それは温かいひかりだった(ルルスミ) 身体に受けた衝撃で、少女の意識がわずかに覚醒した。それから間もなく身体を仰向けにされ、軽く身体を揺すられたことで、さらに少女の意識が浮上してくる。やがて少女の耳は、音声を認識した。
『キミ、大丈夫かい!?』
呼ばれていると認識した少女は、反射的に声を上げたが、それはまともな音声にはならなかった。
「……ga……」
『意識はあるみたいだな』
少女は力を込めて伏せていた目を開ける。あたりは真っ暗だ。
(ここ、どこ?)
自分が置かれている状況が全く分からない少女は戸惑うが、身体は動かず、声もほとんど出せない。どうすればいいのか分からずにいると、少女は背中に温もりを感じた。ゆっくりと背中を起こされ、柔らかいものにもたれかけさせられた。それが何かを確かめようと少女は力を振り絞って上に身体を向けると、少女の目にそれは映った。
(……ひかり……? きれい……)
今まで見たことのない美しさに少女は不安を瞬間忘れた。少女は包まれるように優しく抱き起こされ、少しでも苦しくないようにと楽な体勢にされた。体勢が楽になり、少女は息を吐いた。
『苦しくないかい? 気分は悪くないかい? 自分の名前を言えるかい?』
矢継ぎ早に聞かれ少女は答えようとしたが、
「……pi……pi……ga……」
やはり言葉をしっかり発することが出来ない。
『すぐにドクターがこちらに来る。心配しなくていい』
身体に感じる温もりと、その『心配しなくていい』という言葉で、少女は安堵から再び強い睡魔に襲われる。それに逆らわず、少女は再び目を伏せた。
次に少女が気付くと、硬い所に寝かされていたことに気づいた。まわりを見回すと、多くの機械が自分の周りに置かれていることが分かった。さらによく見ると、その機械から多くの管が自分に繋がれている。
(なにこれ! どうなってるの!?)
「gagagagaga!」
今度は先ほどよりもはっきりと発声することが出来た。
「pipiーpipipiー!」
しかしそれは意味を持たない不思議な音としか認識できない。自分は一体どうなってしまったのか。少女は恐怖で真っ青になる。
『大丈夫ですか?』
不意にどこかからか音声が聞こえてきた。少女は慌てて見回すがそこには誰の姿もない。少女はますます不安に駆られ、どこにいるか分からない相手に向かって声を出す。
「gagagagagagagaga!」
『おっ、落ち着いてください! 落ち着いて!』
「pipiー! pipi-! pipipipipiー!」
(こわい……こわい……どこなのここは!)
少女は錯乱し、腕を振り回す。繋がれていた管が引っ張られ、管は外れ、その勢いで機械も大きな音を立てて倒れる。その音に動揺し、少女はますます錯乱する。
(いや……いやあーーーーーーーー!)
「pipipipipipi! gagaー! gagaー!」
周りを見ると、出られそうな扉が目に入った。少女は勢いよくそこに向かって駆け出す。一瞬手ごたえを感じたが、力を込めたらそこが開いた。
(でられる!)
『待って! ダメ!!! だっ、誰か! 誰か来て! あの子が……っ!』
焦ったような声が聞こえたが、少女はそれを無視し、開いた所から外へ飛び出した。
(ここはどこなの? あたしはいったいどうしてこんなところにいるの?)
走りながら少女は懸命に狭い通路を駆けて行く。とにかくまっすぐに少女が進むと、広い場所に到着した。目の前にはたくさんの人間がいて、自分を取り囲むように武器を構えてこちらを見ている。少女は足を止め、戻ろうとしたが、背後にも同じように多くの人間がいた。
(かこまれてる!? ど、どうしよう……どうすればいいの?)
完全に手詰まりとなってしまい絶望する少女は自分を守ろうと身を硬くし、少しでも彼らから距離を取ろうと後ずさる。
その時であった。
『大丈夫かい!?』
自分を囲むその人間の中から、少女にとって見覚えのあるものが見えた。あの時に見た、きれいなひかりだった。そのひかりは少女に一歩踏み出した。
『見知らぬ場所で不安だったんだね。大丈夫だ。ここは安全な場所だ』
(ひかり……あたたかかったひかり!)
あの時に感じた温もりを思い出し、少女は躊躇わずそれに飛びついた。
「gagaga! pipipipipi!」
『おっと……もう大丈夫だ。大丈夫、大丈夫だからな』
少女は以前に感じた温かみを肩に感じた。安堵させるような温かみと言葉に、少女はもう決してこのひかりを離してはならないと感じた。自分の力いっぱいでしがみ付く。
『スミス少尉、とりあえず彼女を医務室に。まだ検査が終わってないのよ』
『分かりましたドクター。レディ、大丈夫だから先ほどの部屋に戻ろう?』
強い恐怖を憶え、少女はさらに力を込める。
「gaga! pipipipipi!」
(いや! このひかりといっしょがいい!)
『何と言ってるか分かるかいドクター?』
『それは分かりませんが、恐らくスミス少尉から離れたくないのでしょう。幼い子供が親に縋りつく様子と酷似しています』
『スミス……貴官いつの間に……』
『最初に彼女を助けたのが自分だったので、その時のことを覚えているのでしょう』
『だったら下手に不安を与えない方がいい。あの部屋の鍵を一瞬で破壊したほどだ、暴れると何をするか分からない。彼女が安定するまでは貴官がサポートするように』
『イエッサー』
少女には彼らが何を話しているのか理解できなかったが、ひとまずひかりからは離されないようだ。少女がほっとして力を緩めると、肩に置かれた温もりが背中と膝裏に回された。
(え―――?)
と思った瞬間、少女はひかりに優しく抱き上げられた。見上げるとひかり――ルイス・スミスと目が合った。
『行こう』
見たことのない優しい眼差しで微笑まれ、少女は訳が分からず身体が熱くなるのを感じた。
このひかりを逃してはならない。
少女は本能でそれを理解した。