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    くるしま

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    くるしま

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    だいぶ前に波箱でリクエスト頂いた「土受け前提の雑土で最後に雑さんが掻っ攫う」を書きました。
    土井先生好きとして利吉が筆頭、あとは生徒たちがちょろっと(食満と久々知)。

    本当にこれでリクエストに応えられているのか、だいぶ心配ですが、よろしければお納めください…!
    時間がかかってすみません!リクエストありがとうございました!

    リクエスト話 土井半助という男は、あれでなかなかモテる。
     まず、見目が良い。柔和な雰囲気で場に馴染むのが上手いし、自分のことにはズボラな割に世話好きだ。知識が豊富で、頭の回転が早く、戦闘力も高いので頼りになる。
     まあ、もてるのは構わないのだ。良くも悪くも、人からの好意に振り回される男ではない。
    「ただなぁ」
    「何ですか父上」
     土井が不在の職員室。山田父子は向かい合って、のんびりと茶を飲んでいた。家に帰る帰らないの話は一旦終わり、部屋の隅には利吉が持ってきた洗濯物が置かれている。茶請けの団子は、利吉からの土産だ。
    「半助のことだ」
    「土井先生がどうかしましたか?」
    「正確には、おまえのことだ」
    「私ですか?」
    「半助に関わりすぎだ」
     利吉は、とぼけているのか本当にわかっていないのか、
    「関わりすぎ、というのは?」
     不思議そうに尋ねる。
     土井半助に想いを寄せる者は多い。その筆頭と言ってもいいのが、今、目の前にいる息子の利吉だ。
     何しろ、年季が違う。利吉が土井と初めて出会った少年の頃から、曲がりなりにも一人前になった今まで。利吉の視線は、ずっと土井へと向けられていた。
     そこは自由にすれば良いのだが、問題は、気持ちが昂じて行動にまで移っているという事だ。
    「先日も、半助が忍務の最中に声を掛けたと聞いたぞ」
    「あれは半子さんがナンパされていたので、割って入っただけです」
     利吉は、涼しい顔で言い返す。
    「そんなものは放っておけ。忍務中だったら、どうする気だ」
    「先に土井先生にだけ気付くように合図を送って、忍務中でない事は確認済みです」
     その辺りは、さすがに抜け目がなかった。にしても、やはり庇う必要はない。
     利吉の実力は、まだ土井に追いついていない。土井が何ともならない相手を、利吉がどうにかできるはずもないのだ。
    「それから、生徒にもだ」
    「生徒には何もしておりませんが……」
    「生徒や卒業生が半助に近付くたびに、牽制しているのは誰だ」
     土井半助の人間関係は、忍術学園を中心に築かれている。よって、利吉の警戒範囲は学園が中心となる。
     土井は生徒に好かれやすい。
     恋にのぼせやすい年頃の生徒から、淡い想いを向けられる。教職員なら、程度の差はあれ誰でも寄せられた経験はある。土井は特にそれが多かった。卒業した元生徒が、わざわざ想いを伝えに再訪して来た事もある程だ。
     そのたびに、利吉が立ち塞がって邪魔をする。利吉は利吉で生徒に人気があるから、土井の隣で「私に勝てるのか?」という顔をした利吉を見れば、大抵の相手は戦意喪失だ。
    「下心のない生徒には、何もしておりません」
    「牽制があからさますぎるんだ」
    「わかりやすい方が良いでしょう。放っておけばおくほど、後々面倒になります」
     と、利吉はまるで悪いとは思っていない様子だった。そして実際、利吉の牽制は役に立っていた。土井も迷惑がってはいない。むしろ、助かるとさえ思っていそうだ。
    「それでも、半助は一人で対応できる。手出しは程々にしておけ。特に生徒には」
    「はい」
     わかっておりますと言うかのように頷く息子の言葉を、山田はその通りに受け取れない。
     聞き分けが良く引き際も見極めているはずの利吉が、土井の事となるとまるで周りが見えなくなる。いや、見えても無視をする。
     何年か前、傷を負った土井が目の前に落ちて来た時から、利吉はずっと彼を見て来た。感心するほど一途に。
     だが、では利吉が土井に相手されているかと言えば、そうではない。土井にとって、利吉は「特別な子」ではあるが、そこからは抜け出せていない。望みがあるかと言われれば、難しい所だ。
     利吉も折に触れて好意を示してはいるが、土井が靡く様子はない。
     父親としては複雑なものがあるが、もう利吉も子供ではないから、口を出さずに見ている。
     今のところ、勝算があるとは言えない。
     長期戦で行けば、あるいは、とは思う。親の欲目を抜きにしても、利吉はまだ伸びる。土井は未だに出会った頃の利吉のイメージを引きずっているようだが、もう数年もすれば若さも消えるだろう。
     山田にすれば、利吉も土井も、幸せになって欲しいとは思う。望みは薄いがまあ頑張れと、息子を見守っていた。
     しかし。
     最近、気にかかる事が出来た。
     少し前から、少々毛色の違う男が土井の側に現れるようになった。生徒ではなく、教職員でもなく、敵でも味方でもない。珍しく土井よりも大柄で、その実力も土井を超える男。
     雑渡昆奈門というのが、その男の名前だった。
     彼がどうやら土井へ好意を抱いているらしいと、山田は最近知った。
     タソガレドキにスカウトされた土井が、話を断ったというのは聞いていた。そこからどう話が流れて、恋情の絡む話になったのか。
    「一体どこまで本気なんですかねぇ」
     と言っていた土井の表情が、どこか柔らかい。そこも含めて、山田は少々嫌な予感がしていた。
    「そうそう、父上。先日帰った時に、母上から伝言を預かり……父上? 聞いておられますか?」
    「ん? ああ。母さんが何だ?」
     利吉の言葉に、考え事を棚上げにする。
     今の所、雑渡の件を利吉に伝えるつもりはない。利吉はもちろん、雑渡昆奈門という名を知っている。顔を合わせた事もある。特に好意はないだろうが、嫌っている様子もない。名の知れた忍者に対して若い忍者が抱く感情。好奇心と敬意と警戒心、それに少々の対抗心。それくらいだろう。
     しかし、土井へ言い寄っているとなれば、話は変わる。雑渡は一転、利吉の敵になる。
     いくら何でも雑渡昆奈門が相手では、利吉には荷が重い。
     面倒な事にならねばいいがと思いながら、山田は息子が伝える妻の言葉に耳を傾けた。




