Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    べにいも

    うちよそ小説置き場

    ☆quiet follow Yell with Emoji 😍 😊 💘 💒
    POIPOI 7

    べにいも

    ☆quiet follow

    ノアイチSSです!
    ノアくんの親から頂いたイチの絵を元に書きました。イラストも最高なので見せたい気持ち。

    ノアイチ⑤ 孤独に人生を終えることは恐怖だと、きっと誰もがそう口を揃えるだろう。大切なものを、見つけてしまうならば。


    ——


     朝の早い時間に移動する休日。世界中の誰もが考える、人の多い時間を避けたいという思い。イチもその一人であり、同じ考えが集結すると、ここは満員電車と化す。
     鼻につく香水の匂いと、疲れたスーツの綻び。微かに聞こえる音漏れ。小さな泣き声。たくさんの生きる音に、イチは眉を寄せながら目を閉じる。嫌な顔をしつつも、否定するものではないその場所に、少しでも逃れようと目を閉じる他なく。耳に入るアナウンスだけを頼りに目的地へと進む鉄箱。

    「好きな人でも出来たら変わるのにね」

     その声が、嫌に耳に入る。
     それは自分に向けられたものではなく、車内での女性同士の会話。向けられた声の主は、目を俯けて、頬を掻いている。物静かな容姿、というのが一番優しい紹介だろう。
    「か、変わらないよ……」
    「そんなことないよー!」
     聞き耳を立てたくなくとも聞こえる会話に胸を痛める。
     好きな人が出来れば、何が変わるというのだろうか。好きな人がいても、きっと何も変わらない。むしろ、そんなものが増えてしまえば生きづらくなるに決まっている。イチの中で、それは荷物でしかなく。邪魔、とまでは言わなくても、一人で生きていたい心情のイチからすれば、それは邪魔にも匹敵するのかもしれない。
     好きで一匹狼でいる者はいない。どちらかといえば、そうならざるを得なかったものへの言葉だと感じる。
     周りが楽しそうに遊んでいても、関心も無く。煩い、なんて下品な言葉で一喝したくなる。どうして周りの者は、群れて過ごすのだろうか。なんて疑問も、浮かぶほどに。

    『まもなく——』

     やっと待ち望んだアナウンスに、耳を傾けて胸を撫で下ろす。
     本来だとこんな場所に来る予定もなかったイチ。周りの湿気に首を横に振りながら、一番に降りてその場から離れる。

     外に出た瞬間、心地よい風が頬を掠めて。肌寒いその風に、上着をしっかりと着直す。
     澄んだ空、優しい風。一人で噛み締めるのは、きっと勿体無いんだろう、と、イチは苦笑いをする。
     青々をした空に混ざる白い影。雪化粧のように点々とした雲に、目を奪われる。

    「綺麗」

     口から出た素直な言葉は、イチの疲れた時間を回復するのに容易いものだった。
     この空のどこかに、先程聞いた、好きな人になり得る人がいるならば。イチを変えるような、孤独から救うような人がいるのならば——。



    ——


     カシャリ、と、シャッター音が鳴り響く。

    「?」
    「イチすっごい今の顔、モデルみたい!空と一体化してた!これは最高の一枚かも!」

     一眼レフを首からかけて、嬉しそうに撮れた写真を見つめるノア。
    「目の色も空に混ざってて、何より今日の服装ほんっとにかっこいい!俺のためにおめかししてくれたんだよね!はぁ、たまんないよ!」
     怒涛に言葉を畳み掛けるノアに、目を細めて見つめるイチ。
    「勝手に撮るな、俺を撮るためにカメラ持ってきたわけじゃないだろ」
    「え?いや?」
    「は?」
     当然ですけど?という顔をして、ノアは何度も何度もカメラに収めた写真を見直す。
     珍しくカメラを持っていると思ったら、これだよ。と、イチは引きながらも、少し笑いをこぼす。
    「はっ、またいい顔しちゃ、っっ」
     二回のシャッター音を聞き、イチはその手を握って歩き出す。
    「ま、って!撮ったの確認させて!」
    「早く行くぞ」
    「い、イチぃ……」
     自ら手を取ることをしないイチだが、阻止するためには仕方ないこと。ノアも、手を繋いでくれたことに感涙し、その手を撮ろうとおかしな角度をしているが、歩みを早めるイチに負けてしまう。



     孤独が、怖い。
     あの時の君に伝えたい。
     大切な人は、孤独を奪う代わりに、孤独になることを恐怖させる。けれど、それも悪くないものだよ、なんて。

     もう感じることのないあの気持ちに、レンズキャップをして。



    end
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭👏👏👏💒
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works