とある公共施設――――「まだあんのぉ?!」
窓口に座るひときわ派手な女性が非難の声を響かせる。
「あのねぇいっぺんに持ってきなよ、あたしも暇じゃないんだからさぁ!お役所ってホントに気が利かないよね。あたしは息子を亡くした可哀相な母親なんだよ?!」
可哀相と自ら言う割には悲壮感のまったく漂わない彼女にクラゲの職員は丁寧に説明を繰り返している。
一般的に孤独死があると然るべきところへ連絡したり死亡届を提出したりといった手続きがあるはずだが、彼女は面倒なことを回避する嗅覚が並外れて鋭かったようで、知らない番号からの連絡を今までずっと避け続けていた。更に亡くなった彼自身が母親と絶縁していたため連絡先探しは困難を極め、母親である彼女に事情が伝わったのは彼の死からそろそろ1年が経とうとしていた頃だった。
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