    「土井先生ー!」
    「土井先生! 今よろしいですか」
     二つの声が同時に上がり、廊下を歩く土井を呼び止める。土井は立ち止まり、声の主を確認した。
     土井の後ろから食満留三郎が、前から久々知兵助が声をかけてきていた。二人は同時に声を掛けて初めて互いの存在を認知したようで、土井を挟んで顔を見合わせている。
     一瞬、ぴりっとした空気が流れたが、
    「食満先輩、お先にどうぞ」
     兵助が、下級生の礼儀で先輩に先を譲った。これが同級生同士だと更に長引くから、まずは良かったと土井は安心する。
     譲られた留三郎が、遠慮なく土井へ誘いをかける。
    「お時間があれば、我々の鍛錬に付き合って頂けませんか。文次郎と小平太もいます」
     急ぎの用件ではないと判断した土井は、次に兵助を見た。
    「兵助は、何の用だったんだ?」
    「火薬委員の予算の事で、ご相談したい事がありまして……」
     重要さからいえばこちらだが、予算会議はまだ先だ。
     つまり、どちらも火急の用という訳ではない。
     二人とも、じいっと土井を見ている。やけに真剣な顔で、どちらを選ぶのか、と迫るように。
     生徒たちは、たまにこうやって土井を取り合う。一年生ならともかく、上級生もだから、教師というのはこんなに好かれるものかと最初の頃は驚いた。
     残念ながら、今日はどちらにも付き合えそうにない。土井は申し訳なさそうに、二人を交互に見た。
    「すまん。今はちょっと手が離せなくてな。鍛錬はまた呼んでくれ、留三郎。兵助、予算の件は明日でもいいか?」
     明らかにがっかりした顔で、留三郎と兵助は肩を落とす。が、二人ともごねるような性格ではない。
    「はい……ではまた、次の機会に」
    「明日、また来ます」
     二人が去ると、土井はため息をついて、塀の方向に目を向ける。
     音もなく廊下から外へ降り、そちらに向かって歩くと、木の陰から大きな人影が現れた。
     生徒たちに囲まれる土井の視界の端に、顔を出した男。もう忍術学園に馴染んだ不審者。
    「私に何かご用ですか、雑渡さん?」
    「いえ。通りすがりですよ」
     わざとらしい笑みを浮かべて、雑渡は土井に近付いた。土井は動かない。逃げるような相手でもないからだ。
    「土井先生は相変わらずモテていますね」
    「いや、生徒に懐かれるのは、モテるうちに入らないでしょう」
    「生徒ではなくなった卒業生にも、モテているらしいですね」
    「どこから聞いてくるんです」
     非難するように言いつつ、土井はそれを否定しない。雑渡が調べた上で行っているなら否定しても無駄だし、カマをかけているなら追求は逆効果だ。
     雑渡は少しだけかがんで、土井の耳元で囁くように言った。
    「ライバルの動向を調べたくなるは、当然の心理でしょう?」
     土井は小さく息を吐き、誰の気配もないのを確認してから、いつもより近い場所にある雑渡の目を覗く。
    「私は先日、あなたに口説かれたつもりでいるのですが」
     一度言葉を切り、すっと雑渡に体を寄せる。
    「伝わっていませんでしたか?」
     雑渡は口の端を上げて、「まさか」と囁き返す。そして更に距離を縮めようとしたが、
    「なら、いいです」
     土井は、あっさりと身を離す。学園内ではこの距離が限界か、と雑渡も諦めた。ここで事を進めようとしても仕方ない。忍術学園内では、必ず邪魔が入る。
    「ところで、山田殿のご子息が来ているとか」
    「利吉くんですか? 私もまだ会っていませんが、来ているのは聞いています」
    「ご挨拶をしてもいいですか? 山田殿にも」
    「……何の挨拶かにもよりますね」
    「土井殿とのお付き合い以外に、挨拶したい理由はありませんが」
