがあったな。確か"迷宮"と云うのだったか。
扉が見えない=扉の先に進めない藤丸達を連れて行く訳にも行かず、セイバーさんはたったひとりで謎の迷宮に足を踏み入れます。確信は無いが、この迷宮を進めばイオリに会える。そんな気がして。
少し進んでみると人影が。壁に背を預け、座り込んでいる伊織くんでした。セイバーさんが急ぎ駆け寄って声を掛けると、カルデアで姿を消す前の虚ろな様子とは打って変わって、意思の疎通に支障の無い程度まで回復していました。
何故? 当然疑問に思うセイバーさん。それに答える様に伊織くんは白い結晶を差し出します。
「恐らく、これのお陰だろう」
「これは……?」
「どうやら、俺の記憶が形となった物の様だ」
この結晶に触れる事で、伊織くんは失っていた記憶を取り戻したと言う。ただし、目の前に居る白妙の麗人を"セイバー"と呼んでいた事、自分がサーヴァントなる存在である事しか思い出せていません。
何故自分がここに居るのか、何故サーヴァントとなったのか、セイバーとの出会いも何もかも、まだ忘れてしまったまま。
伊織くんはこの迷宮を探索し、記憶の欠片を集めたいと言います。「出来るなら貴殿にも助力を頼みたい」とも。
「協力はしよう。だが、一度フジマルの元へ戻るべきだ」
「フジマル……?」
「きみの主だ。覚えてはおらぬか」
「いや、ぼんやりとだが……うん、思い出せる」
セイバーさんは伊織くんを連れて、元来た道を戻る。──が、通ってきた筈の扉は既に跡形も無くなっていたのだった。
とりあえずここまで。また続きは思い着き次第加筆します。
一応、ラスボスとして剣鬼・伊織を出すつもり。伊織くんvs伊織くんが見れるよ! やったね!