お祭りのその後に(ラウグエ) アスティカシア全校集会も無事終わり、ジェターク寮の自分の部屋で弟と反省会をしていたグエルは、席を外して戻ってくると、ソファに座ったまま、机に突っ伏して眠っている弟の姿に気づいた。
「ラウダ?」
このままここで座ったまま寝るのは良くないと思い、グエルはラウダの肩を軽く揺するが、弟は起きる気配がない。
「うん……兄…さん……」
「寝言か? 夢の中でも俺と一緒なのかおまえは……」
何の夢を見ているのかは分からないが、とりあえず自分は弟の夢の中に出演しているようだ、とグエルは苦笑を浮かべた。今回の集会でも、幾度となくラウダが口にした『兄さん最高!』の言葉を耳にする度に、グエルは嬉しいような照れくさいような、一言では言えない気持ちにさせられた。
(おまえは本当に俺のこと好きだよな、ラウダ。いつもありがとうな)
さて、弟は起きる気配がないので、反省会はひとまずここでお開きとしよう、とグエルは机の上の諸々を片付けた。その間に弟が起き出せば部屋に帰せばいいと思っていたが、全く起きる気配がない。よっぽど疲れていたのだな、とグエルは眠りこけているラウダの傍に座り込んだ。幼い頃のように頭を撫でてみるが、やはり起きない。
(しょうがない。今日はここで休ませるか)
グエルは机にうつ伏せで寝ているラウダの両肩に手をやり、身体をそっと起こした。そのまま片腕を背中に回し、もう片方の腕をラウダのひざ下に差し入れて、ひょいと抱き上げた。いわゆる「お姫様抱っこ」というやつで弟を抱き上げた。
眠ったままのラウダはグエルの体温を感じてか、甘えるようにグエルの胸元に自分の頬を摺り寄せた。無意識にやってるその動きを見て、グエルはラウダへの愛しい気持ちが湧いてくるのを感じた。
起こさないようにそっとグエルは自分のベッドまで運び、自分のベッドの上にラウダを寝かせ、布団を掛ける。丁寧に扱ったためか、ラウダは目を覚まさなかった。
「兄……さん……さいこう……」
「はは。お前まさか夢の中でまだ集会してんのか? それともキャンプか? ……集会は次はいつになるか分からないけど、キャンプくらいなら、また一緒に行こうな」
横になったラウダの髪の毛を優しく撫でてやると、安心したようにラウダは微笑んだ。それを見てグエルも嬉しくなる。
「おやすみ、ラウダ」
グエルはラウダの額にキスを1つ落とすのだった。
翌朝。
目を覚ましたラウダは、混乱のさなかにいた。目の前に兄の寝顔があったからだ。
「!?!?!?」
慌てて自分の格好を確認するが、昨日と同じまま――ということはここは兄の部屋で、反省会をしている間に自分は寝落ちしてしまったのだろうと予測は付いた。兄は自分をベッドまで運んで、その後自分も寝てしまったのだろう、同じベッドで。子供の頃はよくあったことだが、アスティカシアの寮へ入ってからは、立場を考えてそんなことはしなくなったのだが、昨日の集会のお祭り気分で気分が緩んだのだろうか。
ラウダがベッドの中から上半身を起こしたので、その動きによって、隣で眠っていたグエルが目をゆっくりと開けた。
「……ラゥダ……?」
寝起きの兄はわりと意識がポヤポヤしている。決して他人に見せてはならない隙だらけの姿だ。グエルはラウダを見て、嬉しそうに微笑んで朝の挨拶をした。
「……ぉはよぅ、ラゥダ……」
「おはよう兄さん。あの、昨夜は僕……」
寝落ちをしてしまってごめんなさい、と謝ろうとしたラウダだが、グエルが身体を起こしたラウダに抱きつき、再度ベッドに引き込んだ。
「に、にいさん!?」
「……もうちょっと寝てようぜ。おまえ昨日すっごい頑張ってたから」
だからこれはご褒美、とグエルはラウダの頭を撫でる。されるがままになっているラウダだが、実際はキャパシティはもう限界に近かった。真っ赤になってコクコクとグエルに頷く。
「……あ、うん……ありがと……兄さん」
「……おやすみ……」
グエルはラウダに抱きついたまま、再び目を閉じ眠ってしまった。ラウダも一緒に眠ってしまおうと思ったが、
(……って、無理に決まってるでしょ! この状況で眠れるわけない!)
この状況で眠れるラウダではなかった。だが下手に動くとグエルが目を覚ましてしまうので、身動きもとれず、だからと言って眠ることもできず、グエルが次に目を覚ますまで、ただ耐えるしかなくなったラウダであった。ラウダにとって、幸福をもたらすのも試練を課すのも、どちらもグエルであることはこれまでの人生においてもそうであったし、恐らくこれからの人生においてもそうなのだろう。溜息をついたラウダは、今はとにかく兄のいい抱き枕になろうと決意をするのであった。