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    体調不良3に構う45の345

    お互い様 まずい、と思った時には手遅れだったなんて事はよくある話。脱衣所の椅子に身体を預けて項垂れる烏もそんな事態に見舞われたひとりだ。
     考え事をして湯船に浸かるものではない。常日頃長風呂はしない主義だというのに、今日に限って湯船で長考に耽ってしまった。指の先がふやけて皺が浮き上がっている。
     かなりの時間が経過していたらしい。慌てて浴槽を出るも、その瞬間から視界は白黒でグラグラ。真っ直ぐ歩けずに二歩、三歩フラフラと心許ないステップを踏む。幸か不幸か、大浴場には自分しかいないため醜態を晒さずに済んだ。しかし、それは頼る相手もいないということ。
     なんとか壁伝いに脱衣所まで戻ってくることができた。籠からタオルと着替えを引ったくりまた壁に手をつく。全裸で倒れたくない…! という気持ちが烏を突き動かした。
     やっとの思いで椅子に腰を下ろす。これだけでも幾分かマシになるものだ。腕をあげるのも億劫で、ろくに乾いていない身体を捩ってスウェットに袖を通した。水の滴る髪が鬱陶しい。乱雑に頭からタオルを被り涼んでる風を装う。大丈夫、数分で涼めばきっと、……——。
    「——大将やってる?」
    「っ」
     眩しい、明るい、瞼越しなのに痛いくらいだ。恐る恐る目を開けると、そこには無表情の乙夜が覗き込んでいた。顔を隠すように覆っていたタオルを、彼に捲られたのだと分かる。屋台おでんとちゃうわ、とツッコむ気力もない。というか、おれ、いま、気絶してたのか。
    「ぅ…、」
    「随分と弱ってるじゃーん。なに、のぼせた?」
    「……ん」
    「素直すぎて不安になるわ。いつからそうしてんの? …医務室から人呼んでくる?」
     大事にするのは避けたい。しかし、ここは大浴場の脱衣所。人の出入りは避けられないだろう。
    「…………も、すこし、……こうしてたら、なおる…。」
    「や、治らんでしょ。悪化するに決まってんじゃん」
    「…………。」
    「喋るのもしんどい?」
     こくり、と頷くことしかできない。すると乙夜はしゃがみ込んで烏と視線を合わせた。恐る恐る、掬い上げるしぐさで、烏の火照った頬に触れる。確かめるように、安心させるように。するとどうだろう、視界がじわじわと滲むではないか。ボロボロと大粒の涙が出てとまらない。悲しくはない、辛いけど泣くほどじゃない。じゃあどうして、
    「あーあー。涙腺ばかになってる。……でもわかるぜ、こーゆーとき優しくされるとそうなっちゃうの」
     最悪、最悪だ! 見られたくないところを見られているだけでも最悪なのに! 雑に拭っても次から次へと溢れてくる。苛立ちからそばにあった形のいい頭を引っ叩く。
    「いた! 叩くなよ。弱みなんて思ってないから安心しな。体調悪い時はお互い様ってことで。……あ。いいとこに来るじゃん、」
     ガラッと扉の開く音がして、乙夜がその場から離れてゆくのがわかった。少し遠いところで誰かと話している。烏は嗚咽を殺して、ぎゅう…と頭にかけたタオルを握ることしかできない。
    「——あーらら、本当だ。半分くらい乙夜くんのボケかと思ってたのに」
     控えめにタオルを捲ったのは、雪宮だった。烏の顔を見るなり、少々驚いた様子ですぐに手を離した。 
    「ボケじゃねーし。…烏、水飲める?」
     脱衣所に設置されたウォーターサーバーから汲んできたのだろう。半分ほど注がれた紙コップを受け取った。コップのなかの水面が小刻みに揺れている。自身の手が震えていることに気が付かされた。震えを誤魔化すようにコップの水を煽ると、口の端から水滴が伝ってスウェットを濡らす。
    「ん。飲めてえらーい」
    「子供扱いするとあとが怖いぜ。はいコップ回収」
    「どう? 回復の兆しは」
     正直、先ほどから何も進展していない。けれど、これ以上の醜態は晒せない。首を縦に振らなければいけない気がした。こくこくと頷くと、間髪入れずに一蹴される。
    「はいダウト」
    「うそやない…」
    「覇気のない声で言われてもね」
    「……も、ほっといてくれ…。」
    「だってよユッキー」
    「どうする乙夜くん」
     二人は烏の足元にしゃがみ、無理やり視界に入り込む。はやくどっかいけと憎まれ口を叩けば、雪宮がずい〜…っと距離を詰めてきた。ちかい、あつい。力の入らない腕と胴の隙間に雪宮が手を差し込んで、あやすように背を叩く。
    「烏くん、俺の頭抱えられる?」
    「?」
    「うんうん。上手だよ。そのまま離さないでね——っよいしょ!」
     突然の浮遊感に目を白黒させていると、有無を言わさない声音で宣言される。
    「元気になったらいくらでもシバいてくれていいからさ……医務室連れてくね〜」
    「な、」
    「よろしくユッキー」
    「任された。乙夜くんは——、」
    「それじゃ前見えねーだろ。荷物持ちと誘導する」
    「さんきゅ、助かる」
     揺れる身体、ぬるい人肌。タオルの隙間から望む景色はどんどん変わってゆく。途中で人に会ったりもしたが、二人は特に烏について言及させない立ち回りで医務室まで運んでくれた。医者に通されてベッドへ横になる。火照った身体を徐々に冷やして、十分な水分を摂れば多少会話できるくらいには回復した。
    「あーーー、重かった!」
    「おい…。」
    「体重の話じゃないよ。人間ひとり運ぶのは重いって話」
    「……。」
    「ね、烏くん。烏くんは、俺や乙夜くんが立てなくなったら…今日みたいに連れてってくれる?」
    「……引き摺る」
    「なんで、持ち上げてよ」
    「百歩譲って乙夜だけなら担ぐ」
    「やったぜ」
    「なんで更に俺のこと抉ったわけ? そんな俺たち質量変わらないだろ…!」
    「…………? 流石に無理あるで」
    「薄情な烏、俺はユッキーのこと抱っこして運んであげるからな」
    「腰いわすぞ」
    「途中で力尽きて背中から落としそう」
    「急に肩組むな、傷つくだろ」
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