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    Layla_utsusemi

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    一次創作【空蝉日記】のショートストーリー。星月叶夜くん回。

    【空蝉日記 短編】夜明けの暇乞い「はい……成る程、分かりました。いえ、構いません。僕としては本来の役目ですから。ええ……では明後日には出発します。」

    僕が電話越しに紡いだ言葉は『それじゃあ失礼します』の一言で締め括られた。

    突然、生まれ故郷の村のお偉いさんから電話がかかってきたと思ったら、どうにも猛暑の影響で大規模な干ばつが起きているらしく、農作物に多大な悪影響を及ぼしているのだそうだ。
    それに連鎖して、熱中症や食中毒等の体調不良を訴える者も頻出しており、流石の村の者達も僕にSOSを求めてきたとのこと。

    僕はその村──三精村の村長夫妻の息子だった。
    こうして村の者に頼られるのは本来なら当然の立場なのだが……如何せん僕の家は、ほぼ没落しているも同然だった。屋敷は放火に遭い……いや、その犯人が誰かはもう知ってるんだけど。

    両親が亡くなって、僕もそんな場所にずっと残ってたら気が狂いそうで、大分周りに無理を言って東京に越してきた。

    僕の家系は代々とある月の神様の子孫──所謂「現人神」として扱われており、僕と僕の母、そして僕の兄もまたその血を継いでいた。
    普通なら兄の方に連絡が行くものだが、あの人もまた僕が幼い頃に村を離れ、それ以降も関わりが無いようだったから、必然的に頼るとなれば僕しか居ないらしい。

    「星月家」の者は、この様な災害・疫病等に対処すべく、神の力を使用する。僕は、兄や母と比べると力は弱いが。



    それから数日後。新幹線を乗り継いで訪れた故郷の空気は、東京のそれより澄んでいた。
    出発前、超大金持ちである学校の先輩に『ヘリを貸そうか?』等と言われたが、流石に遠慮した(ちょっと乗ってみたかったけど)。

    「星月様!お待ちしておりました!」

    「御足労いただき感謝します……!」

    「あぁ、お出迎えありがとう。皆、久しぶり。」

    来て早々、多くの村人に囲まれ歓迎と挨拶の嵐である。有難いことに村の旅館が僕専用の一室を用意して下さったようで、周りの人達に荷物まで持ってもらった。逃げるように村を出てから年に数える程度しか姿を現さないのに、こんなに施しを受けていいのかと少し申し訳なくなる。


    「──農作物の不作はいつ頃からですか?」

    「先月の頭に。その頃に体調不良者も……。」

    田舎ではあるが寂れた村という訳でも無く、連なる民家は由緒ある日本家屋ばかりだ。それでこの被害なのだから、やはり自然の驚異とは恐ろしい。

    僕はあらかた村の状況を確認した後、司祭を呼んで本格的な儀式を執り行った。かつて母に習った手順通りに進める。周りの司祭は僕へ向けた祝詞を読んでいる。以前も同じ形で儀式を執り行ったことがあり、その時も上手くいったから今回の干ばつもこれで解決するだろう。

    それより僕が気がかりだったのは……。


    「あの、星月様。ご両親へのご挨拶は……。」

    「……あぁ、行くよ。」


    今はもうこの世に居ない父さんと母さんへの挨拶。勿論、久しぶりに帰省したのなら顔を見せる以外に択は無い。会いたいけれど、怖い。

    そんな二律背反を抱えながら、僕は二人が埋葬されている墓地へ向かった。心配した顔の村人に付き添いが必要か聞かれたが、断った。


    「──久しぶり、父さん、母さん。」

    墓地の最奥。少し開けた場所に二人は居る。綺麗に手入れされた墓石の前には大量の花。今でもお参りに来てくれる村人が居るのだと知り安心した。

    「この花、綺麗だね。確か母さんの誕生花だよね。誕生日の時にお供えしてもらったのかな。」

    ──僕が最期に見た親の姿は、火の海の中で泣き叫びながら僕を逃がした、あの顔。

    「昔は結構緊迫してたけどさ、最近、三精村も落ち着いてきたね。」

    ──次に見たのは、もう既に遺骨の状態だった。その直前の姿は……村の人達が、まだ幼い僕にはとても見せられないと言って会わせなかった。
    僕も、見たくなかった。

    「高校、楽しいよ。友達も結構多いし。先輩もさぁ癖の強い人達ばかりで。僕と同じ高校生なのに一人暮らしの人が居るんだけどさ、その人なんか特に酷くて。でもなんやかんやよく助けてくれるんだよ。優しいのか怖いのか分かんないよね。」

    二人の横にゆったりと座り込む。親と共に居た時間より、一人で生きた時間の方が長い僕は、どれだけかつての二人の体温を覚えているのだろう。

    「僕、成績結構良いんだよ。たださぁ、同じクラスに記憶力抜群の奴が居て、最近張り合ってる。まぁ良い奴なんだけどさ。」

    ──その同じクラスに、父さんと母さんを殺した放火の犯人も居るんだよなんて、とても言えなかった。二人を殺した人と和解して、今も仲良くしてるんだよなんて、言えない。

    「……僕、このまま大人になれるかな。」

    不安がないと言えば嘘になる。親が居ないというだけでこの社会では一体どれだけのハンディキャップになるのか。自らの生い立ちだって、簡単に他人に語れるようなものでないのは自覚している。

    ……僕はこれからもあらゆる後ろ暗いものをひた隠しにしながら、生きていくのだろう。

    「……それじゃ……また来るね。ばいばい。」

    そっと墓石の傍から立ち上がり、数歩歩いた後、振り返ってお別れの挨拶を口にした。



    両親への墓参りを終わらせて宿泊施設に着いた頃にはすっかり夜が深けていた。豪勢な食事を頂き、久しぶりに暖かな湯に浸かると、先程までの寂寥感が少し晴れていくようだった。

    部屋に戻ると、薄闇の中にほのかに枕元を照らす光に気がついた。はっと気づき窓を開けると、空には輝く星屑と満月が浮かんでいた。まるで、さっき訪れた僕にお礼を言いに来たかのように。

    ───夜が明けてしまえば二人の姿は見えなくなり、また明日から僕は普通の高校一年生として生きていくのだろう。

    でも今なら、大丈夫。こうして見守ってくれていること、もう全部知ってるから。

    だから最後に、もう一回ちゃんと、お別れの挨拶を。またここに戻って来る日まで。


    (ばいばい、母さん、父さん。)
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