執務室のドアを叩く音。僕は書類から顔を上げ答える。
「どうぞ」
「失礼、します……」
いつも通りどこか自信のなさげな声が返ってくる。重たいドアを開け、金髪の青年が部屋へと入ってきた。
僕が団長を務める楽団の団員。名はトルペ。つい先程、楽団主催のソロピアノコンサートを終え、帰ってきたところだ。
トルペくんは、僕の机の前まで来ると緊張した面持ちで僕の言葉を待つ。
僕はコンサートでのトルペくんの様子を思い浮かべながら、心の底からの笑みを湛え、口を開いた。
「いやぁ、今回も素晴らしい演奏だったよ、トルペくん! お客様も皆聴き惚れていたし、僕も夢中で聴いていたよ!」
「あ、ありがとう、ございます……」
「そんなに縮こまらなくて大丈夫だよ。君の演奏は誰にも真似することの出来ない唯一無二のものなんだ。もっと自分を誇ってほしいな」
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