幻想の向日葵 いつもと違って、彼には入れ墨が無かった。あの独特な青白い肌も血色が良くて肌の色が明るい。特徴的な紅い髪だけは相変わらずだが、それでもだいぶ、いつもより人に近い姿ではある。幼い顔立ちがいっそう引き立つが、より一層その姿は美しい。
「杏寿郎」
そう自分の名を呼ぶ彼は、青空の太陽の下で向日葵の花を持って佇んでいる。彼は以前に「まるでお前みたいだな」といいながら夜にややしおれた向日葵を持ってきたことがあった。あの時と違い、手に持っている向日葵は、夏の青空の元で勢いよく太陽の方を向いていた。
ああ、夢なのだな、と、すぐ気付いた。でなければ彼の入れ墨が消えることも、太陽の下で向日葵を持つこともない。
しおれた向日葵を持ってきた夜、彼は杏寿郎の剣技を褒めたたえて、それからぽつりと言った。
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