命がけのわがまま 遊郭の外れ。古びた妓楼の貸し切った二階で密かに会うたびに、猗窩座は言う。
「お前はわがままだな、杏寿郎」
くたびれた絹の布団の中で、裸の右太腿の内側に舌を這わせながら、やはり今夜も同じことをこの鬼は言う。初対面で殺しかけても無理矢理に鬼になれ、とせがんであげくに体まで強引に開かせた輩にそんなことを言われる筋合いはない。けれど閨の中でも饒舌なこの鬼は、こちらが黙っているのを
いいことにいつもの不満を口にした。
「鬼にもならず、仲間も裏切らないし、俺と逃げることも嫌だという。そのわりにここで俺と会うことも止めない。ついでに、」
あっ、と思わず声が出た。少しざらついた鬼の舌で、魔羅をねっとりと舐め上げられたらからだ。上から下へ、まるで砂糖菓子でも味わうように。
「俺の子種だけはしっかりここで搾りとっていく」
両膝をぐいっと上に上げられて、いつも突っ込まれている尻穴まで冷たい指で撫でられた。抱かれるようになってから知ったが、鬼の肌は存外冷たい。
「君だって楽しんでるくせに」
苦し紛れにそう反論したが、気に障ったのか閨事に集中したいのか、猗窩座は何も答えずに恥ずかしい穴に舌を這わせた。そうなると返事なぞどうでもよくて、頭が真っ白になってはしたない声しか出なくなる。
遊女よりもよほど理性がなさそうな嬌声を上げながら、杏寿郎は頭の片隅で思った。
こんなことが仲間にバレたらどうなるか、考えないわけではない。斬首されても文句は言えないのだ。
その辺りは全て覚悟している、とこの激しい気性の鬼に伝えたら、いったいどうなるだろうか。
確かにわがままだろう。密かに鬼に抱かれる続けるこれは、杏寿郎にとっては命がけのわがままだ。
だがもう一つ望むとすれば。
死ぬなら君と一緒がいい、と思っていることを猗窩座にいつか伝えたかった。