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    sika_blue_L

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    POIPOI 24

    sika_blue_L

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    ⚠️3♀45で妊娠とか出産してる⚠️

    何これ「烏さー、最近付き合い悪くね?」
     
     電話口の向こうの、聞き慣れたローテンションの彼は早々に痛いところを突いてくる。
     
    「お前らと違ってヒマやないねん」

     トゲをたっぷり含ませて突っぱねるようにラリーを返す。…ああ、ダメだ。動揺が滲んではいないだろうか、声は震えていないだろうか。
     
    「烏、遊んでくんねーからユッキーとばっかり呑んでるんだけど」
    「女の子は?」
    「ソッチの気分じゃね〜の」
    「ユッキーのちんこでも借りたらええやん」
    「それはもうした。…ね、烏。二人ともソッチの気分じゃない、って言ってんだけど?」
    「は〜……余計なこと教えんかったら良かったわ」
    「責任とって近いうち遊ぼーぜ」
    「責任、ね」
    「俺たちのケツ開発したの誰だっけ?」
    「はーい」

     人目のない自室だからと、天井へ高く挙手をする。
     
    「で? いつ遊ぶよ」
    「…すまん、仕事の電話入った。また連絡するわ」
    「あいあーい。オシゴト頑張って〜」
     
     液晶に触れ切電すると、自分の耳に届くくらい大きなため息が出た。まだ実感はない、当たり前だけれども、腹をさすっても何も応えてはくれない。そりゃそうだ。まだ初期も初期。見た目にも大した変化は見られない。
     
     カーテンを開ければ、さんさんと降り注ぐ太陽が目に毒だ。平日の真昼間、有給休暇を使って役所まで行ってきた。仕事の電話、なんてのはウソ。
     
     あらかじめ病院で貰ってきた紙を提出すれば、その場で貰うことが出来た可愛らしい小冊子。表紙には、デフォルメで描かれた赤ちゃんが笑っている。
     
    「はー、母子健康手帳ですって。実感湧かんわ」
     
     
     *
     
     
     乙夜、雪宮とは大学時代からの旧知の仲だ。気心が知れているし、変に取り繕わなくて良い。だから社会人になっても三人でつるんでいた。
     
     そんな二人と何とも奇妙な関係を持ち始めたのは、ここ最近のこと。
     
    「独身生涯が理想」
    「それな」
    「老後2000万問題? 上等じゃコラ〜!稼いだるわ〜!」
    「よ、キャリアウーマン」
     
     とある呑みの席、しこたま酒の入った自分たちは、度々将来の理想を語ってはお決まりのように同じ結論へと至っていた。ひとりは気楽だ、何にも囚われず、独り身が三人集まって飲む酒は美味しい。
     好い人はいないのか、結婚はまだか。歳を重ねるほどに悪気なく投げかけられる言葉は針となって烏の身を蝕む。しかし、この三人で居るときだけは、その痛みが和らぐ気がした。
     
    「ね、ユッキーってどうしてんの」
    「何が?」
    「性欲処理」
     
     切っても切り離せない話題も、かれこれ何度目になるだろう。
     
    「おい、乙女の前で何をほざいとんねん」
    「性格的にワンナイトとか出来なそうだし、やっぱ風俗とか?」
    「んー、秘密」
    「なんか逆にスケベだな」
    「スケベで結構」
     
     男ふたりで盛り上がっている。楽しそうで何よりだ。
     
    「烏は?」
    「は?」
    「女の子だって溜まるもんは溜まるっしょ」
    「おい、デリカシーどこに落としてきた」
    「いいじゃん、俺らと烏の仲だろ」
    「え、聞きたい聞きた〜い」
     
     恋バナでもするみたいなテンションに辟易する。今更コイツらに見せる恥じらいなどはないが。
     
    「…最近切ったけど、セフレやな」
    「切ったんだ?」
    「しつこぉなってきたからな、潮時や」
    「うわ、沼らせてそう。悪いオンナだな烏くん」
    「尻の才能あって結構気に入ってたんやけど…」
    「「は?」」
    「やべ」
    「マジかよ烏さん…」
    「さん付けすんな!」

     ここまであけすけに言う必要はなかった、と反省する。酒が入ると口が緩くなるのは常だが、フォローもまた的外れで墓穴を掘りまくる羽目になった。
     
    「男の尻弄るだけのモノ好きやないで? ちゃんと突っ込んだり突っ込まれたりするし、」
     
     それからというもの、三人の関係を形成する要素が一つ増えた。『酒』『遊び』に加えて、『セックス』が。
     
     
     *
     
     
     正直、生物学上の父親は乙夜もしくは雪宮、どちらかであることだけは分かっていた。三人でそーゆーことをするようになってから他で関係を持った覚えはないし、何より逆算するとその辺りで自分が受け身に回った記憶がありありとあったから。
     
    「それにしても自分、めちゃくちゃ俺似やな」
     
     未だ住み慣れないマンションの一室、我が子をまじまじと眺める。当たり前だけれど、烏の子供だ。幼いながら、面影がもう、自身に九割寄っている。実家のアルバムを引っ張ってきたらきっと瓜二つだろう。…どちらかに似ていなくて、安堵してしまう自分が居る。
     
     息子を産んで、もう三ヶ月は経つ。仕事を辞め、携帯を解約した。ゆかりの無い土地で初めての出産はかなり堪えた。しかし、堕ろすという選択肢だけは不思議と一ミリも浮かばなくて。今はこうして、老後のために貯蓄していた資金で金銭的な苦労なく暮らせている。
     