     渋い顔をする土井とは対照的に、雑渡は楽しそうだ。絶対に反対されるとわかっているのに、何でまたそんな事をしたがるのか。
     土井は、まだ雑渡との仲を山田親子に話す気はない。
     賛成はされないだろうし、祝われるとも思っていない。歓迎もされないだろう。そこは覚悟しているから良いのだが、反対されると困る。特に、利吉には。
     山田が反対するとしたら、同僚として、忍術学園の教師としての理屈で来るだろう。だが利吉が反対するとしたら、原因は彼の感情だ。理屈ではない。感情的な反対にどう対処すればいいのか、土井には分からなかった。
    「……利吉くんを説得できる自信がないんですよねぇ」
    「そこは頑張って頂きたい」
    「そもそも、言うのが早すぎませんか? 意外と、すぐに嫌気がさすかもしれませんよ?」
    「土井殿が?」
    「もしくは、雑渡さんが」
     二人はしばらく顔を見合わせて、ふっと笑った。
    「今日でなくてもいいでしょう。少し待って頂けますか?」
    「構いませんよ。しかし、早めの方が良いかと。隠し事は長引くほど面倒になる」
    「それは、まあ、そうですね……早めに伝えますよ」
    「それが良い」
     話しながら、雑渡は距離を離していく。生徒たちの声が近付いて来たからだ。
    「では、また」
     雑渡が軽く一礼して、
    「ええ、また」
     土井は微笑みで返した。
     雑渡の姿が消えるのとほぼ同時に、元気にお喋りしながら教え子たちが姿を現した。
    「あれ、土井先生」
    「こんな所で、何してるんスか?」
     乱太郎ときり丸、それにしんべヱが、揃って土井を見る。
    「ちょっとな。ところで、利吉くんが来てるって?」
    「あ、はい。さっき山田先生の所でお会いしました」
     乱太郎が答えて、
    「土井先生は、まだ会ってないんですか?」
     しんべヱが意外そうな声を上げる。
    「ああ。これからだ」
     しんべヱにそう返しながら、土井はさてどうするかな、と考える。
     雑渡の様子からして、長く秘密にしておくつもりはなさそうだ。ならば、雑渡の口から聞くよりも、土井自身が話した方がマシだろう。
    「利吉くんは、今回も山田先生の奥様からのおつかいで来たのか?」
    「そうみたいっス。山田先生と、いつものアレやってました」
     きり丸の言葉に、乱太郎としんべヱが「ねー」と笑う。その様子からして、いつものように洗濯物を挟んで「たまには帰ってください」「わかったわかった」というやり取りをしているのだろう。
     利吉はあまり機嫌が良くないかもしれない。とはいえ、どれだけ機嫌が良くても、雑渡との事を話せば最悪になるに決まっているのだが。
    「わかった。ありがとう」
     夕食の支度に行くという三人組と別れて、土井は職員室へ戻る。
     最初は山田だけに話した方が良い。利吉への対応については、相談しよう。
     そんな事を考えながら、職員室の前に立つ。すう、と息を吸って、戸を開ける。予想に反して、そこには山田が一人で座っていた。
    「あれ? 利吉くんはもう帰ったんですか?」
     きょろきょろと周りを見るが、もう利吉の気配はない。
    「ああ。仕事の時間があると言ってな。おまえさんに会えなかったのを、残念がっていたぞ」
    「私も残念です」
     と言いつつ、少し気が抜ける。けれど利吉が帰ったなら、今がちょうど良いタイミングかもしれない、と思った。土井は山田の向かいに座り、真顔で切り出した。
    「あの、山田先生。報告したい事があるのですが」
    「何だ?」
     そのしばらく後。
    「ぬわんだとぉ!!??!?」
     という山田の声が、職員室中に響いた。
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