結花の話わたしの家は島根県の出雲市にあるの。
そう、神様達が10月に…神無月にいらっしゃるとされる出雲大社にも関係してるんだよ。
だからこの時期になるとわたしはお家のお手伝いしなきゃいけないから…學園がお休みの日は実家に帰らなきゃいけないの。
…そんな大した理由じゃないの。他の皆と比べたらわたしの悩んでることなんて些細なものだと思う。
わたしの治癒の術式ね、本当は妖を…ううん、使い方次第では人を傷つけられる物なの。
父様は、本当はわたしにそうなって欲しいみたい。
相手に霊力を込めて細胞を活性化させて傷を癒す…言ってしまえばわたしの術式は至極簡単なものだけど、活性化させすぎてしまえば妖も人も許容量を超えて細胞が壊死する。
わたしはそれを無意識にセーブしちゃうから祓うまでには至れないんだ。
理由は…怖い、から。
駄目だよね、陰陽師なのにさ…人を守る仕事なのに、誰かを傷つけるのが怖いからなんて言う理由で戦えないなんて…周りの人達はね、優しいからそんな事ないよって言ってくれるの。
でも、逃げてばかりじゃ嫌なの。
……なのに、今もずっと逃げ続けてる。
本音を言ってしまえば…父様の事凄く怖いの、自分の父親なのに変だよね。
お金の事しか考えてなくて…目先の利益ばかり。
わたし達の術ならどんな相手でも治せるけどそれをしない人なの。
有名人とか、高名な陰陽師の人とか…それこそ、お偉いさん…政府の人も父様の元に治療しに貰いに来てたこともあったよ。
それと…父様は術式を攻撃にも使える人だったの、その光景がね…今も頭から離れないんだ。
目の前で妖が…ただの肉片となって弾き飛ぶ様…ぶくぶくと人の腕が膨れて破裂する様…それを、ただ助けてと願っただけの弱い妖や人間にやるような怖い人だったの。
わたしがどうしてって言えば「これならもう苦しまなくて済むだろう」って笑って言うような人。
わたしは、そんな風に自分の力を使いたくない。
綺麗事だって言われてしまえばそれまでかもしれないけど、わたしは助けられる人なら人も妖も関係なく皆を救いたい。
………それを言い切れるだけの強さが、わたしにはないの。
昔ね、そんな父様に反発して一度だけ助けてと頼んできた妖を治したことがあったの。
その妖は凄い喜んでわたしにありがとうって言ってくれたの、だからわたしのした事は間違ってないんだって思ったんだ。
でもね、その妖は悪い妖だった。
治った体で人を襲っていたの。
でも犠牲が出る前に他の陰陽師の方が討伐してくれたから被害は出なかった。
…わたしのせいだって、思った。
その時綺麗事を通すにはそれなりの強さがいるんだって思い知ったんだ。
…でも、本来の術式を使うのは怖い…暴力を振るうのも怖い…誰かを傷付けるのは、怖い…ずっと、こんな風に言い訳してばっかで逃げてるの。
情けないでしょ?…自分でも、わかってる。
どうにかしなきゃってなるのに、足が竦んで動けない。
折角出来た大事な人も、親友も、友達も…何一つ、自分じゃ守れない。
………大嫌い、こんなわたし。