ランチタイム(イサ+ヒビ+ルル+スミ) 午前中の訓練を終え、イサミとヒビキは連れ立って食堂へ足を向けた。
2人は支給された食事を手に場所の確保のためにその場を見回していると、遠くからこの場に相応しくない少女の声が聞こえてきた。
「スミス! スミススミススミス!」
青い髪の少女――詳細は不明の謎の少女ルルがスミスに向かって明るい声で呼びかける声だ。ルルはテーブルに座ったまま、スミスの到着を待っている。呼ばれたスミスは支給された食事ではなく、明らかにルル用の特注された食事を1つ持って彼女の傍に戻ってきた。
「さあどうぞ、レディ」
「うわあ! カレー!」
「慌てずゆっくり食べるんだぞ」
「うん!」
ルルは目をキラキラと輝かせ、スプーン片手にカレーを頬張る。
「スミスのつくったカレーのほうがおいしいけど、これもおいしい!」
「ありがとう。ほら、こぼさないように気をつけて」
見守るように、スミスは穏やかな眼差しでルルの食事している様子を見ている。それを見ていたヒビキが、2人に近づいた。
「スミス、一緒してもいいかしら?」
そこで初めてイサミとヒビキの存在に気づいたスミスは、隣にいるルルを見る。ルルはスプーンを口にしたまま、ヒビキを見て、後ろにいるイサミを見た。何かを感じ取ったかのように、彼女は表情を強張らせる。
「……こわい……」
スミスはルルの様子を見て、今はまだルルに他の人間を近づけない方がよいと判断した。
「すまない2人とも。また今度にしてくれないか」
ルルの表情の変化でヒビキも察した。
「ええ。また今度ね。行きましょ、イサミ」
「ああ」
イサミとヒビキはスミスとルルの席から離れた場所を陣取り、食事を始めた。2人は遠くからルルの様子を盗み見る。ルルはスミスにスプーンを渡し、カレーを食べさせてもらっている様子が見えた。その様は、まるで雛が親鳥に甘えているようだ。ルルのわがままをいちいち聞いているスミスの様子を見て、ヒビキは苦笑した。
「なんだか父親が子供の面倒をみているみたい。さすがにそれは言いすぎか。見た目からすると、兄が妹の面倒を見てるって感じよね」
「そうだな」
「でもなんだか微笑ましい」
呟くヒビキだが、イサミは別のことが脳裏をよぎっていた。ルルの言動――やたらをスミスの名を呼び構ってもらおうとしていて、尚且つそれ以外の人間との接触を好まない様子――が、自分に懐いているあのロボットに何となく似ていると感じたのだ。
「なあヒビキ、あの子とアイツって、何か似てないか?」
唐突なイサミの言葉に、ヒビキは彼の言う『アイツ』が何を指しているのか瞬時に察した。彼女も似たようなことを考えていたからだ。
「そうねぇ、イサミの言いたいことちょっと分かる気がする。もしかして彼とルルは同じようなものなのかしらね」
ヒビキの言葉は完全な妄想で全くの事実無根だが、イサミもそれを想像した。イサミはルルとスミスの様子を観察する。スミスはルルの言うことに耳を傾け、彼女に向き合っている。未だに彼としっかり向き合えていない自分とは大きな違いだ。
「同じように懐かれてるのに、なんで俺は巨大ロボットで、アイツは女の子なんだ……」
「アハハ……どうしてだろうねー」
ヒビキは同僚の発言に言葉を濁しつつ同情するのだった。