私に魔法をかけて賢者様、ああ賢者様。
あなたの声で落ち着きたいのです。
「あの…ムル?何を言って…」
私たちを慰めてください、賢者様。
「シャイロックまで…!」
「おや賢者様、そんなに怖がらないで」
「これは…魔法か何かですか?」
「ううん、違うよ!わかんない!気になる?気になるなら賢者様が何を考えているか、頭の中をのぞいてみる?」
「ムル、おやめなさい」
「あっはは!おもしろーい!シャイロックの顔がくしゃくしゃ!色男が台無しだよ」
「またそんなことを…あなたには呆れます」
これが魔法だというのなら、私はきっとあなたの魔法使い…
「ルチル?」
「あ、いや。今いい文章が浮かんだんです」
「先ほどの、素敵でしたよ。もう一度聞いても?」
「ええもちろん!シャイロックさん」
「ムル?ずーっと見つめてどうしました?」
「うーん、わかんない!」
「そ、そうですか」
「アルシム」
「わっミスラ!?」
「賢者様、俺を寝かせてください。」
「えっ今ですか!?」
「ええ」
「ミスラ!君はいつまであの兄弟のお守りをしてるの?」
「ああ、ムルっ」
「…いつまで………俺が、……石になるまでですね」
親が子を見るような暖かい眼差し…
少なくともミスラは南の兄弟を裏切ることはなさそうだ。私は少し安心した。
「あなたの手が安心するんです。これはどうでもいいので早く寝かせてください」
「あ、はい」
「そういえば賢者様の手って、強そうだよね」
「クロエ?」
「あ、いや。こう…人を安心させるっていうか…こう、言葉に表せない強さっていうか…今もほら、ミスラのこと寝かせてるでしょう?」
「ええ」
「ほら、俺なんかより強い魔法使いと平気でずんずん話に行っちゃうし、俺、そんなことできないや」
「クロエは十分強いですし、私はクロエみたいに上手にお洋服は縫えないです。それぞれの得意なこととか、そういう自分の自信につながることをだいじにしたいですよ」
「おやクロエ、オーエンがあっちで探していたよ」
「…ラスティカ」
「おや、賢者様!ご機嫌いかがですか?」
「すごく元気です!今ミスラが寝そうなんですよ」
「なんて素敵なんだろう!子守唄にチェンバロで即興曲を…」
「ラスティカッ、あの、起きちゃうので、遠慮しても」
「そう言われればそうですね。賢者様。クロエだけじゃなく、あなたの強さは僕たちも強くしますよ。そんなところがあなたの素敵なところだ。さ、クロエ。オーエンのところへ行こう」
「うん」
この魔法のようなひとときが終わらないように願わせて。
約束しよう
いつか月の上でお散歩しましょう
それで賢者の書に書くんです素敵でしょう?
ルチルやアーサーが食いついてそう。素敵だねと
「それなら…溶けないように、永遠に願うよ…」
「賢者様、ミスラ、起きてください!」
「もう夜ご飯です。今日はネロさんがオムレツを作ってくれましたよ!」
「アーサー様もオズもいらっしゃいます。久しぶりにみんなで食べられますね」
「あ、賢者様。目が覚めましたか?」
「お前ずっと寝てたぞ」
「こらシノ!!賢者様はお疲れなんだぞ!」
「騒々しいですね…なんですか?」
「ミスラさん!今日のご飯はオムレツですって!」
「腹に入れば全部同じですが…まあ、行きますか」
「兄様も待ってますよ!いきましょう!」
「賢者様はどうされますか?」
「ヒース、すいません。少し少なめに守るように言ってもらえますか?」
「ええ。もちろんですよ」
「賢者」
「あ、ファウスト」
「ファウスト、すいません。寝てたみたいで」
「別に、君は最近ずっと夜中まで何かやってるだろう」
「ええ…賢者の書を」
「シノ、君は先に行ってるといい」
「わかった」
「夜の間ずっと賢者の書を?」
「ええ。この前フィガロに見つかって怒られてしまいまして」
「そういうところだぞ…」
「賢者ちゃーん」
「これスノウ、お取り込み中っぽいぞ」
「我としたことが!うっかりじゃった」
「嵐のようだな」
「本当ですね」
「レノックス、」
「レノ?」
「いつまで経っても来ないので…呼びに」
「ああ、そう。すまない」
「そうかしこまらないでください。さあ、冷めないうちにいきましょう」
私は食堂へ向かうレノックスとファウストを見つめて賢者の書のページをめくった。
みんながくれた優しい言葉
彼らが私たちの物語を繰り広げる。
本当にこれは魔法なのだろうか。
やはり解けないように永遠に願おう。