     乙夜と雪宮。今頃どうしてるだろうか。二人には、地元に帰って結婚すると突き放すように嘯いて、一方的に連絡を絶った。
     
     両親とも連絡は取っていない。きっと力になってくれる、だから連絡はしたくない。自分が招いたことの始末は、自身で付けたかった。説明するのが面倒なのもあるけれど。
     
     突如として狂った人生設計だったが、案外気に入っているのだ。自分一人のためではなく、この子のためだと思うと何だってやってやろうという気概が湧いてきた。結婚を急かされるのは勘弁被りたいところだったが、別に子どもは嫌いじゃない。むしろ好きの部類だ。
     
     烏の思考は、完全に自分の子と、長閑な半田舎での生活にシフトしていた。いつか息子に出生について話をする時が来た時に、胸を張っていられるように、頑張らねば。
     
     インターホンの軽快な音で目が覚める。子どもを寝かしつけをしていたはずが、どうやら自分自身も寝入っていたらしい。時計の針は夕方を指していた。宅配を頼んでいたのを思い出し、ロクに来客の姿も眺めずに扉を開ける。宅配の指定日は明日、寝起きの頭ではそんなことも理解出来ずに。
     
    「はーい、」
    「ちゅーす」
    「げ!!」
     
     見たくなかった顔、聞きたくなかった声その1に、すぐさま持てる力の全てを駆使して扉を閉めようと試みる。けれど、彼は挟まれるのを前提に手を差し込んできた。鈍い音がする。うわ、痛そう。
     閉じきれなかった扉を、もうひとつの手がゆっくりと開いていく。
     
    「げ、とは随分なご挨拶だね」
    「見たくなかった顔その2…!」
    「元気そうで何より。地元に帰って、結婚したはずの烏くん?」
     
     
     *
     
     
    「え〜…………かわいい…………天使?」
    「メロメロのユッキーは置いておいて。…烏、久しぶり」
     
     警察を呼んでも良かった。しかし、よくよく考えると、烏は勝手をしている身、ということを思い出す。
     相談もせず、ウソをついた。勝手に子どもを産んだ。
     二人が追いかけて来なかったらそれまでだが、こうして目の前に現れたからには、どちらかと血の繋がりがあるかもしれない、ともなれば。説明する義務があると、烏は思った。
     
     リビングに通して、気持ちよさそうに眠る息子を紹介する。雪宮は膝をついたまま動かなくなったため放っておく。付き合いだけは無駄に長いから分かる、下手なことはしないだろう、と。
     
    「全部嘘だったってことでいい?」
    「おう」
    「なんで言ってくんなかったの」
    「面倒、ってのが一番の理由」
    「面倒ってお前さ、」
    「どっちの子? とか、そんなんで頭悩ませとうなかった。お腹の子に伝わってまう気がして」
    「……。」
    「あ、責任取るなんて言い出さんといてな? 頼むから」
     
     お腹にこの子が居るときは、面倒を避けたくて逃げることばかりを選択してきた。向き合うにはちょうど良かったのかもしれない。
     
    「このとおり俺似やし、正直ちゃんとした検査せなどっちの子かわからん」
    「からす、」
    「お前らが気に負うことはひとつもないし───、」
    「…烏くん、何か勘違いしてない?」

     息子の寝顔にメロメロだった人間とは思えないほど真面目な面持ちで着席する雪宮は、可笑しそうに首を傾げる。
     
    「俺たちの大本命はさ、責任を取ってもらうことなんだ」
    「…はあ?」

     大きな声が出そうになるが、既のところでボリュームを抑える。
     
    「尻弄るだけいじっておいて、俺たち本体はポイだなんて許せるわけないじゃん」
    「……。」
    「すごい顔してる、烏くん」
     
     心の底から、信じられないものを見ている気分だ。なんてエゴイスト、自らのことしかまるで頭にない。
     
    「そんな顔すんなよ、お前が生み出した怪物だぜ」
    「この…っ、ウルトラ自己中どもが」
    「それは烏にも言えるでしょ」
    「最初に勝手をしたのは、…居なくなったのは誰だっけ?」
    「…!」
    「俺たちは、烏に倣って好き勝手してるだけ」

     痛いところを突かれて、次の言葉が上手く繕えない。そうだ、好き勝手を始めたのは烏から。
     
    「つーわけで、責任…取ってね♡」
    「責任たって…」
    「手足が2セット増えた、程度に思ってくれればいいし」
    「うんうん」
    「は? なに、お前らこっちに住む気なん…?」
    「おう、転職してきた」
    「は!? もう!? お前ら…!」

     そも、どうやってこの家を、部屋を突き止めただとか。どんな自信があって烏に会う前から転職を進められるんだとか。言いたいことは沢山あった。
     
    「ほんっまに、分からんで、どっちの子とか」
    「どっちとか別に良くない?」
    「俺がウソついてたら、どっちの子でもないかもしれんし」
    「んー、まあそれでもいいよ。三人の子どもってことで」

     コイツら相手に愛はない、恋もない。でも、三人で居るのは、他で埋めようがない楽しさがあった。だから、ちょっと、ほんの少しだけの執着くらいは、ある。
     もう叶わないと蓋をした光景、またこうして三人、肩を並べてもいいと、差し出された二つの手。 込み上げる嬉しいを悟られないよう、バチーンとひときわ大きな音を立ててそれを返事の代わりとした。
     
    「ばか、起きちゃうだろ」
    「ってえ、」
    「誰の息子やと思ってんねん、俺らの子やぞ。ちょっとやそっとのことじゃ起きん」

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