夏を待っていましたこのサイレンの音を聞くと、夏が来たという感じがする。蝉の声でも花火の音でもない。野球人にとっての夏は、甲子園に始まり甲子園に終わる。テレビに群がる子供らのうち何人かは、数年以内にあの土を踏むのかもしれない。このサイレンの音を、全身の肌で聞くのかもしれない。
「田中先輩どけおっと? 先発じゃなかと?」
「こんた相手チームやっど。先輩は高知じゃ」
練習を早々に切り上げたのは、もちろん甲子園中継に合わせてだ。集会所を借り切り、希望者はそこで見られるようにした。二日目、第二試合。この春に我がチームを巣立ったばかりの超大型選手、田中新兵衛が出場するはずだからだ。
超大型、というのは比喩的な意味だけでなく、とにかく体が大きかった。小学生の頃から見てきたが、著しい成長期があったわけではなく最初からずっと同学年の子に比べひとまわりデカい体、強い力を持っていた。あまりに差がありすぎるので、物心ついた頃から遊びのドッヂボールでは利き手を封じられていたらしい。大きい子、特に急激に背が伸びた子は体のバランスを見失いやすいものだが、新兵衛は体幹が恐ろしく強く、ボディコントロールもしっかりしていた。
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